学び!とPBL

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ビデオレターによる国際交流(子ども・学校とPBL②)
2023.06.23
学び!とPBL <Vol.63>
ビデオレターによる国際交流(子ども・学校とPBL②)
三浦 浩喜(みうら・ひろき)

 福島県須賀川市立白方小学校(以下、「白方小」)の鹿又悟先生による報告の2回目は、先生が2018年度に担任した6年生の実践を中心に紹介していきます。

1.ネパールとの交流

 白方小とネパールの小学校間でビデオレター交流を行うきっかけとなったのは、白方小が2011年の東日本大震災で、ネパールの山間部にある小学校が2015年4月のネパール地震で、それぞれ被災したことです。「子どもたち同士で励まし合うことになるのでは」と、ESDの指導をいただいていた法政大学の坂本旬先生の仲介により、2015年11月からネパールの小学校とのビデオレター交換の実践が始まりました。それから数年にもわたってネパールとのビデオレター交流が、白方小の高学年における伝統として引き継がれてきました。鹿又先生は、2018年からビデオレター交流を指導しています。
図1 田植えの様子  2018年に鹿又先生が担任した6年生21名は、5年生の時からネパールとのビデオレターによる交流を行っていました。ネパールと日本は米文化という共通点があるので、米についての学習を行いました。子どもたちが5年生だった2017年は、白方小周辺の放射線のために田んぼで稲を育てることができなかったので、衣装ケースに植えるなど工夫を凝らしながら稲作に挑戦してきました。6年生になった2018年には、地域の方々の協力も得て実際の田んぼで米作りができるようになりました。

2.ビデオレターの取り組み

 白方小の総合的な学習の時間の流れは、「つかむ」「調べる」「まとめる」「発信、行動する」の四つの段階に分かれています。
 ビデオレターの作成は、自分たちの調べたことを分かりやすく表現し、発信する力を身につけること、さらには外国との交流を通してお互いの文化を理解・尊重し合うことをねらいとしています。外国語科と関連付けて学習を進めたり、ジェスチャーや写真・動画等を用いて自分の思いを伝えたりすることで表現力を高めることができます。ネパールへ向けたメッセージをビデオレターで表現するために、子どもたちは学級やグループで協力しながら分かりやすい表現方法を考えたり、自分たちが生活している白方の文化を世界へ広げるという思い(ビジョン)をまとめたりします。
 子どもたちは、自分の関心のあるテーマを決めて、グループに分かれて構想を練り、情報の収集からタブレット端末を使ったビデオレターの撮影・編集へと進んでいきます。各グループのテーマは表1の通りで、前期・後期にそれぞれビデオレターを作成しました。

表1 各グループのビデオレターのテーマ

前 期

後 期

・田んぼの土や生き物(生物)

・白方での米(伝統)

・田んぼの利用方法(多様性)

・日本の米の利用(文化)

・1年の流れ(気候)

・給食での米料理(食育)

・米の出荷(経済)

・外国の米料理(国際理解)

・田んぼの特徴(環境)

 子どもたちは、田んぼに何度も足を運び、ネパールの人たちに伝えたい、自慢したいという観点でテーマを考えたり、そのテーマについての情報を集めたりしました。情報資源が身近にあるので、必要なことをすぐに調査したり、確認したりすることができます。
 グループで作成しているビデオレターは、いずれも、子どもたち自身で情報を選定し、作成(絵コンテ・撮影・編集)し(図2)、他のグループとの対話をもとに構成し直し、最初から最後まで子どもたちがタブレット端末を操作し、自分たちの手で制作しています。
 前期と後期では、各グループのテーマに変化が見られました。前期は、自分たちの身近な疑問点を調べたり、紹介したりするテーマだったのに対して、後期は、「ネパールの給食はどんなのかな」、「ネパールの家庭料理は何だろう」など問いが生まれ、調べていくうちに自分たちの生活には様々な国の食生活が取り入れられていることに気づいていったのです。さらに、前期のビデオレターの内容は紹介だけでしたが、後期の内容には相手への質問が含まれ、「このことについて教えてほしい、知りたい」という思いが溢れる内容になっていました。これらは、子どもたちの中で、他者意識が生まれてきているのだと考えられます。

3.学習の深まり

 計画を練る時や立ち止まって考え直す時、子どもたちはワールドカフェ(図3)など十分に対話できる環境で友だちの意見をもらいXチャート(図4)やYチャート(図5)などの思考ツールを使いました。他のグループから付箋に考えを書いてもらい、気づかなかった視点などのアドバイスをもらうことができました。アドバイスをした子どもたちも参考になる部分を自分のグループに持ち帰り、活用している様子が見られました。

図2 絵コンテ図3 ワールドカフェの様子

図4 Xチャート図5 Yチャート

 子どもたちは、ネパールの子どもたちに向けて「Hello,I’m 〇〇. I like ~.」という簡単な自己紹介を行いました。
 また、本校の授業に協力していただいている東洋学園大学の坂本ひとみ先生の指導で、英語でかっぱ巻き調理実習も行いました(須賀川市は、夏秋キュウリの産地として日本トップクラスの生産量を誇ります)(図6)。子どもたちは、坂本ひとみ先生の英語の言葉や手元にある英文の資料(図7)を見て、かっぱ巻きを作りました。それを法政大学の坂本先生に撮影していただき、ビデオレターの一部に付け加えました。子どもたちは、ネパールの子どもたちに自分たちの地元の名産を紹介するのと同時に、調理という体験から英語に触れ、理解することができました。この調理実習や英語による自己紹介は、すべての子どもたちが意欲的に外国語を学ぶきっかけとなりました。

図6 英語でかっぱ巻き調理実習図7 かっぱ巻き作りの英文レシピ

 ビデオレター交流は作成すること自体が活動のゴールではありません。子どもたちの感想から、ビデオレターが目標を実現するツールとして、自分を振り返り、文化を再認識し、価値観の形成することに繋がるなど、様々な学習効果を生み出すことが分かります。
 現在はGIGAスクール構想で、子どもたちは一人1台タブレット端末を持っており、このような動画作成が簡単にできる時代です。映像表現を通じて相手に自分の思いを伝えることも、思考、判断、表現力の育成において効果的な一つの方法だと考えます。

(※鹿又悟先生の原稿を、三浦が本連載に合わせて編集しています。)