学び!とPBL

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コロナ禍の中で「学校とは何か」を考える
2022.08.22
学び!とPBL <Vol.53>
コロナ禍の中で「学校とは何か」を考える
三浦 浩喜(みうら・ひろき)

1.忍び寄る黒い影

図1 福島市チームのブースに人だかり 「生徒国際イノベーションフォーラム2020」(以下ISIF’20)まで半年と迫った2月、福井大学が中心となって、高校生のワークショップが開催され、これまでネットワークに参加して活動してきた多くの高校生が集まりました。福島チームも参加し、台湾との交流や高校生フェスティバルの発表を中心としたポスターセッションを行ったところ、多くの高校生がブースに集まり、大きな関心を集めることができました。学習会の進行を仕切るなど、福島市チームの活力は際立っていました。しかし、元気だった日常はこれが最後となりました。
図2 生き生きと実践を語る福島市チーム 同じ頃、中国では武漢市から始まった新型コロナウイルス感染症が世界に拡大し、日本でも感染者が少しずつ報告されるようになっていきました。「ISIF’20が開催される夏までには落ち着くだろう」と高をくくっていたところ、2月末には全国の学校に対して休校要請が、4月には緊急事態宣言が発出されました。人と人が接するあらゆる集まりを自粛することとなり、当然のことながら、イノベーションスクールの福島市チームも対面の会議はできなくなってしまいました。対面のISIF’20をやるかどうかを5月に判断する予定でしたが、「状況的に無理」と4月中に早々に諦めました。

2.オンラインは私たちの強み

 OECD東北スクール以来、私たちのメンバーは広域に散在していることから、否応なしに、SkypeやLINE、Facebookなどのオンラインツールを使ってコミュニケーションを取ってきました。むしろ、お金をかけずに、海外も含めてフラットにコミュニケーションを取ることは重要な課題でした。これまでも普通にZOOMを使っていたので、対面の会議をオンラインに変えても高校生のダメージはそれほどありませんでした。「ZOOMって何、どうやって使うの?」「Slackの使い方がわからない」と慌てふためいている学校現場をよそに、私たちは至って冷静でした。
 ISIF’20は完全オンラインで実施することとなり、実行委員会も、サポーターの募集も全てWebを介して進めることになりました。ホームページを会場にして、ZOOMやSlackをメインツールにして、オンラインでサイン帳も作ろう、すべてがバーチャルだと消えてなくなってしまうから、参加証や記念グッズを作って、リアルに価値を共有しよう、と高校生を中心に、話しはふくらんで行きました。経費がかかるからと参加を見合わせていた海外の仲間も、オンラインなら参加できると、実行委員会にも入ってくれるようになりました。

3.学校のWell-Beingって?

 未来の学校を考える、というのがISIF’20の目的でしたが、生徒たちと話すと自ずと現下のコロナウイルスの話題となり、うちの学校は全員端末を持っているので登校しているのと同じタイムスケジュールで勉強できている、という生徒もいれば、うちは課題を印刷した紙の束が送られてきて1日の生活リズムはひどい状態、という生徒もおり、それぞれの地域の「学校自慢」で大いに盛り上がります。同じ高校生なのにどうしてこうも違うのか。大学進学に大きな差が生じてしまうのではないか。であるなら、学校は本当に全ての生徒にとっていいものなのだろうか。逆に、全ての生徒にとっていい学校とはどのような学校なのだろうか……。

図3 OECDのBetter Life Indexと日本の評価(Educationの評価が高いが本当だろうか?)

 学校をOECDのBetter Life Indexに重ねて議論し、「学校のWell-being」を考えると面白いのではないか、というアイデアが出ました。Better Life Indexは、OECDが定義する、よりよい暮らしの指標で、11の分野(住宅、所得、雇用、社会的つながり、教育、環境、市民参画、健康、主観的幸福、安全、ワークライフバランス)について、OECD加盟37カ国とブラジル、ロシア、南アフリカを加え、あわせて40カ国の指標を比較できるようになっています(*1)。学校を生徒たちの暮らしの場として見た場合、教育だけではなく、建物の環境や、生徒や教員らの関係はどうなっているのか、生徒の考えは学校に活かされているのか、勉強や部活動に追いまくられていないのか、等たくさんの疑問が湧いてきます。「所得」にしても、学校はちゃんとお金の稼ぎ方や使い方を教えているのか、「雇用」で言えば、学校は将来の職業に結びつける教育をしているのか、と、話し始めると切りがありません。
 11の指標に沿って参加者でグループを作り、それぞれの内容について国内外から様々な意見を集めると、とても有意義な話し合いになる、と確信しました。コロナ禍の生徒たちのリアルな姿が、ISIF’20の方向性を固めることとなりました。

図4 ISIF’20への参加を呼びかけるフライヤー
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*1:https://www.oecd.org/tokyo/statistics/aboutbli.htm