学び!とシネマ
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ALL RIGHTS RESERVED ©2022. CHHELLO SHOW LLP
インドは映画大国で、言語の異なる、多くの映画が作られている。映画「エンドロールのつづき」(松竹配給)は、グジャラート語で語られる映画だ。
インドのグジャラート州の田舎に住む9歳の少年、サマイ(バヴィン・ラバリ)は、小学校に通いながら、父親(ディペン・ラヴァル)の営むチャイの店を手伝っている。
厳しい父親は、映画は低劣なものと決めつけているが、カーリーという女神を扱った映画は例外で、一家4人で、「カーリーの奇蹟」という映画を見るために、町にあるギャラクシー座という映画館に出かける。
満席のなか、なんとか席につく。サマイは驚く。スクリーンには、唄い踊るシーンが出てくる。映写機からの光を、サマイは見つめる。
翌日、学校を抜け出して、サマイはギャラクシー座に潜り込む。チケット代の払えないサマイは、当然、つまみ出されてしまう。
ALL RIGHTS RESERVED ©2022. CHHELLO SHOW LLP サマイは、いつも、料理上手な母親(リチャー・ミーナ―)の作るお弁当を持っている。映写技師のファザル(バヴェーシュ・シュリマリ)は、たまたま口にしたサマイのお弁当に驚く。旨いのだ。ファザルはサマイに提案する。「お弁当と交換で、映写室から映画を見せよう」と。
サマイの映写室通いが始まる。サマイは、映写室の小窓から見えるインド映画に、すっかり、魅せられてしまう。
映写室で、サマイはファザルからいろんなことを学ぶ。映写機の仕組みや、映画そのものとは何かといったことまでも。
当然、サマイは、「大きくなったら、映画を作ろう」と思うようになっていく。
連日のようにギャラクシー座に通っていることが、父親の知れることになる。父親は、サマイの映画館通いを禁止する。
サマイは挫けない。仲間と語らって、なんと、フィルムの断片を、自作の映写装置で、母親の白いサリーに映写しようと試みる。
サマイの映画への愛は、ますます深まるばかり。映画を作ろうとの夢もしかり。
そんな折、ファザルから、サマイたちが驚くような、ある知らせが届く。
過去の傑作や名作にオマージュを捧げたシーンが出てくる。
映画の冒頭、チャイのお店がある駅のホームに列車が入ってくる。リュミエール兄弟の「ラ・シオタ駅への列車の到着」そのものではないか。
ALL RIGHTS RESERVED ©2022. CHHELLO SHOW LLP 映写室にいるサマイの顔に、光が当たる。これは、スタンリー・キューブリック監督の「2001年宇宙の旅」だろうか。
サマイがマッチの炎を見つめるシーンがある。デヴィッド・リーン監督の「アラビアのロレンス」ではないか。
トロッコの出てくるラストシーンは、アンドレイ・タルコフスキーの「ストーカー」と思われる。
脚本を書き、製作、監督したのは、サマイと同じく、幼少の頃から、映画作りを夢見ていたパン・ナリン。映画での、サマイの経験した出来事のいくつかは、監督自身が経験したことと重なる。いわば、パン・ナリン監督の自伝的な映画でもある。
エンドロールのなかで、パン・ナリン監督は、「道を照らしてくれた」として、世界じゅうの多くの映画監督たちに感謝を表明している。日本の監督では、勅使河原宏、小津安二郎、黒澤明の名がある。
「ニュー・シネマ・パラダイス」の少年トトもまた、映画を見て、映画を作りたいと思う。サマイもまた、映画の世界に憧れて、羽ばたこうとしている。
どのような夢を持ち、どのような職業を選ぼうと、自由である。そして、夢の実現に向かって、歩み出すこと。
サマイの瞳の輝きに魅せられる。新年早々、見るにふさわしい、爽やかで優れた映画と思う。
2023年1月20日(金)より、新宿ピカデリー
、ヒューマントラストシネマ有楽町
、シネ・リーブル池袋
ほか全国公開
■『エンドロールのつづき』公式Webサイト
監督・脚本:パン・ナリン
出演:バヴィン・ラバリ
2021年/インド・フランス/グジャラート語/112分/スコープ/カラー/5.1ch/英題:Last Film Show/日本語字幕:福永詩乃
応援:インド大使館
配給:松竹