学び!とESD

学び!とESD

ESDと気候変動教育(その12) ESDと若者の声
2023.01.16
学び!とESD <Vol.37>
ESDと気候変動教育(その12) ESDと若者の声
永田 佳之(ながた・よしゆき)

傾聴されるべき若者の声

 ESD論ではよく、持続可能な未来の創造にとって若者はこの上なく重要であるという主張が展開されてきました。しかし、ESDの発展の歴史の中でどれだけ未来世代とも呼ばれる若者の声に私たちは傾聴してきたのでしょう。
 近年、スウェーデンの環境活動家、グレタ・トゥーンベリさんの影響もあり、多くの若者たちが気候ストライキやデモに参加し、声を枯らさんばかりに「私たちから未来を奪うな」と地球規模の危機的状況を訴えていますが、彼(女)らの声を真正面から受けとめ、新たな社会形成に生かしていこうとする大人はどれだけいるのでしょう。
 ユネスコ本部のESD推進の国際委員を筆者が務めていた10年余りをふり返れば、大人がよしとする社会像のもとに議論をし、大人が決めた枠の中で若者の活躍が期待されるという図式が国連ですら当然視されていました。政策に影響を与えようとする議論に若者の声は不在であったのです。
 持続不可能であると言われるこの時代でまずもって求められるのは若者への傾聴ではないでしょうか。自分たちの未来を自分たちでより良くしていこうとする若者に傾聴することなくして、持続可能な未来の構築など覚束ないと言えましょう。このように考えていたとき、漸次にではありますが、若者の声が積極的に国連のレポートに取り入れられるようになったことに注目したいと思うのです。

若者は授業をどう捉えているか

 ここで世界の若者の声の一端を届けたいと思います。紹介する声は、前号(「学び!とESD」No.36)で扱ったユネスコの報告書『質の高い気候教育を求める若者たち』(*1)の中に盛り込まれた未来世代の声です。(〈 〉内はユネスコ報告書の編者による補記)。
 この報告書では、各国で行われている気候変動に関する教育がいかに時代遅れであるかを示すデータが掲載されていますが、持続可能な未来への備えが不十分な学校教育に対する若者の認識には実に手厳しいものがあります。モロッコ並びにチュニジアで学ぶ23歳の若者は次のように述べています。

「問題は教え方なんです。自然に共感したり、自然に対して尊敬をしたりするように、〈先生たちは〉人々や生徒を自然と結びつけてくれないんです。」

 各国の授業、特に都会の学校での授業では、自然に関する事実は学べても、自然とのつながりを実感できるような授業は少ないのでしょう。旧態依然たる一方的なティーチングに対して不満をもつ若者は少なくありません。ベトナムの17歳の若者は次のように述べています。

〈みずからを表現する余白が与えられていたかというと〉そうは思えないんです。なぜって、学校では先生はただ環境問題や期待されているプログラムについての話を伝えているだけだからです。問題について実際に考える余白がないんです。私たちは、ただ聴くようにとされてるんです(…)。

 習得すべき多くの内容に辟易としているのは日本の子どもたちだけではないようです。知識を教えてテストで確認するという伝統的な授業光景はいまだによく見られます。そこで問われているのは、教師の教え方なのです。若者たちが求めているのは量をこなすことではなく、質の問題、つまり深まりのある学びであって、それを促すような教え方、つまりファシリテーションが重要となります。アフリカのベニンの23歳の若者は次のように語っています。

みんなが討論に貢献できたり、行動を起こしたりできるようになるべきなんです。子ども相手の時は持続可能な開発や気候変動について話をする時でも、もっとアート、つまり絵を描くことやダンス、歌、ストーリーテリングを活用すべきです。そうすれば、子どもたちがトピックに関心を抱き、メッセージをよりよく理解できる手助けとなるでしょう。

 おそらく若者のこうしたニーズにどう応じて良いのか分からず困っている教師も少なくないでしょう。この点、教師に対する若者の見方はきわめて同情的でもあります。22歳のブラジルの若者は気候変動について教えている教師を次のように表しています。

先生は一所懸命にやってます。でも彼らには知識がなく、十分な備えがないんです。それで生徒は自分を表現する余白が持てなくなるんです。

 こうした教師の苦境に対して、25歳のナイジェリアの若者は次のような提言をしています。

そこで重要なのは、丹精を込めて作られた、生徒の学びの手助けとなる教材や、関連した素材やマニュアル、資料の手引きといったものを先生たちが得ることなんです。理解できていないときには生徒を支えることなどできないわけですから。

 以上のように未来世代の学校教育、特に「教え方」に対する捉え方には厳しいものがあります。ただ、ここで紹介した声は、これまでは本気で傾聴をされてこなかった世代の切実な訴えでもあると言えましょう。繰り返しとなりますが、こうした未来の担い手に傾聴しないかぎり、持続可能な社会の構築などは覚束ないのです。次回も今回、紹介しきれなかった若者の声を中心にお届けしたいと思います。

*1:報告書『質の高い気候教育を求める若者たち』(英文)
https://unesdoc.unesco.org/ark:/48223/pf0000383615