学び!と共生社会

学び!と共生社会

多文化共生と学校教育
2023.11.27
学び!と共生社会 <Vol.46>
多文化共生と学校教育
大内 進(おおうち・すすむ)

1.はじめに

 今回は、外国人児童生徒の教育との関連で学校教育における多文化共生について考えてみたいと思います。近年、外国人児童生徒が増加傾向にあり、学校教育における多文化共生のあり方が問われています。国や文部科学省ではさまざまな施策を打ち出して外国人児童生徒の日本語教育や多文化共生の理解促進に努めています。しかしながら、共生社会の実現という観点からすると様々な課題も浮かび上がっています。
 特に、現実的な対応については、国としての外国人児童生徒の教育に関するガイドライン(*1)が示されているものの、それを実行する自治体の考え方や財政状況によって対応が異なっているという問題があります。予算や人的措置等の制約がある状況において、共生社会の実現という観点から学校を少しでも多文化共生の場としていくためには、教育分野内だけの閉じた空間での取り組みに留めることなく、広く専門的な蓄積のある関係機関等と連携して対応していくことも大切なことだといえます。
 国際協力機構(JICA)では、本務である国際協力を通じて得た知見を生かして「多文化共生・日本社会を考える」など多文化共生の理解啓発活動や学校における国際理解教育/開発教育を支援する様々な事業を行っています。2021年度からは「多文化共生の文化」 共創プログラムとして講演およびフィールドワーク、ワークショップを開催しています。2022年度は、国際理解教育/開発教育に関する授業実践や多文化共生に関するプログラムが実施され、その報告書が公表されています。この報告書には、学校が多文化共生に取り組む上で極めて有用な考え方が示されていて、実践事例や関連情報も満載です。
 そこで、今回は、外国人児童生徒への対応の現状を把握した上で、この報告書の概要を整理しておきたいと思います。

2.外国人児童生徒の増加

 平成2年6月に「出入国管理及び難民認定法」の改正が施行されたことなどにより日系人を含む外国人の滞日が増加するようになりました。それに伴って、外国人に同伴される子どもが増加し、学校教育においても多文化共生や日本語教育が大きな課題となっていることは周知のとおりです(*2)

 文部科学省では、こうしたことを契機に、平成3年度から「日本語指導が必要な児童生徒の受入状況等に関する調査」調査を実施しています。平成11年度までは隔年、同年度から平成20年度までは毎年度実施、平成20年度以降は隔年度(偶数年度)実施となっています。直近の調査は、令和3年度に実施されています。その結果によると、公立学校における日本語指導が必要な児童生徒数は総数で58,307人(約10年間で1.8倍増)、うち日本語指導が必要な外国人児童生徒は47,619人(約10年間で1.8倍増)、日本語指導が必要な日本国籍児童生徒は10,688人(約10年間で1.7倍増)となっており、外国人児童生徒への対応が大きな課題になっていることがわかります(*3)

図1 公立学校における日本語指導が必要な児童生徒数の推移(小学校、中学校、高等学校、中等教育学校、義務教育学校、特別支援学校
*2:『外国人児童生徒等教育の現状と課題』令和4年度文化庁日本語教育大会(WEB大会)より引用

3.外国人児童生徒等への教育の現状

(1)外国⼈児童⽣徒等への教育の現状と課題

 文部科学省では、外国⼈児童⽣徒等への教育の現状と課題を次のように示しています(*2)

⼊国・就学前
 約1万⼈が不就学の可能性があり、就学状況の把握、就学の促進が課題となっている。

義務教育段階
 ⽇本語指導が必要な児童⽣徒は約5.8万⼈。うち、特別な指導を受けられていない児童⽣徒が約1割存在している。指導体制の確保・充実、⽇本語指導担当教師等の指導⼒の向上や⽀援環境の改善、異⽂化理解、⺟語・⺟⽂化を尊重した取り組みの推進が課題となっている。

