小学校 総合

小学校 総合

「彫刻美術館探偵」(第3学年)
2014.12.15
小学校 総合 <No.004>
「彫刻美術館探偵」(第3学年)
本郷新記念札幌彫刻美術館  田中千秋

※本実践は平成20年度版学習指導要領に基づく実践です。

1.題材名

「彫刻美術館探偵」/47時間

2.はじめに

 平成23年全面実施の小学校学習指導要領図画工作において,博物館との「連携・協力」が明記されたことも含め,美術館においても教育普及への必要性が高まってきている。美術館内部で教育部門が独立している館は少なく,なかなか受け入れ態勢が整っていないという現状はあるものの,各館が模索しながら博学連携が行われている。そうした現状は本郷新記念札幌彫刻美術館(以下,彫刻美術館)も同様であり,美術館と学校の協力による互恵性のある活動が目指されている。
 彫刻美術館では,近隣の札幌市立三角山小学校(以下,三角山小学校)と共に,同校の第3学年総合的な学習の時間において協力した活動を行っている。これは,彫刻美術館と三角山小学校は徒歩で約5分という距離にあり,アクセスが容易であるという恵まれた環境にあることも大きい。
 今年度は1年間を通して「彫刻美術館探偵」として活動を行い,平成25年度の第3学年49名が彫刻美術館に来館し,彫刻作品を鑑賞したり,本館の職員に話を聞いたりなどして自分たちの地域にある美術館について理解を深めてきた。本稿では「彫刻美術館探偵」の活動の中から「わたしたち,子ども学芸員」の実践を紹介する。美術館と小学校の連携や協力において模索している美術館関係者,学校関係者のみなさまに活動の一例として参考にしていただければ幸いである。

3.活動の目標

 本郷新の作品や彫刻美術館の職員の方との出会いや交流を通して,彫刻美術館について愛着を深め,身近な人や地域の人たちに,彫刻美術館について伝えることで,地域のよさを感じる。

4.評価規準

〈学習方法に関すること〉
○問題解決に向かって,見通しをもって考えたり,調べたり,伝えたりする力…『見通す力』『調べる力』『伝える力』

・体験を通して問題を見付け,その解決のために必要な内容や活動を自分で決める力。(見通す力)
・問題解決に向けて,必要な情報,資料を収集,活用しながら追求し,まとめる力。(調べる力)
・調べたいことやまとめたことをもとにして,自分の思いや考えを伝えたい相手に分かりやすく表現する力。(伝える力)

〈自分自身に関すること〉
○「今の自分」を見つめ直し「これからの自分」について考える力…『見つめる力』

・学習を振り返って自分や様々な人たちのよさが分かり,自分の生活とこれからの自分について考える力。

〈他者や社会とのかかわりに関すること〉
○自らをとりまく人・もの・ことにかかわり追求する力…『かかわる力』

・友だちや家庭,地域社会,自然に進んでかかわり活動する力。

5.活動計画

彫刻美術館探偵(47時間)

前期

★オリエンテーション(1時間)
 *総合的な学習の時間で,学ぶことは

★彫刻美術館の?や!を見つけよう(10時間)
 *自分のお気に入りの彫刻を見つけよう
 *教えて館長さん!!

★大好き!彫刻美術館(10時間)
 *名前を付けてお話をしてみよう
 *彫刻と仲良し
 *本郷さんはどんな人?

後期

★彫刻美術館のことなどを,たくさんの人に知らせよう 
<三角山発表会>(12時間)

