学び!とPBL

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何のためのプロジェクトだったのか?
2022.07.20
学び!とPBL <Vol.52>
何のためのプロジェクトだったのか?
三浦 浩喜(みうら・ひろき)

1.「生徒国際イノベーションフォーラム2020」に向けて

図1 ISN(地方創生イノベーションスクール)の研究会の様子 2019年12月、OECD日本イノベーション教育ネットワーク(ISN)に加入している各地の高校生たちが、とある高校に集まりました。定例の研究会の開催と、翌年に予定されている「生徒国際イノベーションフォーラム2020」の実行委員会を結成するためです。すでに開催地の候補も挙がっており、海外から高校生や先生方を招くための会場をこれから決めていきます。
図2 ISN研究会の討論のテーマ 2017年に開催した第1期の「フォーラム」(Vol.28 生徒国際イノベーションフォーラム① を参照)は、生徒自身による「生徒共同宣言 Our Voice in 2017」(Vol.30 生徒国際イノベーションフォーラム③ を参照)を最終目標に設定して、学びを展開しました。それに対して、第2期は、加盟高校が増えたものの、ここまでの取組で「プロジェクト学習の学校への拡大」をめざして、高校生と大人とで研究会を重ねてきましたが、何のための「プロジェクト学習」なのか、全体として何をめざすのか、拡散していました。よって成果発表の中身らしき中身が見当たらず、この「フォーラム」を組み立てながら、中身をつくっていくしかありませんでした。震災からの復興を目的とした「OECD東北スクール」、そこからの学びを全国に広げようとした「地方創生イノベーションスクール2030(第1期)」、そしてその学びをさらに学校に落とし込もうと始めた「地方創生イノベーションスクール2030(第2期)」でしたが、震災からすでに8年も経っており、プロジェクト全体が目的を見失っていたと言わざるを得ません。

2.OECD東北スクールのスピリット

 協力をいただいているOECDの教育スキル局からアナリストが来ており、その場で、大人のコアメンバーで意見交換をしました。「プロジェクトを通して、生徒がどのように成長したのかわからない」「プロジェクトとは無関係に、立派な実践をしている有名高校を集めても意味がない」「本当に必要なのは、地方の、様々な課題を抱えている当たり前の高校が参考になるような実践」「立派な実践のショーケースのようなものだったら、OECDは興味がない」、そして「東北スクールのスピリットがなくなってしまったのではないか?」と、これまで計画通りに進めてきたプロジェクトの、根底を揺さぶるような鋭い意見が出されました。確かに、知らず知らずのうちに、最終的に立派なものを並べればいいという、成果主義・形式主義に陥っていたことを痛感しました。
図3 生徒の言葉がヒントに 「どんな小さな実践でもいい、本当に困っている生徒や教師が一緒になって、課題を解決し、それによって双方が成長した、そんな実践を期待している」と言われ、教育実践の原点に返った思いがしました。私たちの代表の鈴木寬先生は、よく「大人はすぐに立派な形にしたがる、その実はみんな「板挟み」にあい「想定外」で苦労している。その苦労そのものが21世紀の学習だ」と言います。まさにその「板挟み」や「想定外」を乗り越える体験と知恵が必要だったのです。OECDラーニングコンパス(Vol.23 Education 2030と新しいコンピテンシーの定義② 参照)で言えば「変革を起こす力」の中の「対立やジレンマに対処する力(Reconciling tensions & dilemmas)」「責任ある行動をとる力(Taking responsibility)」に該当します。

3.「未来の学校」を考える

図4 OECDのBetter Life Index 後にとても重要になる それでは、何をめざして来年の「フォーラム」を組み立てるか? 参加していた一人の生徒が「未来の学校について、みんなで意見を述べ合うというのはダメですか?」と言ってきました。OECD東北スクールの「生徒大人合同熟議」では「2030年の学校」をテーマに議論しました。また、第1期の「フォーラム」で「共同宣言」をつくりましたが、具体的なアクションにまで至っていません。「それはとても面白いんじゃないか!」ということになり、曖昧ではありますが、漠然とした方向性が見えてきました。
 未来の教育、それも行政や大人ではない、生徒自らが学校や教育のあり方を考えることがとても新鮮で、本質的です。
図5 ISNの研究会はいつも生徒と大人がフラットに議論 終わりの挨拶で次のように述べました。「これから、来年の8月に向けて生徒国際イノベーションフォーラム2020をつくっていきます。世界の学校は様々な問題を抱えており、生徒も先生も苦労しています。OECD東北スクールが大震災からの復興をめざして、生徒と大人が協力して進めたように、これから学校や教育の問題をどうしたら解決できるのか、みんなで考え、どんな小さなことでもいいから実践してみましょう。8月までに立派な実践などしなくてもいい、中途半端でも、問題解決の糸口になればそれで構いません。ここから再起動です!」

 しかしちょうど同じ頃、海の彼方中国から始まった「暗い影」が見る見るうちに世界を覆い始め、私たちのプロジェクトも大きな影響を受けることになるのです。