学び!とPBL

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ビデオレターから生まれる友情(子ども・学校とPBL③)
2023.07.24
学び!とPBL <Vol.64>
ビデオレターから生まれる友情(子ども・学校とPBL③)
三浦 浩喜(みうら・ひろき)

 鹿又悟先生による報告の3回目は、2019年度のビデオレターによる交流実践を紹介します。

1.SDGsと米の学習

 年度が替わり、新しく第5学年の担任となりました。今年度から新たに探究サイクルのそれぞれのゴールを分かりやすく示すために、SDGs(「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」)の視点も学習に採り入れました。この実践の流れは、表1のとおりです。

表1 SDGsを採り入れた授業実践

段階

関連あるSDGs

内容

課題設定

田植え体験を行い、田んぼに関する疑問を深めたい。

情報の収集

水路から水の大切さを知らせたい。

稲作に使う機械の発達について知らせたい。

米を加工して作られたものについて知らせたい。

米の歴史について知らせたい。

お茶碗一杯分はお米何粒かなど、お米の大切さを知らせたい。

まとめ・発信

ネパールと交流し、日本との米文化の同異点について知り、今後の関係性を保ちたい。

学習全体のゴール

白方と外国の米作りと食文化はどう違うのだろうか?

 子どもたちは、白方小とネパールとの交流から、「自分たちの米作りについて紹介したい!」「日本とネパールでの米文化の違いって何か、知りたい!」というゴールを自分たちで決め、進めていきました。
 子どもたちの興味関心に沿って、グループに分かれ情報収集を行いました。その中でも印象的だった、探究し合う子どもの姿を紹介します。
図1 長さを測り田んぼの面積を考える A君は「一枚の田んぼから何粒のお米ができているのだろう。」という問いを抱きました。まず田んぼの縦、横の長さを測り、面積を計算しました。次に、稲と稲の間隔を測り、単位面積当たりの稲の数を求めました。農家の方へのインタビューで一本の稲に米が何粒できるかを知り、それを基にこの田んぼ全体で何粒できるという計算へと展開していきました。
図2 給食の1杯は米何粒か考える また、「給食のお茶碗一杯分のお米はいったい何粒なのだろう。」という問いを持った子どもたちは、別の活動を始めます。一杯分すべてのお米の粒を数えるのは困難だと感じた子どもたちは、一杯分の10分の1の重さの米粒の数を数え、10倍するというアイデアを自分たちで思いつき、計算しました。
 こうした子どもたちの姿は、教科の既習事項を生かして、協働的に探究することができるようになったことを示しています。

2.ビデオレターから見える日本とネパール

 前年度のビデオレター交流の課題として、他者意識が弱かったと感じていました。それは、作成する前段階においてネパールで暮らす人々の様子がイメージしにくい面があったからです。そのために、この年も法政大学の坂本旬先生に協力をいただき、これまで相手から贈られたビデオレターを見て、日本とネパールの子どもたちが互いに何を伝えたいのか、そして、それはどこから読み取ることができるのか、という授業を行いました。
 日本の子どもたちもネパールの子どもたちも、いずれも真剣なまなざしで相手から贈られたビデオレターに見入っていました。前のめりになってジーっと映像を見つめる姿が、とても印象的でした。子どもたちはビデオレターに詰め込まれている情報をあらゆる角度から探し出しました。

「小学校の周りには電線があるのに、なぜ電気が通っていないんだろう。」
「学校の中には明かりがなく、暗いんだね。」
「日本の学校より小さくて、1階建てなんだ。」
「学校はトタン屋根でできているんだ。僕たちの学校と違うな。」
「白方小の上の学年が贈った楽器のお礼のビデオレターだね。」

 などの言葉が聞かれました。実際ネパールの山間部の学校は、四方がトタン張りの校舎、通学路も険しく危険で、子どもたちの生活水準も大きく異なります。ややもすると、相違点ばかりが目立つビデオですが、ネパールの子どもたちも懸命に白方小の子どもたちにメッセージを伝えようとします。

「楽器を届けてくれてありがとう。素敵な楽器だね。笛を吹いてみるね。」
「ネパールのダンスを披露するね。」
「私たちが普段食べている料理を作るよ。」
「僕たちの学校の周りを紹介するね。」
「私たちの田んぼや畑、飼育している牛を紹介するね。」

 言語が異なる者同士でもビデオレターの交流を通して、友情にも似た親近感がどんどん湧いてくるのが伝わってきました。

3.ビデオレターの成果

図3 ネパールからのビデオレターを観賞 ビデオレターの制作に夢中になると、他者に伝えるという意識が薄らぎ、自己満足に陥ってしまいがちになります。仲間内ではない、自分たちとは異なる他者に伝えるということがこのビデオレターの実践では最も重要です。子どもたちはネパールのビデオレターを見ることで、自分たちの環境と異なる部分を知ると同時に、共通の部分にも気づきます。こうすることで、ネパールの子どもたちとの距離感がだんだん近くなっていったことが分かりました。「ネパールの子は~かな。」「ネパールでは、~だろう。」のような言葉が会話の中に増えてきたからです。
 自分たちが作成するビデオレターを同じ視点で相手は見ていることに気づき、映像から様々な情報を読み取ると、文化や言語は異なっても友好関係が生まれてくると理解することができたのです。そして、それは当初想定していたよりも遥かに大きなものでした。
 友好関係の深まりは、以下のような子どもたちの感想から読み取ることができます。

「自分の地域の再認識ができたこと。また、交流した国の文化・郷土を知ることで、自分たちの生活と比較して考えることができた。」
「人との関わりを大切にすることを学んだ。(学級も、外国の人も)」
「自分の国と相手の国・地域の環境の違いを知ることができた。」
「自分たちの暮らしを当たり前だと思ってはいけない。裕福な暮らしをしているという認識。」
「もっとたくさんのことでネパールの人たちと関わり合いたい。」
「実際にネパールに行って会ってみたい。」
「直接会って友だちになりたい。会ってないけど、友だちのような感じになった。」

 ビデオレター作成において、子どもたちは異国の友だちとの交流を通じて、一つのテーマから様々なベクトルを描くとともに、自他のビデオレターを思考し続けることで、様々な明るい未来を見出すことになると考えます。オンラインで繋がるだけではなく、苦労しながらビデオレターを協働で制作する過程にこそ、価値があります。「どんなメッセージを相手に届けたいのか。」「相手はどんなメッセージを届けたいのか。」など双方向のやり取りから、ビデオレターには子どもたちの様々な思考や想いが込められているのだと考えます。