学び!と社会

学び!と社会

授業にお役立ち!⑦ ESDとしてのエネルギー授業(1)
2023.03.30
学び!と社会 <Vol.16>
授業にお役立ち!⑦ ESDとしてのエネルギー授業(1)
広島修道大学教授 永田成文

(1)自分とのつながり 他地域とのつながり

著者 小笠原諸島父島(太平洋を望む)2021年12月 2023年に入り、電気代が高騰している。読者の皆さんにとっても切実な問題となってはいないだろうか。ここから、「なぜ」という追究を始めてみる。日本はエネルギーの自給率が低く、輸入に頼っている。ロシアのウクライナ侵攻を発端として、世界のエネルギーの流通が滞り、石炭や石油や天然ガスなどの化石燃料を中心としたエネルギー価格が上昇していることや、円安による影響が大きい。日本のエネルギーの安定確保について改めて考える時期にきている。
 大分大学の河野晋也先生に3回にわたってご紹介頂いたESDは、「持続可能な開発」という価値を前提として、「自分とのつながり」、「他地域とのつながり」から社会(文化)・環境・経済に関わる課題を取り上げ、その現状や要因や影響などを考察し、その解決策を構想することで学習者の行動の変革を促すことが目指されている。永田(2016)は、公民的資質について、「持続可能な社会の構築を視野に入れ、現代世界に表出する諸課題の解決に向けて思考・判断したことを表現し、自己の行動を変革しようとする態度」と定義した。ESDの目標は、社会科の究極目標である公民的資質(公民としての資質・能力の育成)と大枠の趣旨は同じである。
 電気代の高騰から、「自分とのつながり」として普段からどのように電気を使用しているか、「他地域とのつながり」として貿易の状況や為替の変動を意識できる。

(2)電気代の内訳に着目してみよう

電気ご使用量のお知らせ(2013年6月) 電気代が高騰している理由を、紙やハガキやメール等で毎月1回各家庭に通知されている「電気ご使用量のお知らせ」から、使用量の内訳と電気代に着目して考えていきたい。右図は約10年前に筆者に通知された「電気ご使用量のお知らせ」の一部である。当時、筆者は一人暮らしで、自宅にいる時間が少なかった。このため電気使用量が極端に少ない。また、地球温暖化を意識して節電に心がけていたことも強調したい。
 電気代の内訳をみると、契約した基本料金に、電気の使用量に応じて「燃料費調整額」や「再エネ発電促進賦課金等」が加わっている。2013年6月の「燃料費調整額」は、kWhの単価は2円29銭であることが読み取れる。4月は1円41銭、5月は1円90銭だったので、「他地域とのつながり」から「燃料費調整額」の単価が刻々と変化していることがわかる。しかし、電気使用量自体が極端に少なかったため、筆者はあまり「燃料費調整額」を意識することがなかった。
 現在、筆者は広島市に住んでいる。2023年1月の「電気ご使用量のお知らせ」をみて衝撃が走った。前月と比べて電気代が増えることは、暖房等が必要になるために予想していたが、それをはるかに上回って激増したためである。そこで、1年前の電気代と比べてみたら、使用量はさほど変わらないのに電気代が約3割増しになっていた。さらに、筆者が契約している電力会社に尋ね、「燃料費調整額」が主な原因であることがわかったのである。1月の「燃料費調整額」の単価が約15円であった。4人暮らしで1ヶ月に1,000kWh使用したと仮定すると、「燃料費調整額」のみで15,000円となる。1年前の単価は10年前とほぼ同じの1円台だった。
 2023年2月の電気料金は、使用量が増えているにもかかわらず電気代は安くなった。なぜか。国からの補助金により「燃料費調整額」の単価が抑えられているからである。それでも2月の単価は9円弱である。この補助金制度は2月から10月までと期間限定である。しかも支援額も徐々に削られる。筆者は、節電につながるようにさらに生活を見直し、省エネタイプのエアコンの購入を考えている。このように筆者は主体的に追究し、行動の変革が促されている。

(3)社会科におけるESDとしてのエネルギー授業

 人類は生活をより豊かで快適にするためにエネルギーを使用してきた。2004年のユネスコ国際実施計画フレームワークでは、エネルギーは環境領域の自然資源として位置づけられている。山下(2005)は、エネルギー環境教育は「エネルギー+環境」といった環境教育の拡大解釈ではなく、「エネルギー」を軸教材とする環境教育であるとしている。新・エネルギー環境教育情報センター(2013)は、学校教育におけるエネルギー環境教育の目標を、「持続可能な社会の構築をめざし、エネルギー・環境にかかわる諸活動を通してエネルギー・環境問題に関する理解を深めるとともに技能を身につけ、課題意識を醸成し、その解決に向けて成長や発達に応じ、主体的かつ適切に判断し行動できる資質や能力を養うこと」としている。ESDそのものである。
 エネルギーを取り上げることで、ESDの「自分とのつながり」や「他地域とのつながり」から、どのような状況でなぜそのようになっているのかという社会認識の過程と、これからどのようになるべきかなどの社会参加の過程を踏むことにより、学習者の行動の変革を促しやすい。また、化石燃料などの世界全体のエネルギーの安定供給や世界の様々な国・地域のエネルギーの安定確保は、その「持続可能性」が脅かされており、エネルギーは、「Think Globally, Act Locally」の理念を実践することが可能となる、社会科におけるESDの最適な教材といえる。
 児童・生徒にイメージしやすいエネルギーは、社会機能に関わる「家庭生活」、「産業」、「運輸・交通」をあげることができる。「家庭生活」は、炊事、照明、暖房においてイメージしやすい。明かりに着目すれば、小学校の生活科や中学年の社会科においても意欲的な学習が期待できる。「産業」は、主要な産業での利用を確認し、石炭から石油、再生可能エネルギーの導入などエネルギー構成の変化を考察できる。「運輸・交通」は、家庭生活や産業を成り立たせるのに必要な移動に関わる部門であり、移動の手段の変化はエネルギー構成の変化と密接に関係する。
 エネルギーのなかでも、とりわけ児童・生徒に身近な存在であり、平常時や災害時などに必要なものの一つが電気である。「電気は命をつないでいる」というフレーズがそれを示している。社会科の教科書や授業実践でエネルギーを扱う際に、二次エネルギーである電気が取り上げられることが多い。それは、電気を取り上げれば、エネルギーを意識しやすく、ESDとしての社会科の授業になりやすいためである。筆者は2017年4月から三重・社会科エネルギー教育研究会の代表を務めている。次回からは、この研究会で提案されたエネルギー授業を紹介していきたい。

【参考文献】

  • 新・エネルギー環境教育情報センター(2013)『エネルギー環境教育ガイドライン』
  • 永田成文(2016)「社会科における社会参加を踏まえた公民的資質の育成―持続可能な社会の構築を視野に入れて―」唐木清志編『「公民的資質」とは何か―社会科の過去・現在・未来を探る―』東洋館出版社、pp.116-125
  • 山下宏文(2005)「エネルギー環境教育のカリキュラム開発の視点と展開」佐島群巳・高山博之・山下宏文編『エネルギー環境教育の理論と実践』国土社、pp.76-81