⾼等学校段階
 年間で6.7%が中退しており、⼤学等進学率は51.8%。中学⽣・⾼校⽣の進学・キャリア⽀援の充実が課題となっている。

(2)外国人児童生徒等教育等に関する主な施策

 こうした状況を踏まえて、文部科学省では、「外国⼈の⼦供たちが将来にわたって我が国に居住し、共⽣社会の⼀員として今後の⽇本を形成する存在であることを前提に、学校等において⽇本語指導を含めたきめ細かな指導を⾏うなど、適切な教育の機会が提供されるようにする」ために様々な施策を展開しています。詳細は文部科学省の資料をご覧いただきたいのですが、主なものとしては、以下のような施策が展開されています(*2)

就学状況の把握、就学の促進
⇒外国⼈の⼦供の就学促進事業(H27年度〜)
指導体制の確保・充実
⽇本語指導担当教師等の指導⼒の向上、⽀援環境の改善
異⽂化理解、⺟語・⺟⽂化を尊重した取組の推進
中学⽣・⾼校⽣の進学・キャリア⽀援の充実
⇒帰国・外国⼈児童⽣徒等に対するきめ細かな⽀援事業(H25年度〜)

 上記のほかに、⽇本語指導が必要な児童⽣徒等の教育⽀援基盤整備事業、帰国・外国⼈児童⽣徒教育等に係る研究協議会等の開催、児童⽣徒の⽇本語能⼒把握の充実に向けた調査研究なども含めて、体制整備や指導内容構築が勧められています。

(3)外国人児童生徒の特別支援学級在籍について

 以上見てきたように、外国人児童生徒の増大に伴って、国としても様々な施策を持って対応してきていることがわかります。しかし、施策で掲げている目的を達成するためには時間がかかります。
 近年の報道によると外国人児童生徒が特別支援学級対象として対応されるケースも少なくないという報道がなされています。2022年2月28日配信の日本経済新聞の記事には、「外国生まれなどで日本語が不得意な小中学生のうち5.1%が、本来は障害のある子らを対象とする特別支援学級に在籍していることが25日、文部科学省による初の全国調査で分かり」、「小中学生全体の割合(3.6%)の1.4倍で、日本語の指導体制が整わないため少人数の支援学級で学ぶケースも多いとみられ」と記されています(*4)。そうした具体的事例についても紹介されています(*5)
 特別支援学級への在籍は、「障害」があることを前提としており、外国人児童生徒の特別支援学級在籍率が全体の1.4倍になっているというのは不自然です。この記事が指摘しているように、指導体制の整備の遅れなどから、外国籍の子らが多く支援学級で学んでいるととらえるのが順当だと思われます。
 なお、この記事では、「文科省は21年6月、特別支援学級に入る基準を定める手引に『障害がないのに日本語指導のために支援学級に入れるのは不適切』と明記した。」と文部科学省の対応も紹介しています。
 こうした事態が生じている背景には、公立小中学校で日本語を教える体制が十分に整っていない事情があることだけでしょうか。筆者は「多文化共生」の文化が十分に学校に醸成されていないということも影響しているように感じています。令和3年1月の中教審の答申に「社会の多様化が進み,画一的・同調主義的な学校文化が顕在化しやすくなった面もある」(*6)という記述が認められるように、外国人児童生徒についても画一的な対応が困難なことからこれまでの学校文化に即して通常の学級ではなく特別支援学級での対応が望ましいという判断がなされたとしても不思議ではありません。
 学習指導要領には、「個人差に留意して指導し,それぞれの児童(生徒)の個性や能力をできるだけ伸ばすようにすること」(昭和33(1958)年学習指導要領)、「個性を生かす教育の充実」(平成元(1989)年学習指導要領等)等の規定がなされており(*4)、また、インクルーシブ教育システムの構築、さらには「多文化共生」の醸成という観点からも、「障害」のない外国人児童生徒についても通常の学級で学ぶという選択が自然のように思われます。
 「多文化共生」という課題に対応していくためには、これまでの学校文化を乗り越える戦略が必要かもしれません。そのためには、教育分野という閉じた空間内だけの対応では限界があるように思います。「多文化共生の文化」を構築していくためには、学校外の専門家や関係機関等とも連携していく姿勢が重要になってくるのではないでしょうか。

