学び!とESD

学び!とESD

ESDと気候変動教育(その11) COP27とESD
2022.12.15
学び!とESD <Vol.36>
ESDと気候変動教育(その11) COP27とESD
永田 佳之(ながた・よしゆき)

30年越しの目標達成

 毎年11月か12月に恒例の開催となるCOP(国連気候変動枠組み条約締約国会議)ですが、第27回となる今年は11月6日から延長期間も含めて20日までの期間に開催されました。昨年のイギリスにつづくホスト国はエジプトであり、会場は「賢人の入江」を意味するシャルム・エル・シェイクという観光地が選ばれました。「計画を実行するCOP」を標榜した議長国のエジプトは、発展途上国が気候変動から受ける影響への適応策やこれまでの「損失と被害」への救済に関する議題を優先課題とし、温暖化による「損失と被害」を支援する基金の創設まで漕ぎ着けました。これは30年前から途上国が求め続けていた念願の目標でした。
 こうした成果は見られるものの、気候変動をめぐる現状はあまりに厳しいと言わざるを得ません。開会式のスピーチでグテーレス国連事務総長は「気候カオス」という表現を幾度か使用し、「私たちはクライメート・ヒルと呼ばれる丘を高速で登り詰めている。しかもアクセルを踏まずしてだ」と警鐘を鳴らしました(*1)
 基金創設という成果に多くの報道関係者の関心は向けられていたようですが、COPの歴史の中でも連綿と紡がれてきた教育についてはどのような成果が見られたのでしょう。昨年もこの時期にお伝えしたとおり(「学びとESD!」Vol.24及びVol.26)、前回のグラスゴーではメインの大臣レベルの会合に教育がテーマとして位置づけられるまでになりました。今年はどうかというと、前回に続いて若者に焦点が当てられ、以下に紹介するような当事者の声とともに報告書のデータが大臣会合に届けられたことが意義ある進展であったと思われます。

大臣会合のプログラム
出典)https://en.unesco.org/sites/default/files/cop27-ed-event-youth-demand-quality-climate-education-ministerial-session-cn-en.pdf

質の高い気候教育を求める若者たち

 COP27の開会5日目にユネスコは教育をテーマにした大臣級会合を開き、「質の高い気候教育を求める若者たち(Youth demand quality climate education)」というタイトルで議論の場を設けました(*2)。教育をテーマにしたイベントがかつてはサイドイベントとして位置付けられていたことを考えると、大臣級の会合が2年連続で開催されたことになり、気候変動における教育の重要性への国際的な認識が定着しつつあることがうかがわれます。このことはESD関係者の努力が少なからず作用しています(「学びとESD!」Vol.27を参照)。
 「学びとESD!」Vol.18でお伝えした「ベルリン宣言」では加盟国の「カリキュラムのコアに気候アクション」を位置づけることが謳われており、この本格的な実装化が各国に求められています。しかし、今回のタイトルにも現れているとおり、問われているのは気候変動教育そのものの「質」であり、気候変動教育が広まれば良いというわけではなく、それは効果的なアクションにつながるような質の伴った内容や手法でなくてはなりません。
 では、一般的な気候変動教育の何が問題か?あえて一言で言えば、地球規模の危機的な状況にあるのに、学校等では旧態依然たる伝統的な教科教育中心の気候変動に関する学習が展開されているという問題です。こうした時代の趨勢に適応していない気候変動関連の教育に対する不満が若者の間で募っており、英国などでは、時代に適合した気候変動教育を政府が具現化するように、若者から要請されている有り様です(「学びとESD!」Vol.24を参照)。
 上記の問題をより具体的に明らかにするために、ここではユネスコがCOP27の開催に合わせて提示し、上記の大臣級会合でも検討された報告書について紹介したいと思います。報告書のタイトルは上記のセッション名とほぼ同じ「質の高い気候教育を求める若者たち(Youth demands for quality climate education)」です(*3)。この報告書は世界中の若者を対象にユネスコが行った調査結果を示しています。調査では、世界中166カ国から17,471人の若者がオンライン調査に回答し、うち88%は11歳から19歳のティーンエイジャーです。国別の回答者数に偏りはあるものの、世界規模の気候変動に対する若者の意識調査として傾聴に値する結果であると言えましょう。
 回答した若者の中で「気候変動について聞いたことがあるけれど説明できない」者は27%で、「大まかな原理については説明できる」の回答者は41%、「まったく分からない」は2%でした。これは世界の若者が喫緊の危機に対して十分に備えられていないという現況を示しており、この未来世代への責任は現世代にあることは言うまでもありません。報告書では「英語の授業で気候変動について話し合ったけれど、どうやって温暖化の緩和をすれば良いのかについては話をしたことがありません。本当に一般的なことについて話をしただけで、具体的なことは話し合いませんでした。」というチリの19歳の若者の言葉が紹介されています。
図1 学校生活のどこに気候変動への工夫や努力が組み込まれているのか この調査では、学校生活のどこに気候変動への工夫や努力が組み込まれているのかについて尋ねています。6割が「学習内容と教授法」と回答しており、「地域との連携」は26%、「学校運営」は23%、「学校空間」は16%、「いずれでもない」は7%でした(図1参照)。何もなされていない学校は1割以下にとどまりますが、最も重視されてしかるべき学習面においては6割にとどまっています。
 教えている教科については、理科(自然科学)で教えてられていると回答した若者は50%で、複数の科目で習っているのは25%にとどまり、40%が単独の科目でしか習っていません。地域別に見ると、東・東南アジアが単独の科目で扱っている割合が最も高くなっています(38%)。

伝統的な枠内で教えられる気候変動

 報告書では、若者たちは気候変動に関する知識のみならず次のようなトピックを学びたがっていることも示されています。

  • 気候正義
  • エコ不安症の解消につながる社会情動的な学習(SEL)
  • 気候にやさしい(クライメート・フレンドリー)暮らし方やそのための実践的なスキルの習得
  • 気候変動に対応するための起業の仕方
  • 気候変動関連の政策への影響の及ぼし方

 これらはプロジェクト学習やPBL、体験学習などで習得されることが多いトピックですが、この調査では、プロジェクトを通して気候変動を学んだ若者は33%にとどまり、地域の組織や専門家との協働を体験した学生は12%、フィールド学習は9%にとどまっていることが明らかになりました。
 また、学校での気候変動アクションを誰がリードしているかについては53%が校長や教員などの大人たちであると回答しており、生徒や生徒会によるイニシアティブは20%、PTAや保護者と教師と生徒から成る委員会は18%にとどまっています(図2参照)。

図2 学校での気候変動アクションを誰がリードしているのか

 この結果は決して若者主導とは言えない学校教育の現状を示しています。近年、気候ストライキなどを通して自らの未来を持続可能なものにしようと必死に訴え続けている若者たちが必ずしも学校での活動の意思決定に関われていないという問題が浮き彫りにされたと言えます。
 以上、どちらかと言うと厳しい現実を突きつけている報告書の内容を紹介してきましたが、興味深いのは、今回は一部のみ紹介した若者たちの気持ちを代弁するような声がこの報告書には散りばめられていることです。次号では、大人世代が傾聴すべき、若者たちの言葉を紹介したいと思います。

*1:COP27におけるグテーレス事務総長のスピーチ
https://www.youtube.com/watch?v=YAVgd5XsvbE
*2:大臣級会合の様子は次から見ることができます
https://unfccc-events.azureedge.net/COP27_89387/agenda
*3:報告書「質の高い気候教育を求める若者たち」(英文)
https://unesdoc.unesco.org/ark:/48223/pf0000383615