学び!とPBL

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コロナ禍の下で学ぶ子どもたち(子ども・学校とPBL④)
2023.08.21
学び!とPBL <Vol.65>
コロナ禍の下で学ぶ子どもたち(子ども・学校とPBL④)
三浦 浩喜(みうら・ひろき)

 鹿又悟先生による報告の4回目は、1ヶ月遅れでスタートした2020年度の学校生活で、どのような学習活動を行ったのかを紹介します。新型コロナウィルスに大きく影響を受けた学校でも、子どもたちの学びが止まることはありません。現実の社会をそのまま教材にして、今まで以上により地域に根差した活動をしていこうという実践でした。

1.経験を学びへ

写真1 新型コロナウィルスとSDGs 白方小は、2020年度が始まった週から5月17日まで臨時休業となり、5月中旬になってやっと教育活動が再開されました。
写真2 アマビエ様  最初の総合的な学習の時間の中で、子どもたちに付箋を使ってコロナ禍とSDGsを考えさせると、経済・教育・福祉・健康・平和など様々な点で新型コロナウィルスの影響が関係していることがわかります。
 図画工作科の時間には、新型コロナウィルスに関連して、日本に伝わる疫病に関する妖怪「アマビエ様」を教材としてとりあげました。国語科の提案書・短歌を書く単元においても、新型コロナウィルス感染対策に関することを書く子どもがいました。このように、新型コロナウィルスを軸とした学びが各教科で続きました。

2.コロナ禍で地域に根差した学び

 2020年度の総合的な学習の時間では、約2か月間の臨時休業を通じて感じた、「新型コロナウィルス」と「地域愛」、「共生社会」をキーワードにして学習を展開したいと考えました。当初の教師側のねらいは、

人との関わりの中で生きていることを知り、自分たちも社会の一員として携わることを考えることができる。
自分たちの住んでいる地域を見直し、地域に対して行動することができる。

の2点でした。
 新型コロナウィルスの影響は、子どもたち自身への影響もそうですが、メディアで取り上げられていた、飲食店の相次ぐ休業や農家への影響、医療従事者のひっ迫した現状が大きいと子どもたちは感じていました。ここからは、子どもたちの問いと行動がスパイラルに動いていきます。
 まず、子どもたちは、
「飲食店を助けたい。」
「最先端で活躍している医療関係者を励ましたい。」
「でも、どうやって助ける?」という問いに出会います。
「募金してお金を集めよう。」
「それじゃあ、自分たちでではなく、他の人のお金だよね。」
「んじゃあ、何か自分たちで何か作って売るのは。」
「須賀川と言ったらきゅうりだよね。おじいちゃん、おばあちゃんも家で作ってる!」
 須賀川市は名産のきゅうり(夏秋の出荷量全国1位)、自分たちの経験から地域の特産いわせきゅうりを育てる方向へと決定しました。
写真3 地域ボランティアと畑作り  次に子どもたちの前に立ちはだかったのは、学校にきゅうりを栽培する道具がない、という問題です。
 「家に道具があまっていると思うから、じいちゃんに聞いてくるよ。」、「うちのばあちゃん、畑作るとき来てくれるって!」という形で、活動は地域の方々の協力へと広がっていきました。学校園にきゅうりの支柱を建てたり、畑を耕したりする際に、子どもの祖父母がボランティアとして来校し、一緒に作業をすることができました。
写真4 いわせきゅうりの栽培  子どもたちは、栽培して実ったきゅうりを売る活動へと動き出します。子どもたちが売る相手に選んだのは、意外にも飲食店でした。理由を聞くと、「飲食店ならたくさんの人に食べてもらえるから」と言います。栽培していくうちに、自分たちのきゅうりをたくさん人に食べてもらいたいという思いが増してきたのです。
 本格的にきゅうりを栽培するために「きゅうりを販売しているプロの農家さんに聞きたい」となり、農家の方に来ていただき、栽培するポイント、農家の仕事、農家の方の栽培への思いなどについて教えていただきました。
 「売るときの値段ってどうやって決めるのだろう」というので、JAの方に来ていただき、どのようにして価格が決まるのか、需要と供給のバランスなど、経済を交えた内容を教えてもらいました。子どもたちに価格の決め方を聞くと、
「素人だから、安くしよう。」
「小学生が作るレアなきゅうりだから少し高くてもいいのではないか。」
などと、それぞれ主張していました。結局、両意見の折衷案で決定した価格は「1本32円」でした。

3.きゅうりの活動で得た学び

写真5 お店に飾ったポスター 須賀川市の飲食店組合に子どもたちが栽培したきゅうりを買い取ってもらい、自分たちが栽培したきゅうりが料理に含まれていることをポスターにまとめ、それを店に飾っていただきました。子どもたちは須賀川市とコロナ病棟を扱っている病院にきゅうりで得た売り上げを寄付することができました。
 一連の子どもたちの取り組みから、当初のねらいに次の2点、

身近なきゅうり(夏の生産量日本1位)・福島の食材への新たな気づきを得て、地域の大切さの再発見し、地域へ愛情を育てることができる。
農家の働き方や働くことの意味、そして食に携わる人たちの野菜に対する愛情を消費者としてどう向き合えばいいのか考えることができる。

の、貴重な学習内容が加わりました。
 今回の「新型コロナウィルス」を軸とした総合的な学習の時間は、たくさんの方々の協力で授業を成り立たせることができました。その発端となったのは、子どもたちの「問い」の連続です。問いを解決するために、専門家と繋がり、生の声を聞くことで、次々と課題を解決し、また新たな問いにぶつかり、行動へ移すことができました。学校の外の人々との繋がりは人生においても大変重要なことです。たくさんの人に支えられ人々は生きており、皆が共に支え合っていることを子どもたちは実感することができました。
 最後に、この学習を通しての子どもたちの感想を紹介します。

  • 自分たちが行った活動は、自分たちだけでは行うことができなかった。たくさんの人に協力してもらったおかげでできたことだった。この思いは忘れないだろう。
  • きゅうりの毎日の水やりがこんなに大変だとは思わなかった。だけど、たくさんの人に届けて食べてもらうことができてうれしかった。
  • 農家の人の話を聞いて、ぼくも〇〇さんのような農家になりたいと思った。
  • きゅうりを育てた経験から、うちのおばあちゃんの畑の手伝いをもっとしようと感じた。将来農家という職業もいいかなと感じた。
  • 最初は小学生のわたしたちが寄付するなんてできないかもしれないと感じていた。それが、学習が進んでいくにつれて、現実になっていった。いろんな人と繋がることですごいことができるということや、人と繋がることの大切さを知ることができた。

(※鹿又悟先生の原稿を、三浦が本連載に合わせて編集しています。)