4.「多文化共生の文化」 共創とJICAの取り組みから

 こうした「多文化共生」という課題を支援する機関の一つとして国際協力機構(JICA)があります(*7)。ここでは、2023年にJICAが発行した「誰もが自分を発揮できる学校づくり~多文化共生アイディアBOOK 2022~」と題する報告書(以下、「アイディアBOOK」)から紹介します(*8)
 JICAは、日本の政府開発援助(ODA)を一元的に行う実施機関ですが、現在約150の国・地域で国際協力を展開しており、こうした国際協力を通じて得た知見を生かして「多文化共生・日本社会を考える」など多文化共生の理解啓発活動や学校における国際理解教育/開発教育を支援する様々な事業を行っています。2021年度からは「多文化共生の文化」共創プログラムとして、専門家による講演およびフィールドワーク、参加者間のワークショップを開催し、学校教育をサポートしています。2022年度の活動では、国際理解教育/開発教育に関する授業実践や多文化共生に関する取り組み等を行っている全国の教員や教育委員会担当者が参加したプログラムが実施され、「アイディアBOOK」にまとめられています。
 「アイディアBOOK」には、学校が多文化共生に取り組む上で極めて有用な内容が参加者間で共有されています。例えば、学校において、多文化共生を推進するために大切だと思う項目については、参加者間で以下のような内容が共有されています。

  • 管理職との対話や他の教員との対話が大切。
  • 心理的安全が教員間にも必要。
  • 特別支援教育に関する研修によって、理解は深まってきた。その一方で、外国につながる生徒や多文化共生に関する研修はあまりない。教師が自分のスキルを磨くことだけでは限界がある。
  • 外部との連携が必要。学校だけで完結しようとせず、どこかに助けを求めることが大切。
  • 人間関係がとても大事。
  • 教員が余裕・余力を持つことが必要。

 また、参加者全員で「多文化共生の文化をつくる」というのはどのようなことか、キーワードを共有し3つのカテゴリにまとめ、そこに出てきた言葉から、共通認識を深め、次のようにまとめられています。

参加者が考える「多文化共生の文化づくり」

  • 「知る」という言葉には「知らせる」という意味もあると思う。では、「知らせる」場とはどこか。授業でも図書室でも、可能性はあるのではないか。
  • 多文化共生の取り組みにおける入口、そして出口を考えているが、出口から入る活動があってもいい。
  • 「多文化」というのが【当たり前化】する、つまり、【無意識に受入れられている状態】になっていること、習慣化されていることが「文化」ではないか。
  • 「平等」と「公平」の意味を認識すること。
  • 誰に対しても与えられる機会の平等だけではなく、結果の平等も考えること。

「文化」をつくるためにそれぞれが考える必要な視点・取り組み

  • 実生活において、考え方や行動にまで浸透していくことが大切。
  • 地域全体を考えると、小学校では実践が行われているのに中学校に入ったら何も機会がなかったということがないように、継続して学び続けられる仕組みを作る必要がある。
  • 学校によって「多文化共生」の目標が変わってくるということを忘れてはいけないと感じた。多文化=外国人などと一括りにはできないし、それぞれの文脈や課題も異なってくる。外部連携においてもその点を認識した上で、学校・教員がどう関わって連携していくかを考える必要がある。→外部機関に対し、学校が具体的なオーダーを行っていく必要がある。
  • 「多文化共生」についての取り組みは、同じ地域だとしても学校によって取り組まれ方が異なる。地域全体で将来を見据えて取り組んでいきたい。

「多文化共生の文化」をつくる上で外してはいけない視点

  • 平等→公正の視点への変容
  • 「多文化」は外国につながる人だけではなく、個々が持つ特性も含めた視点を持つこと。
  • 「多文化」を受入れるだけでなく、受入れられていることやその考え・行動が当たり前のように定着していること。

