学び!とPBL

学び!とPBL

伝え合うことで成長する生徒たち(中学校でPBL②)
2023.11.24
学び!とPBL <Vol.68>
伝え合うことで成長する生徒たち(中学校でPBL②)
三浦 浩喜(みうら・ひろき)

 中学校における探究活動の実践を、前回に引き続き、福井市森田中学校(以下、森田中学校)の木下慶之先生の理科の授業を通して見ていきましょう。

1.体育館に太陽系をつくろう

 木下先生が提案授業で公開したのは、「太陽系とは何か」をテーマに、体育館に太陽系の縮小モデルをつくろうという学習活動でした。生徒たちは1班4名の7班に分かれ、前時までに1班ごとに興味のある惑星(水星、金星、火星、木星、土星、天王星、海王星)を選択し、調査活動を行ってきました。本時では、各惑星班から1名ずつで構成された4つのツアーグループに編成して、100兆分の1の太陽系を体育館内に惑星モデルを置きながら設定しました。そして、ツアーのようにして仲間たちに担当する惑星についてポスターやレポート、図鑑をもとに紹介し合いました。学習活動の課題は「行ってみたい惑星はどこか」にしました。
 調査内容に個人差はあったものの、調査したことを自分なりに構成して、他者に発信したり、場をつくり出したりする学びの姿、生徒たちの資質・能力についても同僚たちと知ることができました。当日は、近隣の福井市森田小学校の教員や福井大学教職大学院の方々も参観し、体育館で80名程度のにぎやかな学習の場となりました。
 授業づくりで最も悩んだのは、これまでの流れに沿いつつも、みんなで解明したくなるようなワクワクするテーマ・課題が設定できないか、ということでした。
 準備では、教頭からは「ステージショーではなくて、フロアショーにしたいよね」「脳味噌に汗をかくような状況」という言葉をいただくほど、夜の職員室で授業の構想をじっくり聞いてもらい、校長や教務、図書館の司書まで協力してくれました。
 生徒たちの準備も予想以上に活発で、他者を意識して「伝えたいこと」「惑星の特徴」を吟味してまとめていました。

2.学びの場を楽しむ生徒たち

 体育館のスクリーンで太陽系を3Dで観察した後、縮尺をテーマに太陽と地球の大きさの比についてモデルを使って確認し、体育館内に太陽を中心にして、100億分の1の距離に惑星を配置していきました。いよいよ4グループに分かれて太陽系ツアーが始まります。
ツアーのプレゼンの様子  火星を選択した班のミズキはロボットを開発することを将来の目標にしています。日頃から未来について関心を持っており、火星移住をテーマにして火星の特徴をレポートにまとめてきました。現在どのような研究がなされているのか、人が生活するために必要なことは何かを火星の環境や特徴をもとにまとめ、同じ班のメンバーとも共有して、当日のツアーのプレゼンに臨みました。各惑星から1名ずつ7名で1グループが構成され、順に案内していきます。
 翌日担任に提出するミズキの生活の記録には「自分の持っている火星の知識はすべて伝えることができました。本物の天体も観察してみたいです。」と書かれていました。他の生徒の記録で、「今までにない授業でとても楽しかったです。」「太陽系の星のことを知ることができました。」「3Dがとてもきれいでした。」といった記述が目立ちました。

3.雨の中の天体観測会

 本校の生徒玄関は西向きで、下校時に日没後の惑星が観察しやすいことから、天体望遠鏡をここに常設し、下校時に天体望遠鏡で惑星をのぞけるようにしました。これがきっかけとなって、学校で天体観測会を開催しようということになりました。12月26日には夕方に部分日食を見られるチャンスもあることから、福井自然史博物館の学芸員に相談し、助言をいただきました。3年生の理科係がポスターを作成し、3年生の生徒たちにアナウンスしました。3年生は受験を控えていましたが、年末の夜にもかかわらず30名の参加希望がありました。

天体望遠鏡で観測する様子天体観測会のポスター

 当日は残念ながら雨となりましたが、生徒たちは「雨でもやりましょう!僕ら行きますよ。」と開催を希望してきました。雨天プログラムを理科部会のメンバーで検討し、シミュレーションソフトを使った天体教室を開催することにしました。当日急遽参加できなくなった生徒もいましたが、保護者を含めて28名が参加しました。
 まずはT先生が、国立天文台のシミュレーションソフト「mitaka」(*1)や3Dメガネの活用方法を紹介しました。教頭は天体望遠鏡の使い方を紹介してくれました。
 生徒たちは理科の授業ノートを準備してきており、授業で取り組んだ太陽系ツアーや黄道十二星座(自分の誕生星座)について調査してきたことをテーマに他クラスの参加者と交流しました。ミズキは天体教室でも再び火星について紹介しました。
 ダイチとノリタカは、解散後「やはり本物が見たいですよね。」「次は入試が終わったら、僕たちが企画しますよ。」と伝えてきました。
 天体教室に参加できなかった生徒の中には「ベテルギウスが暗くなっていて、そろそろ超新星爆発するかもしれない。」と家族に天体についてレクチャーしていた者もいました。それを聞いたのは弟の1年生からで、彼は「先生!お姉ちゃんから聞きました。まだベテルギウス爆発していませんか。」と友人たちと廊下などで質問するようになりました。

天体教室の様子

4.単元のふり返りで

 これ以降も生徒がただ自分で理解するだけでなく、天文現象の仕組みを他者に解説することを意識し、単元ストーリーを大切にして学習を展開させていきました。仲間への説明で見方の違いを認識するような授業展開のデザインを心がけました。
 単元後の振り返りで、友人の力を借りて月の満ち欠けの仕組みを理解できたAさんが次のように述べています。「理解するまでが長かったけど、自分で説明して、考えを深めることができた。自分でもっと月について分かるようにがんばりたい。」彼の学びを支えた1班の生徒は「Aさんに太陽が南中する時間を説明したときが一番がんばりました。人に教えると、自分の考えもさらに深まっていくと感じました。」と記していました。
 この様子を撮影したビデオを学級全体で紹介すると、他の班の生徒たちが、「Aくんの6分に渡る挑戦もすばらしいし、それを一生懸命支える3人もすばらしいよね。」「こういう雰囲気の学年、学級って素敵だよね。」と評価しました。1班の生徒たちも、自分たちが取り組んできたことを客観的に認識し、自己評価するチャンスに結びついたと思われます。
 さらに、この様子を研究部のメンバーと共有し、全職員に提案授業を含む単元全体の過程を伝え、生徒たちの中で起こったエピソードを紹介し、その学びの姿を共有しました。研究主任から「森田中学校のキーコンピテンシーとして、4つの気(活気、根気、覇気、和気)をもとに各教科で実践を見直してみませんか? それを来年度の実践につなげていくことも考えてみましょう。」「来年度4月からの総合的な学習の時間の準備を今からしていきましょう。」などと提案がなされました。

*1:4次元デジタル宇宙ビューワー“Mitaka”
https://4d2u.nao.ac.jp/mitaka/