★わたしたち,子ども学芸員(10時間)
 *キャンドルナイトを開こう
 *わたしたちの作品をたくさんの人に見てもらおう
 *学芸員さんになってみよう

★美術館,館長さん,ありがとう(4時間)
 *感謝を伝えよう

6.単元名

「わたしたち,子ども学芸員」/10時間

7.単元について

 本単元は,総合的な学習の時間「彫刻美術館探偵」の集大成ともいえる活動である。児童は,これまでに彫刻美術館を訪れ,「彫刻美術館はどんなところか?」「彫刻作品とは何なのか?」「本郷新はどんな人だったのか?」「彫刻美術館ではどんな人が働いているのか?」ということを通して,『かかわる力』『調べる力』『見通す力』を培ってきており,学習のまとめとして〈三角山発表会〉で,保護者や2年生に彫刻美術館のよさをわかりやすく伝える活動を行い,『伝える力』を高めてきている。
 本単元は,今までの活動を踏まえた上で自らの作品を「展示」することを通して,「人と人がつながる」とは何なのかを考えることがねらいである。
 これまでの活動では,彫刻美術館に対する自分自身の関心を高めたり,身近な人に彫刻美術館のよさを伝えたりするものであった。本単元においては,作品を見てくれるお客さんの立場になって考えることが重要なポイントとなる。展示は,作品を置いて終わるのではなく,いかに作品を相手に関心をもって見てもらうかが大切となる。そのため,作品展のチラシ作成も行い,お家の方への宣伝を行う広報活動も行う。「相手意識」「つながり」というキーワードをもとに自分たちの活動の価値を感じとることができるようになることを期待している。

8.単元の学習

(1)目標
・自分の作品を見てくれる方々に関心をもってもらえるように,自分ができることを考えることができる。
・友だちと協力して,見通しをもって展示の方法について考えることができる。
・自分の展示の意図や,友だちの展示のよさを分かりやすく伝えることができる。
・彫刻美術館の職員や友だちの考えを聞き,自分ができるようになったことや学んだことについて考えることができる。

(2)学習展開
事前学習①…課題意識をもって学芸員にインタビューし,学芸員の仕事や展示について理解を深める。
事前学習②…作品を展示する場所や,自分たちの使う展示台を確認し,展示への見通しをもつ。
作品展示…学芸員から教えてもらったことや自分たちが計画したことを踏まえて,自らの作品を展示したり,作品展のチラシを作成したりする。
片付け,感想発表…展示された作品の中で自分が気に入った作品や工夫した点について友だちに分かりやすく伝える。

※また,5日間の作品展示期間を設け,作品展「三角山のなかまたち」として一般に公開し児童の活動を広く紹介する。

(3)場所:札幌市立三角山小学校,本郷新記念札幌彫刻美術館研修室

(4)準備物
美術館:展示台
小学校:展示作品(粘土作品,木の作品,木のオブジェ,キャプション,箱,布など)

学習の流れ

評価・留意点(手立て)

事前学習①
日時:1月31日
場所:札幌市立三角山小学校

◎学芸員の仕事や展示のひみつを探ろう!

○学芸員の仕事について

Q:学芸員はどんな仕事をしているのですか?
A:美術館での展覧会を企画したり,作品や芸術家について調べたり,みんなに美術館を好きになってもらうように一緒に勉強します。

Q:作品の並べ方はどのように考えているのですか?
A:作品の大きさや,同じような作品か,違う作品か,または展覧会のテーマから考えています。

Q:展示の時に一番気を付けていることは何ですか?
A:見やすくて分かりやすいように,作品の展示場所や向きを工夫することです。

○展示について

Q:発泡スチロールや木を飾りに使ってよいのですか?
A:大丈夫です。どうしたら見る人がすごいな,すてきだな,カッコイイと思える工夫をしてください。

Q:壁やテープは使っていいのですか?
A:大丈夫です。壁を使うなど,展示の工夫をすることはとても大切です。使う時は先生や私に相談しましょう。

●学芸員が何をしているのか,児童が彫刻美術館で見てきたことを思い出せるように促す。

●児童が鑑賞してきた本郷新の彫刻を例に,「人の彫刻でまとめる」「大きい作品と小さい作品をそろえる」など,展示のイメージを促す。

●美術館での展示は,お客さんに見てもらうことだと気付くように促す。

※作品展示の際は,お客さんのことを考え,よりよく見せるためにはどうすればいいのか気付くことができたか。

※展示のアイディアや気をつけていることなど具体的な話を通して,自分たちの展示へ生かそうとすることができたか。

☆今日は学芸員の仕事や展示のひみつを知ることができましたね。みんなも学芸員になって展示をするのを楽しみにして下さい。

学芸員の仕事はいろいろあるんだね。作品を展示するにはたくさんの準備が必要だね。必要なことやものを考えていこう。

事前学習②
日時:2月5日
場所:本郷新記念札幌彫刻美術館研修室

◎作品を展示する場所や展示の方法についてイメージしよう!

