教育情報

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コミュニティ・スクールの展望
2015.07.01
教育情報 <日文の教育情報 No.138>
コミュニティ・スクールの展望
公立大学法人宮崎公立大学理事長 田原健二

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 今更ではあるが、コミュニティ・スクールとは「学校運営協議会」が設置され、教育委員会から任命された保護者、地域住民等が、一定の権限と責任を持って学校運営の基本方針を承認すること、教育活動に対する意見を述べること、教職員の採用その他の任用に関する事項について任命権者に対して意見を述べることが保証された制度である。
 コミュニティ・スクールを全公立学校の1割に拡大するという推進目標が「第二期教育振興基本計画」において掲げられ、「教育再生実行会議・第六次提言」では全ての学校がコミュニティ・スクールの仕組みの必置について検討を進めることが提言されている。
 ところで、地域とともに子供を育てるという学校の在り方は、これまでの日本の公立学校の歴史が求めてきたものと言っても過言ではない。
 学校運営協議会制度におけるコミュニティ・スクールが求める“地域とともにある学校づくり”をガバナンスとソーシャルキャピタルの視点から検討し、今後の展望について考察したい。

■コミュニティ・スクールとガバナンス

 地域と学校との関わり方・在り方は、制度上、大まかに次の三つの段階を辿ってきたといえる。学社融合・連携による地域の教育資源を活用して充実した教育活動を推進する段階、学校評議員・学校関係者評価制度による地域住民の意向を反映した開かれた学校経営・運営を推進する段階、学校支援地域本部事業など地域ぐるみで学校を支援する仕組みを構築し、地域とともにある学校づくりを推進する段階である。
 学校運営協議会は、前述した一定の権限が制度上保証されていることから、学校の教育活動に関する「支援活動」のみに留まらず、学校運営に関して合意形成し「参加・意志決定」することをその機能として持っている。学校運営に関わっている主体(保護者、地域住民等)が「地域の課題は地域で」課題解決していこうと相互調整(熟議)する時、「おらが学校」を中心とした“まちづくり”に繋がっていく可能性を持っている。コミュニティ・スクールは“まちづくり”の方向性を持った制度と言える。
 今後、教育課程特例校制度の活用や「地域学」の編成・実施などに多くの主体が積極的に参画し、「おらが学校」のカリキュラムの構築に学校運営協議会がかかわっていくというアプローチが考えられる。

■コミュニティ・スクールとソーシャルキャピタル

 地域における公立学校の存在意義は、少子高齢化、人口減少の進行する社会において教育の機会均等、地域コミュニティの維持の観点からも極めて大きい。
 コミュニティ・スクールを導入することで、より効果的な学校間連携や地域住民のソーシャルキャピタルの醸成が推進されることは実践校の「成果」の一つとして確認されている。保護者、地域住民等が学校運営などへ積極的に参画することに伴って、地域内での各主体間の社会的つながりが増し、そのことが学校の教育活動においてさまざまな好結果―学力向上、生徒指導上の諸問題の減少等―を生み出していくというポジティブフィードバックの存在の可能性も指摘されている。
 学校運営協議会制度は、コミュニティ・スクールを中心として多くの保護者、地域住民・団体を巻き込むことでコミュニティの信頼性、互酬性、ネットワークの密度を増し、学校教育の「資本」としての「よき地域づくり」につながる方向性を持っている。
 学校運営協議会が福祉関係機関やスクールソーシャルワーカー等と家庭教育支援チーム等を組織し「学校運営に関する意見の申し出」を家庭・地域に対する支援活動につなげるというアプローチも考えられる。

■おわりに

 多くの市町村教育委員会では、学校に学校運営協議会を設置し、積極的な支援体制を確立することで、学校が抱える課題の解決を地域社会と一体となってはかり、地域が活性化し“まちづくり”に資する学校となっていくことが期待されている。
 コミュニティ・スクールの展望について、二つの視点から検討したが、今後、コミュニティ・スクールの導入がより促進されることが予想される。その際、コミュニティの規範と学校・教員の専門的規範との間で生じる葛藤を軽減するのが学校運営協議会における熟議であり、熟議をとおしてガバナンスやソーシャルキャピタルがさらに醸成されていくものと考える。

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