学び!と社会

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授業にお役立ち!⑧ ESDとしてのエネルギー授業(2)
2023.05.01
学び!と社会 <Vol.17>
授業にお役立ち!⑧ ESDとしてのエネルギー授業(2)
広島修道大学教授 永田成文

(1)社会科におけるESDとしてのエネルギー授業の内容と方法

著者 与論島百合ヶ浜(大潮の干潮時)2022年5月 2014年にユネスコが示した「国連ESDの10年」の国際実施計画フレームワークでは、文化、環境、経済の三領域と各領域に属する15の重点分野が示された。エネルギーは、人間と自然環境との関係を考える環境領域の重点分野である自然資源の中で示されている。ESDの究極目標である学習者の行動の変革を促すことについて、具体的に17の目標として示したものがSDGs(持続可能な開発目標)である。目標7「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」では、すべての人々の、安価かつ信頼できる持続可能な近代的エネルギーへのアクセスを確保することが目指されている。社会科におけるESDとしてのエネルギー授業では、エネルギーと社会とのつながりを考察し、エネルギーの視点から持続可能な社会づくりを構想していくことになる。
 2017年の小学校学習指導要領の社会科において、エネルギーの安定供給にかかわる内容は第4学年の内容(2)「人々の健康や生活環境を支える事業」の飲料水、電気、ガスを供給する事業において、電気かガスを選択した場合である。また、第5学年の内容(3)「我が国の工業生産」の優れた製品を生産するための様々な工夫や努力としてエネルギーに着目することもできる。
 エネルギーの安定供給をテーマとする場合、〔存在〕〔有用〕〔供給〕〔安定〕〔持続〕の視点から、エネルギーと社会とのつながりやエネルギー問題を捉える【記述】、エネルギー問題の背景を考察する【説明】、エネルギー問題の解決に向けた対応を構想する【判断】の過程を踏むことになる(*1)。以下、三重・社会科エネルギー教育研究会で提案した2つの実践を紹介したい(*2)

(2)エネルギーの安定供給の仕組みを考える授業(小4 社会)

 第4学年の単元「電気を送る人たちの仕事」(11h)は、2013年に研究会のメンバーである石田智洋先生が四日市市立泊山小学校で発電に着目した単元「わたしたちの生活と地域の電気にかかわる仕事」(11h)の授業を第3学年で受けた児童に対して、2014年に萩原浩司先生が同校で実施した。本実践では、児童は電気の安定供給の重要性については既に意識できているため、電気の安定供給の仕組みを考えることに重点をおき、送電に着目している。送電は変電所などの施設を見学しても電気が実際に見えるわけではなく、児童が実感をもって捉えることが難しい。学習指導要領では、飲料水、電気、ガスを供給する事業から1つ選択するようになっているが、飲料水となる水源地から蛇口までの水道の送水の仕組みは、電気の発電からコンセントに届くまでの送電の仕組みと大枠で一致するため、送水の仕組みを“水の旅”に見立ててアナロジー(類推)として用いることで、送電の仕組みを“電気の旅”としてイメージさせた(資料参照)。
電気の旅(2014年に授業で使用) 第1~2時では、児童は電気エネルギーの〔存在〕〔供給〕の視点から電圧の変化や電気の経路に気づき、第3~4時では、送電に関連する施設の〔存在〕〔供給〕の視点から変電所による電圧の変化による電気の安定供給の仕組みを捉える【記述】。第5~10時では、関連施設で働く人が強く意識している〔安定〕の視点から電気の高速性と消耗性に応じた安定供給の仕組みを考察する【説明】。第11時では、地域の社会生活の〔持続〕の視点から自己の今後の電気使用について構想する【判断】。
 本実践は、児童が電気の安定供給の仕組みを主体的に追究し、エネルギーと社会との関係を実感的に理解した上で、関連施設で働く人々の地域へ電気を安定供給する工夫を踏まえて、今後の電気とのかかわりを意識するようになっている。

(3)エネルギーの安定供給と工業生産の関係を考える授業(小5 社会)

 第5学年の単元「T自動車の挑戦-自動車工業を支える人・モノ・エネルギー-」(18h)は、学習指導要領で取り上げるように示されている「工業製品が国民生活を支えていること」、「工業生産や工業地域の分布」、「工業生産に従事している人々の工夫や努力」の内容に、「エネルギーの安定供給と工業生産」の視点を加え、2014年に石田智洋先生が四日市市立泊山小学校で実施した。本実践では、自動車工業として地域のT自動車を事例として、組立工場と関連工場との関係を考察していく際に、多くの自動車を機械化やロボット化により短い時間で効率よく製造するために必要となる電気エネルギーに着目している。
工場の電気はどこから(2014年に授業で使用) 第1~3時では、児童は昭和初期と現在の生活の変化を自動車の普及から意識し、第4~5時では、昭和初期と現在の自動車製造の比較から電気エネルギーの〔存在〕〔有用性〕に気づく【記述】。第6~7時では、自動車製造に必要となる電気がどこでどのようにしてつくられてきたのかを確認し(資料参照)、自動車製造には鉄などの原料資源とともにLNG(液化天然ガス)などのエネルギー資源の〔供給〕が必要であることを考察する【説明】。第8~11時でT自動車の組立工場と関連工場との関係や効率よく製造する様々な工夫が行われていることを捉えた上で、第12~13時にT自動車の国内外における自動車製造の事実から、エネルギー資源の〔存在〕や〔供給〕を意識してどこで自動車製造を行えばよいのかを構想する【判断】。第14~15時に、火力発電の仕組みと二次エネルギーである電気を生み出すエネルギー資源の供給の〔持続〕を意識した上で、第16~18時に、T自動車を実際に見学してエネルギーの安定供給と工業生産との関係を改めて捉える。
 本実践は、エネルギーの〔安定〕した供給を前提として、自動車が国内外で製造され、電気をつくるために必要となるエネルギー資源の安定供給と工業生産との関係を実感的に理解した上で、T自動車を通して、今後の自動車製造のあり方を意識するようになっている。
 今回紹介した2つの実践を組み合わせれば、より行動の変革を促すことになる。次回は、地域の持続可能な社会づくりに向けて、エネルギーの利活用を考察・構想する授業を紹介したい。

*1:永田成文編(2022)『エネルギーの観点を導入したESDとしての社会科教育の授業づくり』三重大学出版会、pp.13-16・21-23を参照されたい。
*2:永田成文・山根栄次編(2017)『持続可能な社会を考えるエネルギーの授業づくり』三重大学出版会、pp.27-50において「エネルギーの安定供給を考える授業づくり」として紹介している。