学び!とシネマ

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海賊じいちゃんの贈りもの
2015.10.09
学び!とシネマ <Vol.114>
海賊じいちゃんの贈りもの
二井 康雄(ふたい・やすお)

(C)ORIGIN PICTURES (OUR HOLIDAY) LIMITED / BRITISH BROADCASTING CORPORATION 2014

(C)ORIGIN PICTURES (OUR HOLIDAY) LIMITED / BRITISH BROADCASTING CORPORATION 2014

 大人の勝手な都合で、幼い子どもたちに多大な迷惑がふりかかることがある。また、子どもは、信頼できる大人の言うことにきちんと耳を傾けることがある。映画「海賊じいちゃんの贈りもの」(エスパース・サロウ配給)では、大人の勝手さ、大人の勝手さにうんざりの老人、子ども独自の世界観が、まとめてスピーディに綴られる。展開が軽快で、小気味いい。
 イギリス、ロンドン。父のダグと母のアビーは離婚寸前の仲。9歳の長女ロッティ、6歳の長男ミッキー、4歳の末娘ジェスの三人の子どもがいる。彼らは、いずれも個性的である。ロッティはメモ魔で、大人の言うことをいちいちノートに書きつける。ミッキーは海賊のヴァイキングに憧れている。末っ子のジェスは、石を集めて、それぞれに名前をつけている。
 ダグ一家は、ダグの父、ゴーディの75歳の誕生日を祝うために、一週間の予定でスコットランドに向かう。ダグとアビーは、子どもたちに仲良しのパパとママを演じようとするが、子どもたちは既に状況を理解している。おじいちゃんのゴーディは、ダグの兄ギャビン夫婦と同居しているが、居心地がいいというわけではない。ギャビンとダグの兄弟の仲もうまくいっていない。おまけに、ギャビンの妻マーガレットはいささか情緒不安定。10代の息子ケネスは、他人に無関心で、達者とは言えないバイオリンをところかまわず弾きまくる。
 大人たちは、ふとしたきっかけで、それぞれのエゴを主張し出す。そんな中、おじいちゃんの誕生日を祝うパーティの準備が進んでいく。息子夫婦たちの身勝手さにあきれ果てたおじいちゃんは、子どもたちを連れて浜辺に出かける。スコットランドの美しい風景が続く。おじいちゃんの「先祖はヴァイキングだった」の話に、子どもたち、とくにミッキーは大喜びである。
 おじいちゃんと子どもたちは、浜辺でのんびりと過ごしている。そこに、身勝手な大人たちへの制裁とも思える事件が起こる。結果的に、大人たちを巻き込んだ、とんでもない展開になっていく。
 撮りようによっては、シリアスなテーマ、展開になったかもしれない。共同で脚本、監督を担当したガイ・ジェンキンとアンディ・ハミルトンは、ドラマをコメディ・タッチで貫く。ラストは、ハラハラドキドキ、笑えるし、ホロリともする。そして、大人たちはともかく、子どもたちは確実に「海賊じいちゃんの贈りもの」を手にすることになる。
 パパ役ダグを演じたのは、「ハリー・ポッターと炎のゴブレット」にも出演したデヴィッド・テナント。ママ役アビーは、ロザムンド・パイク。最近では、「ゴーン・ガール」に主演、アカデミー賞の最優秀主演女優賞にノミネートされた。
 頑固だが、飄々、とぼけたおじいちゃん役を力演したのは、キャリア豊富なビリー・コノリー。
 ふつうに常識があると思われている「大人」の身勝手さや欠陥、「子ども」だけの持つ純粋さが、頑固な「おじいちゃん」というフィルターを通して見事に語られる。イギリスの知性とユーモアにあふれている力作と思う。教育に携わる大人には必見と言っていい映画。もちろん、家族揃ってご覧になると、明日からは親と子の関係がさらにうまくいくようになるかもしれない。そう、あって欲しい。

2015年10月10日(土)より角川シネマ新宿ico_linkほか全国順次公開!

『海賊じいちゃんの贈りもの』公式Webサイトico_link

監督・脚本:アンディ・ハミルトン、ガイ・ジェンキン
製作:デヴィッド・M・トンプソン
出演:ロザムンド・パイク、デヴィッド・テナント、ビリー・コノリー
2014/イギリス/ビスタサイズ/DCP/95 分/カラー/英語
日本語字幕:西村美須寿
原題:WHAT WE DID ON OUR HOLIDAY
提供:ハピネット
配給・宣伝:エスパース・サロウ