 また、参加者の学校や機関による「多文化共生の文化をつくるための活動アイディア」も掲載されていて、「多文化共生の文化」醸成の活動のヒントとなる情報を得ることができます。このアイディア集については次のような説明が付されています。

どのような取り組みをしていくことが「多文化共生の文化」の醸成に寄与していくのか、そのアイディアをまとめたものです。ユネスコの「ハッピースクール」の視点、そして外部連携という視点を踏まえ、授業だけではなく、学校全体として「多文化共生の文化」を実現するための様々なアイディアを考えていきました。その中には、既に実施している取り組みから効果的な内容を発展させたもの、本プログラムで得たインプットから、学校の現状を踏まえて今後進められそうなアイディアが含まれています。それぞれが目指す学校や地域像をもとに、学校が全体的に変容していくためにできる一歩は何かを考えたアイディアの中に、読者の皆様にとって参考になるものがあれば幸いです。

 さらに、巻末の「多文化共生のための参考文献・教材・資料リスト」が掲載されています、72点の文献等が紹介されていて、「多文化共生」をより深く知り、今後の活動を展開していくために役立ちそうです。

5.まとめ

 本稿では、外国人児童生徒が増加傾向にあり、学校教育における「多文化共生」の課題について取り上げました。令和3年1月の中教審の答申では、副題に「~全ての子供たちの可能性を引き出す,個別最適な学びと,協働的な学びの実現~」とある(*6)ように、学校教育の質と多様性、包摂性を高め、教育の機会均等を実現することを示しています。学習指導要領も「個性を生かす教育の充実」へと舵を切っています。しかしながら、外国人児童生徒への対応については、特別支援学級在籍率が全児童生徒の比率を大幅に上回っているなど、苦渋の選択かもしれませんが、個の尊重よりも画一性を重視した対応がなされている実態もあることがわかりました。
 「多文化共生」については、国や文部科学省も様々な施策を打ち出して対応していますが、従前の学校文化では想定していなかった「多文化共生」を学校に根付かせるための環境整備には時間がかかります。また、「多文化共生」だけでなく、「インクルーシブ教育システムの構築」にも関わることですが、「公平」の要素を取り入れていくことで状況は変わってくることが期待できます。しかしながら、通常の学級ではまだまだ「平等」が優先されているように思います。
 今回紹介したJICAの取り組みは学校にさまざまな知見を提供し、こうした学校の弱みを見直す役割を担ってくれています。JICAだけではなく地域で活動しているNPO法人や支援団体など関係機関等とのパイプを太くして、それらの知見を活かしていくことが、学校における「多文化共生の文化」醸成の近道であるように思われました。

*1:『外国人児童生徒受入れの手引き』~外国人児童生徒の体系的かつ総合的な受入れのガイドライン~
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/clarinet/002/1304668.htm
*2:文部科学省総合教育政策局国際教育課「外国人児童生徒等教育の現状と課題」
https://www.bunka.go.jp/seisaku/kokugo_nihongo/kyoiku/taikai/r04/pdf/93855301_06.pdf
*3:日本語指導が必要な児童生徒の受入状況等に関する調査
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/clarinet/genjyou/1295897.htm
*4:NHK Web特集「日本人と外国人に“2倍”の差 いったい何が?」
2022年2月28日 17:00配信
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220228/k10013490711000.html
*5:日本経済新聞「日本語苦手な子の5%が支援学級に 全小中生の1.4倍」
2022年3月25日 17:00配信
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUE2384T0T20C22A3000000/
*6:中央教育審議会「令和の日本型学校教育」の構築を目指して ~全ての子供たちの可能性を引き出す,個別最適な学びと, 協働的な学びの実現~(答申)
https://www.mext.go.jp/content/20210126-mxt_syoto02-000012321_2-4.pdf
*7:JICAについて
https://www.jica.go.jp/about/
*8:独立行政法人 国際協力機構 (JICA)「誰もが自分を発揮できる学校づくり ~多文化共生アイディアBOOK 2022~」
https://j-gift.org/wp-content/uploads/2023/06/jica_tabunka_ideabook2023.pdf