高校教科書×美術館
(高等学校 美術/工芸)
高校教科書×美術館
(高等学校 美術/工芸)

十和田市現代美術館 十和田市現代美術館では、教科書に掲載している塩田千春やロン・ミュエクなど、現代で活躍する作家の作品を数多く展示しています。
今回はエデュケーターの青山真樹さんに、十和田市現代美術館における展示の工夫や、作品の魅力、そして学生を対象にした教育普及活動についてお話を伺いました。
何層にも重なり編まれた糸は、頭上を埋めつくし壁面にまで広がっています。展示室がコンパクトな空間だからこそ、部屋の中に足を踏み入れると、まるで繭に包み込まれているかのような感覚を覚えます。しかし、複雑に絡み合う糸は、どこかに焦点を合わせようとすれば、それ以外はぼやけてしまい、一本一本を目で捉えきることはできません。
部屋の中央には、その糸に繋がれた一艘の古びた木船が置かれています。この船は、過去に十和田湖にあったものです。塩田にとって「未知の場所へ導くと同時に、危険もつきまとう、“死” と隣り合わせの存在」だと言う船。その表面の至るところには、小さな傷やひび割れ、塗料の剥がれなどが見られ、その一つ一つに、船に起こった過去の出来事が刻まれているようです。
「誰がどんな風に使っていたのだろう?」
「この船は、どこでどんな経験をしてきたのだろう?」
船のありし日の姿や、関わってきた人の存在に思いを馳せてみると、場所やものに宿る数多くの記憶や重ねられた時間があるということに気がつくのではないでしょうか。糸の状態を示すさまざまな表現―張り詰めたり、緩んだり、結んだり、切れたり、もつれたり―には、人や物の「関わり」を連想させるものが多くあります。編み込まれた無数の赤い糸は、この船にまつわる、そんな目には見えない無数のつながりを表しているのかもしれません。
塩田千春《水の記憶》
撮影:小山田邦哉
©2021 JASPAR, Tokyo and Shiota Chiharu
「作品のよさ」や「魅力」といったものに、固定の答えがあるわけではありませんので、こちらから「伝える」のではなく、みる人それぞれに「考えてもらう」ためのきっかけをつくるという意識で各種ツールやプログラムを設計しています。
ロン・ミュエク《スタンディング・ウーマン》
撮影:小山田邦哉
Courtesy Anthony d’Offay, London
美術館情報
住所:〒034-0082 青森県十和田市西二番町10-9
公式サイト:https://towadaartcenter.com
問い合わせ:0176-20-1127
休館日:月曜日(月曜日が祝日の場合は、その翌日)、年末年始
開館時間:9時~17時(展示室入場は閉館の30分前まで)
観覧料:一般1800円(企画展転換期1000円)、高校生以下無料
- 「高校美術」p4-5.
集積―目的地を求めて 2014-2019[赤いロープ・スーツケース・モーター]2019
森美術館での展示[東京都]
塩田千春 - 「高校美術」p54.
スタンディング・ウーマン[ミクストメディア/405×155×110cm] 2008
十和田市現代美術館蔵[青森県]
ロン・ミュエク - 令和5年度版「高校生の美術2」p36.
掌の鍵[古い鍵・赤い毛糸・ヴェネチアの木製の船] 2015
第56回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展(日本館)での展示[イタリア]
塩田千春