学び!とシネマ

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ロスバンド
2022.02.09
学び!とシネマ <Vol.190>
ロスバンド
二井 康雄(ふたい・やすお)

FILMBIN AS © 2018 ALLE RETTGHETER FORBEHOLDT

 ノルウェーから、力強く、ほほえましい映画が届いた。「ロスバンド」(カルチュアルライフ配給)だ。
 ロック好きの若者たちが、決勝大会に出ようと、車で旅をする。ただそれだけの映画なのに、ぐいぐいと惹き付けられる。
 ドラムをたたくグリム(ターゲ・ホグネス)と、ギター兼ボーカル担当のアクセル(ヤコブ・ディールード)は、ロスバンド・イモターレというロックバンドを持っていて、いつかロック大会に出ようと、練習に励んでいる。
 たぶん、15歳か16歳くらいだろう。グリムは、初めて聴いたライブで、有名なドラマーから、サイン入りの写真をもらって、日頃の励みにしている。
 ギターの達者なアクセルは、かなりの音痴なのに、本人はまったく自覚していない。大会に提出したデモテープは、グリムが、音程補正ソフトで修正したものである。
FILMBIN AS © 2018 ALLE RETTGHETER FORBEHOLDT 結果、予選をパスして、決勝大会に出る資格を得る。
 大会の開催は、ノルウェーの北の町トロムソ。メンバーが二人では、いささか頼りない。そこで、ベースが弾けるメンバーのオーディションを開く。やってきたのは、たった一人、9歳の女の子ティルダ(ティリル・マリエ・ホイスタ・バルゲル)だ。
 ティルダは、まだ幼いけれど、バッハの「無伴奏チェロ組曲」を弾きこなすほどの腕前で、なにより、気が強い。
 「本物のバンドは、車でツアーだ」とアクセル。そこでグリムは、自転車修理工場を営む一家の次男坊、マッティン(ヨナス・ホフ・オフテブロー)に声をかけ、なけなしのバンド預金で運転手として雇う。
 いわゆるロードムービーである。ノルウェーの家庭事情の実例がいくつか示され、ドラマには多くの伏線が用意されている。
 少年たちや女の子には、まったく、問題がないわけではない。それぞれがなにがしかの「訳あり」をかかえている。
FILMBIN AS © 2018 ALLE RETTGHETER FORBEHOLDT トロムソへの旅は、決して楽な旅ではなく、さまざまな「事件」が起きる。
 かといって、ドラマはシリアス一辺倒ではない。むしろ、軽快な笑いが用意され、ほどよい振れ幅が楽しめる作りである。
 ノルウェーのロックには、まったく馴染みはないが、ラスト近くで演奏される「Walk Your Own Way」と「Feel」が聴こえる頃には、心震え、思わずこみ上げてくる。そう、歌の通り、自分自身で決めた道を、歩めばいいのである。
 監督は、クリスティアン・ロー。日本で公開されるのは、これが初めてと思うが、少年少女を描かせては定評のある作家だそうだ。
 ちなみに、ノルウェーという国は、民主主義度と世界報道自由度のランキングで、世界一位である。
 「ロスバンド」といった、自由な、痛快な映画が作られるのも、当然だろう。

2022年2月11日(金)より、新宿シネマカリテ他にて公開!

『ロスバンド』公式Webサイト

監督:クリスティアン・ロー
出演:ターゲ・ホグネス、ヤコブ・ディールード、ティリル・マリエ・ホイスタ・バルゲル、ヨナス・ホフ・オフテブロー 他
原題:LOS BANDO/ノルウェー・スウェーデン/2018年/94分/カラー/ノルウェー語・スウェーデン語/シネマスコープ/5.1ch/映倫PG-12
後援:ノルウェー大使館
配給:カルチュアルライフ
宣伝:VALERIA