○児童が図工の時間で製作した粘土「三角山のなかまたち」),学校周辺の木々を集めてつくった作品やオブジェを美術館研修室に搬入。

○作品の展示の工夫について考える。
・美術館の展示室にある作品はどんな置き方がされていたかな。
・前から見ればよく見えるけど,横からだとよく見えないな。
・作品の置く角度をななめにしたらどうだろう?
・作品が近すぎるね。作品の大きさや形を考えて展示のバランスを考えてみよう。

○展示台に触り,大きさを知り,どこに自分の作品を置きたいか展示のイメージをもつ。
・展示台の大きさはどのくらいかな。手の平のいくつぶんだろう。
・展示台が近すぎるとお客さんが通れないね。

●「子ども学芸員」として,展示をするという意識をもてるように声掛けをする。
→「みんな私と同じ学芸員として展示の方法を考えましょう。」

●美術館の展示室を思い出せるように声掛けする。

●さまざまな角度で置いたり,大きさの違う作品の隣に置いたりするなど,何パターンかの置き方を提示する。

●児童にも自分が良いと思う展示を試してもらう。

●お客さんの目になって展示を見直してみるように促す。

●展示台を動かしたり,触ったりすることで展示場所や展示台の大きさを実感し,展示のイメージをもてるように促す。

※どうすればお客さんが関心をもつ展示になるかを,考えることができたか。

☆作品を展示する場所の広さや,展示台の大きさについてイメージすることができましたね。どこに何を展示するか,何を準備するかをもう一度確認し,よい展示にしましょう。

限られた場所や展示台で,うまく展示しないといけないんだね。お客さんのことを考えて 展示のイメージをまとめよう。

作品展示
日時:2月6日
場所:本郷新記念札幌彫刻美術館研修室

◎子ども学芸員になって,作品を展示しよう!

○森・土・秋・冬・春エリアと空・海・夏・冬エリアに分けた研修室の展示レイアウトを事前に計画。

○展示レイアウトを参考に展示台の配置。

○学校で考えてきた展示レイアウトをもとに,どうしたら作品がよく見えるのかを試しながら展示。
・展示台の間がやっぱり近すぎるかな。動かしてみよう。
・作品はここに置いた方がよく見えるよ。
・スペースが空いているからここに置こう。
・ここに作品を置いたら作品が重なるからお客さんから見れないよ。
・縦長の作品は立て掛けたらよいと思う。

●「子ども学芸員」として,展示をするという意識を持てるように声掛けする。
→「いままで勉強してきたことをもとに,同じ学芸員としてよい展示にしましょう!」

●一度で決めずに,何種類か試してみるように促す。

●友だちと協力し,どうすれば作品がよく見えるか相談するように促す。

●お客さんの立場になって展示を見てみるように促す。

○展示を終えて,自分が気に入った作品や工夫した点を紹介。
・空のエリアが本当に空を飛んでいるような展示になっていて気に入っている。
・森のエリアのダンボールを使った展示が工夫されていてすごい。
・ここからだと作品が全部見えるから気に入っている。
・お客さんが全部の作品を見ることができるように工夫した。

※計画してきたことや,学習してきたことを参考に,協力しながら展示を行うことができたか。

※自分の気に入った展示について,自分なりの考えをもって,友だちに紹介することができたか。

☆今まで学習してきたことをもとに素晴らしい展示になりましたね。自分の仕事に自信をもってお家の人にも宣伝してみましょう。

限られた場所や展示台で,うまく展示しないといけないんだね。お客さんのことを考えて展示のイメージをまとめよう。

展示期間
日時:2月7日~12日の5日間
※10日は休館日

◎作品は,2月7日(金)~2月12日(水)

