学び!とPBL

学び!とPBL

公立中学校で探究活動を始める(中学校でPBL①)
2023.10.20
学び!とPBL <Vol.67>
公立中学校で探究活動を始める(中学校でPBL①)
三浦 浩喜(みうら・ひろき)

1.中学校の探究活動

 Vol.66まで、ふたば未来学園高校の鈴木先生と白方小学校の鹿又先生の実践を紹介したので、次は中学校の実践を紹介したいと思います。しかし、私の知っている近隣の中学校の先生方もそうですが、全国的にも中学校の探究活動は小学校や高校ほど活発とは言えません。現行の学習指導要領の改訂でもその指摘はあり、中学校段階で探究活動の流れが断絶しているとしたら、問題は深刻だと思います。私は30年前に中学校の教員だったので、中学生が探究活動に夢中になる要素は十分にあると思っています。さて、中学校の探究活動について、福井県の中学校教師である木下慶之先生の実践を軸に探っていきたいと思います。
 現在、福井市森田中学校(以下、森田中学校)の理科教員である木下慶之先生は、これまで紹介したOECD Education 2030に関連する国際生徒イノベーションフォーラム(学び!とPBL <Vol.28> 生徒国際イノベーションフォーラム①、参照)に準備段階から参加してもらったり、生徒たちと一緒に福島と福井を相互に行き来したりして、学習を深めてきました。
 森田中学校は福井市の北部に位置し、約450人の生徒が在籍しています。木下先生は約5年間、学年主任として教務にあたっており、新型コロナウイルス感染症の影響も経験しながら、地域と連携し、プロジェクト型学習を通じて学びを提供してきました。これらの実践を通じて、新しい学びやつながりを生み出し、変化を起こしています。

2.福井大学附属中学校の探究活動

福井発プロジェクト型学習
〜未来を創る子どもたち〜
 前任校である福井大学教育学部附属中学校(以下、福井大学附属中学校。現在は福井大学教育学部附属義務教育学校)は「探究」と「協働」「コミュニティ」をキーワードに、附属幼稚園も含めて、12年間かけて未来を創る子どもたちの育ちと学びを支える教育実践研究に取り組んできました。特に、総合的な学習の時間である「学年プロジェクト」(現在は義務教育課程9年間を通した『社会創生プロジェクト』)は、生徒実行委員を中心に生徒全員で時間をかけて「主題」を設定し、3年間かけて学年全員で「協働探究」していくプロジェクト型学習です。どう探究していくか、どんな組織をつくっていくか、修学旅行の行き先や内容も自分たちで議論して決めていきます。修学旅行や文化祭は、探究を通して学び得たことを自分たち以外の他者に「表現」する場にもなっており、表現を通して自分たちの探究の過程での学びや成長を「省察」し、次の探究につなげていきます(*1)。「生徒たちと創るプロジェクト型学習をいろんな学校でできたら」と、在籍当時は想いがどんどん膨らんでいました。

3.森田中学校へ

 現任校の森田中学校へ異動し、同様のアプローチを導入しようと意気込んでいましたが、新たな職務に慣れるのに精一杯で、とても新しい実践を提案するような自信は生まれず、「このままでもいいのかな」と思うようにもなりました。
 しかし、同校の課題も見えてきました。一つは学校行事がバラバラでカリキュラムと連携していないこと、そして授業研究の不十分さでした。
森田中学校の探究活動構想 同校で現職教職大学院生の先生と福井大学の木村優先生らとつながるようになり、授業研究の改革を通じて、自信とアイデアが徐々に育まれ、変化の兆しが現れました。「授業研究」の意義や価値、「授業づくりから単元づくり」へ、そしてそれを通して築かれる同僚性や学校文化、培われる子どもたちの資質能力などについて、学校全体で学ぶことができました。特に木村先生からはOECDの学びの羅針盤(Learning Compass)(学び!とPBL <Vol.23> Education 2030と新しいコンピテンシーの定義②、参照)やキーコンピテンシーについて教えていただき、授業研究に対する使命感やわくわく感を抱くようになりました。理解の深まりを見取るためには、生徒の学習活動を一つの場面で見るのではなく、中長期的な過程が必要であることも教示してもらいました(*2)

4.理科 天体教室をひらこうプロジェクト

 後期の授業が始まり、「理科 天体教室をひらこうプロジェクト」を立ち上げ、生徒たちと共に天文学の知識や視点を探究することにしました。
授業実践事例 理科3年「天体」天体教室をひらこうプロジェクト 天体教室をひらくために必要な知識は何かというところから始まり、「天体の位置関係」「日周運動、年収運動のしくみ」「黄道十二星座」「季節の変化」「太陽系の天体」などをどう説明していくかを課題に、授業をデザインしていきました。この単元が終わる頃には、天体や天文現象に関して何か一つでも説明できるようになることを目標に、特に他者の視点に立って説明ができるようになるために「天体教室をひらこう」というテーマで実践していきました。
 内容は教科書の内容を基にしており、事前に行った生徒たちのレディネス調査を見て、黒板で一覧を確認しながら設定していきました。地球は地軸を傾けながら自転し、さらに太陽のまわりを1年間かけて公転しています。この地球に乗っている私たちは外側の風景である宇宙の天体が動いているように見えています。いろんな視点から天体やその動き、変化を見ていくことがこの単元で学習する内容であることを伝えました。単元を通してみんながリトルティーチャー(学びの創り手)となって誰かに天体について教えたり、紹介したりすることができたらいいなと、展望を語りました。

「天体教室をひらこうプロジェクト」の様子

*1:福井大学附属中学校の教育実践は秋田喜代美氏との共著「福井発プロジェクト型学習〜未来を創る子どもたち〜」(東洋館出版社,2018.11)にまとめられています。または、教育情報 <No.13>(2019)をご参照ください。
*2:木村優、岸野麻衣「授業研究」(新潮社,2019)
https://www.shin-yo-sha.co.jp/book/b458147.html