高校教科書×美術館
(高等学校 美術/工芸)

高校教科書×美術館
(高等学校 美術/工芸)

十和田市現代美術館
2023.11.06
高校教科書×美術館(高等学校 美術/工芸) <No.068>
十和田市現代美術館

十和田市現代美術館 十和田市現代美術館では、教科書に掲載している塩田千春やロン・ミュエクなど、現代で活躍する作家の作品を数多く展示しています。
 今回はエデュケーターの青山真樹さんに、十和田市現代美術館における展示の工夫や、作品の魅力、そして学生を対象にした教育普及活動についてお話を伺いました。

――教科書では塩田千春の《掌の鍵》や《集積―目的地を求めて 2014-2019》を掲載しています。塩田は糸や鍵、鞄など身の回りものを用いて制作を行っています。十和田市現代美術館で公開している《水の記憶》ではどのような特徴が見られますか?作品の見どころと共に教えてください。

青山:この作品は、赤い糸と船という、塩田千春の作品においてしばしば登場する2つの要素で構成されています。
 何層にも重なり編まれた糸は、頭上を埋めつくし壁面にまで広がっています。展示室がコンパクトな空間だからこそ、部屋の中に足を踏み入れると、まるで繭に包み込まれているかのような感覚を覚えます。しかし、複雑に絡み合う糸は、どこかに焦点を合わせようとすれば、それ以外はぼやけてしまい、一本一本を目で捉えきることはできません。
 部屋の中央には、その糸に繋がれた一艘の古びた木船が置かれています。この船は、過去に十和田湖にあったものです。塩田にとって「未知の場所へ導くと同時に、危険もつきまとう、“死” と隣り合わせの存在」だと言う船。その表面の至るところには、小さな傷やひび割れ、塗料の剥がれなどが見られ、その一つ一つに、船に起こった過去の出来事が刻まれているようです。
 「誰がどんな風に使っていたのだろう?」
 「この船は、どこでどんな経験をしてきたのだろう?」
 船のありし日の姿や、関わってきた人の存在に思いを馳せてみると、場所やものに宿る数多くの記憶や重ねられた時間があるということに気がつくのではないでしょうか。糸の状態を示すさまざまな表現―張り詰めたり、緩んだり、結んだり、切れたり、もつれたり―には、人や物の「関わり」を連想させるものが多くあります。編み込まれた無数の赤い糸は、この船にまつわる、そんな目には見えない無数のつながりを表しているのかもしれません。

塩田千春《水の記憶》
撮影:小山田邦哉
©2021 JASPAR, Tokyo and Shiota Chiharu

――教科書は、様々な作品を見ることや学ぶことで、新たな物の見方や考え方を知るきっかけに繋がることを大切にしています。十和田市現代美術館では、教科書でも取り上げている塩田千春や、ロン・ミュエクの作品など多くの作品を常設展示しています。作品の魅力を鑑賞者に伝えるために、特に意識して行っていることを教えてください。

青山:当館の大きなテーマは、「体験型」であること。作品を目の前にした時の、来館者の体験こそを大切にしたいと考えています。そのため、キャプションや館内リーフレット、音声ガイドなど、来館者が初期にアクセスするツールにおいては、情報や知識を過度に提供しすぎてしまわないように留意しています。それは来館者が、情報を読むことによって作品を「みたつもり」になってしまうことを避けるためです。それよりも、その人自身が作品から何を受け取り、どのようなことを感じ考えたのか―そこから鑑賞の一歩が踏み出されることこそが、重要だと考えています。
 「作品のよさ」や「魅力」といったものに、固定の答えがあるわけではありませんので、こちらから「伝える」のではなく、みる人それぞれに「考えてもらう」ためのきっかけをつくるという意識で各種ツールやプログラムを設計しています。

ロン・ミュエク《スタンディング・ウーマン》
撮影:小山田邦哉
Courtesy Anthony d’Offay, London

――教科書では、美術館に行くことを掲載したり、美術に関する仕事を取り上げたりするなど、学校外での美術との繋がりも紹介しています。十和田市現代美術館では学生を対象に、どのような教育普及活動を行っていますか?

青山:高校生向けには、美術館スタッフが学校に出向く出張授業のほか、団体観覧の受け入れ時には、学校の要望に応じオリエンテーションやグループ鑑賞などを組み合わせた対応を行なっています。また、10代の若者を対象としたユース・プログラムとして、「鑑賞」と「表現」を組み合わせ、作品世界をより深く体験するワークショップや、中高生とアーティストが出会い、ひとつのテーマのもとで共に考え・つくり・まなびあうプログラムなどを企画、実施しています。

美術館情報

■十和田市現代美術館
住所:〒034-0082 青森県十和田市西二番町10-9
公式サイト:https://towadaartcenter.com
問い合わせ:0176-20-1127
休館日:月曜日(月曜日が祝日の場合は、その翌日)、年末年始
開館時間:9時~17時(展示室入場は閉館の30分前まで)
観覧料:一般1800円(企画展転換期1000円)、高校生以下無料

【関連作品 教科書掲載情報】

  • 「高校美術」p4-5.
    集積―目的地を求めて 2014-2019[赤いロープ・スーツケース・モーター]2019
    森美術館での展示[東京都]
    塩田千春
  • 「高校美術」p54.
    スタンディング・ウーマン[ミクストメディア/405×155×110cm] 2008
    十和田市現代美術館蔵[青森県]
    ロン・ミュエク
  • 令和5年度版「高校生の美術2」p36.
    掌の鍵[古い鍵・赤い毛糸・ヴェネチアの木製の船] 2015
    第56回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展(日本館)での展示[イタリア]
    塩田千春