学び!とPBL

学び!とPBL

「社会づくりの実験」としてのフォーラム
2022.10.20
学び!とPBL <Vol.55>
「社会づくりの実験」としてのフォーラム
三浦 浩喜(みうら・ひろき)

1.生徒たちの意見表明

図1 ISIF2020の様子 生徒国際イノベーションフォーラム2020@online(以下、ISIF2020と略)での「学校のWell-being」の議論で、印象に残った意見を以下に記しておきたいと思います。

【仕事】

  • 探究プロジェクトは、生徒が将来のキャリアについて考える機会をもたらしている。
  • 安定を求める職業選択ではなく、自分のやりたい職業を選べるよう、必要なスキルを身につける必要がある。
  • 勉強のスキルと生活のスキルのよいバランスが保たれている学校を先生と生徒がいっしょに創る。

【収入】

  • 日本では、学校内でお金に関して話すことは一般的にタブー視されている。
  • 多くの生徒が、インターンシップを導入してほしい、起業家を学校に招いてビジネスを始めるワークショップ開催してほしいと考えている。
  • 様々な職業に関して、忙しさや収入などを理解し、生活をリアルにシミュレーションする。これにより日本の相対的貧困率の問題などを学ぶ。またお金の価値を知ってお金を自己管理できるようになる。

【住居】

  • 中庭などの曖昧なスペースは、教室でのストレスから生徒がリラックスできる場所である。偶然に違う学年の生徒たちが出会って友達になれるような場所が必要。
  • 教室での授業をスムーズにし、学校の外ともつながり、授業内外での生徒からの質問に先生が対応する時間を節約するための、安全で安定したインターネット環境が整っている学校がいい。

【ワークライフバランス】

  • コロナ禍の学校で生徒は多くの宿題が出され、コミュニケーションをとることが難しい。
  • 生徒主体の体験型授業(例えば、実体験、授業や教科書で扱ったものを見る、生徒による教え合いをしてアウトプットの機会を持つ、生徒主体でグループでの話し合い)がほしい。

【安全】

  • 幾つかの学校はきちんとした安全対策を行っておらず、生徒の安全を脅かしている。例えば、夜間の授業は女子にとっては安全でない、多くの課外活動により生徒は家に帰るのが遅くなる(例えば夜8時)、ロッカーに施錠ができない、など。
  • 生徒たちは、人間関係においても、人種差別やいじめなどに不安を感じている。
  • 生徒が主体となった環境づくり・生徒が安全な環境づくりに関わっていく。例えばICTを安全を学ぶために活用する。例えば、VRによる避難訓練、詐欺メールのシミュレーション。

図2 未来の学校のキーワードを樹で表した【生活満足度】

  • 生徒たちは先生とのコミュニケーションに困難が生じたり、授業が一方的に教えられていると感じる時にネガティブな感情を持つ。
  • 生徒と教師が平等な立場になれる環境を創ることが必要。
  • テクノロジーを活用する。ゲームで学ぶやる気の向上を図る。他の国とつなぐ。教室の学びとオンラインでの学びの両立、課題(宿題)はオンライン・コンピューターで。教え方もゲームなどを活用してもっと楽しく。

【健康】

  • 生徒たちは、十分に睡眠がとれておらずストレスを感じている。精神的な健康への影響は、肉体的な健康にも悪い影響をあたえていく。ストレスは、先生と生徒間のコミュニケーション不足や誤解による場合もある。
  • フレキシブルな学び、競争を少なくする、記憶する学びを少なくする。
  • 試験や宿題の本質を変える:数字で評価する試験を再考し、質の高い課題やクイズなど、努力・プロセスを評価するものに変えていく。

【市民参加】

  • 生徒の学校での市民としての活動は、校則や行事を組織するときに重要な役割を担う。しかし、何人かの生徒は、生徒の学校での市民としての活動に興味を示さない。
  • 先生には、生徒の話をもっと聞いてほしい。生徒と先生が平等なパートナーとして、オープンで健康的な対話ができるように。

【環境】

  • 生徒たちは、木や花を植えたり、実験的なプロジェクトを通して環境にやさしいキャンペーンを実施したりするなどして、地域コミュニティと関わることで、人々の意識を高めたいと考えている。
  • 学校における「緑の文化」を伴った、環境にやさしい文化づくり。エネルギー効率の良い学校環境づくり。社会への「リアルな影響・インパクト」を目指した、生徒が自分事として取り組む活動を増やす。

図3 2日間の議論を1つの絵にまとめた【教育】

  • 自分たちの思考力を育ててくれる授業が、将来のためには大切である。
  • 生徒を中心にした、生徒主体の学び:a)柔軟なカリキュラム(生徒が何を学ぶかを選択できる)、b)ライフスキルが組み込まれている、c)Eラーニングを活用した柔軟な学びの環境と、ソーシャルメディアの学びの基盤としての活用、d)柔軟で適応性のある校則。
  • 社会問題を解決する組織としての学校(探究)+ 教科の学びの連携。

【コミュニティ】

  • 高校は地域コミュニティによりサポートされ、コミュニティの人々のコメントやアドバイスと関わっていることを認識することが大切である。
  • お互いにコミュニケーションをとるための新しいプラットフォームを構築する。

2.日常性からの「ずらし」

図4 ISIF2020への寄せ書き 予想以上に生徒たちはISIF2020 に思い入れ、その意欲はバーチャルではない、リアルそのものでした。通常とは異なる角度からの議論に、出てくる意見も新鮮でした。日常性からの「ずらし」が、有効に作用したものと考えています。学校文化を突き放す、という意味で今後も活かしていけそうな気がします。全体を通して、ネット上のイベントの典型例をつくることができたのではないかと考えています。
 生徒たちが次の社会の建設者であるなら、学校を含めた教育は、その社会づくりのトレーニング、というよりも実験でなければならないでしょう。「自分たちの世界」をつくるために様々な試行錯誤が許され、それが成功体験となって、初めて「社会づくり」のイメージが形成されるのだと思います。その意味で、このバーチャルなフォーラムは、その「社会づくりの実験」の一つの例を示したと言えます。「学びの対象」ではなく「学びの主体」として、一人ひとりのキャラクターが立ちあがってくること、それがEducation2030が言うところの「エージェンシーAgency」と言えるでしょう。

図5 リアルで贈られたISIF2020の参加証明書