学び!とシネマ

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シスター 夏のわかれ道
2022.11.24
学び!とシネマ <Vol.200>
シスター 夏のわかれ道
二井 康雄(ふたい・やすお)

© 2021 Shanghai Lian Ray Pictures Co.,Ltd. All Rights Reserved

 見知らぬ弟が、急に現れて、姉になる。弟は6歳、姉は看護師をしながら、医者になるために、北京の医科大の大学院を目指している。一人っ子政策が背景にあっての姉と弟の存在である。
 映画「シスター 夏のわかれ道」(松竹配給)の舞台は、中国・四川省の成都。
 アン・ラン(チャン・ツィフォン)は、医者を目指して、受験勉強に励んでいる。大学入試を勝手に決められた両親とは疎遠で、いまは看護師として働いている。
 突然の車の事故で、アン・ランの両親が亡くなる。6歳の弟ズーハン(ダレン・キム)の存在を知って、驚くアン・ラン。
 跡継ぎの欲しかった両親は、アン・ランが家を出た後、待望の男の子、ズーハンをもうける。
 葬儀が終わる。父方の伯母、アン・ロンロン(ジュー・ユエンユエン)と、母方の叔父、ウー・ドンフォン(シャオ・ヤン)は、ズーハンを育てるのは、姉のアン・ランだと決めつける。
© 2021 Shanghai Lian Ray Pictures Co.,Ltd. All Rights Reserved 悩んだ末、アン・ランの結論は、ズーハンを養子に出すことだった。
 養子先が見つかるまでは、とりあえず、アン・ランがズーハンの面倒をみることになる。
 うまくいくはずがない。両親の死の意味をまだ理解できないズーハンは、食事ひとつでも、わがままそのもの。「ママに会いたい、パパに会いたい」と叫ぶ。
 アン・ランには、病院での仕事もある。叔父の助けも借りながらの子育ては、やっかいなことばかり。
 ある日、養子先が見つかるのだが…。
 アン・ランは、自分の決めた道を選ぶのか、ズーハンとともに暮らすのか、人生の大きな岐路にさしかかることになる。
 時代は、まだ一人っ子政策が有効だった頃である。なぜ、複数の子どもが可能だったかの理由は、映画の中で、きちんと説明されている。
 また、いまだ、家父長制そのものが存在し、そこそこの家庭では、男子が家督を継ぐのが当然と思われている。
 当然、女性だからという理由だけで、自由な人生を選べない。
© 2021 Shanghai Lian Ray Pictures Co.,Ltd. All Rights Reserved 映画は、姉と弟の、とりあえずは短い日々を描きつつ、中国という国の、確かな実情を、丁寧に掬いとっていく。
 ズーハンを演じたダレン・キムが、短いけれど、場にぴったりのセリフで、涙を誘う。これが映画初出演、すでに名子役らしい。
 アン・ランを演じたチャン・ツィフォンは、「唐人街探偵 東京MISSION」に出ていたので、覚えている人も多いと思う。役の設定より、いくぶん若く感じるが、気強く生きる女性を、カラッと演じて、好感度大。まだ、北京電影学院に在学中とのこと。
 麻雀好きの叔父役のシャオ・ヤンは、俳優、監督、脚本家で、ミュージシャンでもある才人だ。
 伯母さんに扮したジュー・ユエンユエンが、控えめながら、貫禄の演技。家督継続の犠牲になる過去がありながら、姉弟に寄り添う難役を、演じきる。
 8年前になるが、舞台となった成都に、5日ほど滞在したが、雨の多い街だった。年に100日ほど雨が降るという。この時も、小雨ではあるが、2日ほど、雨だった。
 映画でも、何度か、雨のシーンが出てくる。観客の心に、じんわりと訴えてくる。まるで、涙を誘うかのように。
 こんなすてきな映画を撮ったのは、イン・ルオシンという女性で、これがまだ、長編2作目という。
 子どもをめぐっての映画は、中国に限らず、これからも多く作られることと思う。多くの傑作が生まれるといいなあ。

『シスター 夏のわかれ道』公式Webサイト

監督:イン・ルオシン
脚本:ヨウ・シャオイン
出演:チャン・ツィフォン、シャオ・ヤン、ジュー・ユエンユエン、ダレン・キム
2021年/中国語/127分/スコープ/カラー/5.1ch/原題:我的姐姐/日本語字幕:島根磯美
配給:松竹