○児童は作品展のチラシを作成し,家庭に持ち帰って広報活動を行った。

片付け,感想発表

◎「わたしたち,子ども学芸員」をふり返ろう。

○片付け

○感想発表
・作品を置いて終わりじゃなくて,作品を見てくれる人のことを考えて,作品の向きや,並べ方を工夫することが分かった。これからも,教室の展示などで生かしていきたい。

●作品を片付けるまでが学芸員の仕事だということを伝える。

※作品を見てくれる人の立場になって考えることの大切さについて考えることができたか。

☆美術館での展示は,多くの準備が必要であり,お客さんのことも考える必要があることを学びました。大変かもしれませんが,多くの人が自分の展示を見てくれると思うと嬉しいですよね。美術館では展示を通して人と人がつながっているのです。

美術館の作品展を通してたくさんのことを学んだね。これからも,相手の立場になって考えることができるようにがんばっていこう。

9.おわりに

 本郷新記念札幌彫刻美術館は,その名の通り札幌生まれの彫刻家・本郷新(ほんごう しん/1905‐1980)の美術館である。美術館は主に彫刻を中心とした企画展を行う本館と本郷の作品を展示している記念館に分かれている。館が分かれていると言っても大きな規模ではなく,5人の職員(内,学芸員1人)で運営している。
 本郷新は生前に「私を乗り越えて若い芸術家がどんどん生まれて欲しい」と語っており,彫刻美術館ではその想いを受けて,若手育成をポリシーとし,若手作家の紹介や教育事業に力を入れている。小学生の作品展に関しても継続して続けられており,彫刻美術館の研修室で展示されてきた。
 しかし,これまでの作品展は,小学校から児童作品を借りてきて,美術館の職員が展示していたため,作品展と児童の関係が希薄であった。したがって,作品展開催中も子どもや家族が美術館を訪れることが少なかった。今までの展示は「美術館で展示すること」が目的となってしまい展示と児童の間には学びが生まれていなかった。「わたしたち,子ども学芸員」では,展示と児童の結び付きを深め「自分たちの作品展を他の人にも見てもらいたい」という意識をもってもらい,作品鑑賞とは異なる視点で美術館の事を理解してもらうことが美術館のねらいでもあった。
 三角山小学校に事前学習に行った際には,児童は美術館で作品展をすることに対して,まだあまりイメージができていなかったように思う。しかし,「学芸員として一緒に働こう!」と声を掛けながら学習を重ねるごとに,児童の表情は変化し,美術館で展示をすることに対する意識が変わってきたことが窺えた。展示当日は目を輝かせ,今か今かと楽しみにしている様子が印象的であった。展示を終えた時,先生の「自分の好きな場所に行ってみよう」という声掛けに対し,自分の気に入った作品の場所へ行き,自信をもって感想を述べることができていた。
 また,作品展の広報について,児童がチラシをつくってお家の方に宣伝してみては,という美術館の提案に,先生が快諾してくれたこともあり,児童は自らチラシをつくって広報にも取り組むことになった。美術館の広報活動の一環を学んでもらうと共に,広報をすることで責任感が増したようであった。その効果もあり,作品の展示期間中には,保護者と共に来館する児童や,児童だけで来館する姿も見られ,自分たちの展示について話し合ったり紹介したりしている場面が見られた。
 「わたしたち,子ども学芸員」では,広報も含めた美術館の展示にかかる一連のプロセスを学ぶ機会になったと言える。課題であった展示と児童の結びつきも深めることができたと考えている。展示期間中に保護者や児童が足を運んできてくれたことは正にその成果と言えるだろう。本活動は,「美術館の展示とは何か?」という分かりそうで,やってみないと分からない問いに対して,実践を通して難しさや楽しさ,責任,自信を得ることができた意義のある活動であった。児童の美術館や美術に対する見方が変わっていき,再び彫刻美術館に足を延ばしてくれることを期待している。
 本活動は,美術館だけでは実現することができず,三角山小学校の密接な協力のもとに実現している。平成25年度は,「わたしたち,子ども学芸員」をはじめとして有意義な活動を行うことができた。1年間担当してくださった,市立三角山小学校の加瀬美幸先生をはじめとする先生方の熱心な活動と,全面的なご協力に対し,この場を借りて厚く御礼申し上げます。