学び!とシネマ

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マルガリータで乾杯を!
2015.10.23
学び!とシネマ <Vol.115>
マルガリータで乾杯を!
二井 康雄(ふたい・やすお)

(C)ALL RIGHTS RESERVED C COPYRIGHT 2014 BY VIACOM18 MEDIA PRIVATE LIMITED AND ISHAAN TALKIES

 ひところのインド映画の多くは、登場人物が唐突に歌いだしたり、踊りだしたりした。これはこれでおもしろいが、やはりドラマとしての辻褄があわず、いまひとつ、のめり込めなかった。このところ、「きっと、うまくいく」や「めぐり逢わせのお弁当」、「マダム・イン・ニューヨーク」など、突然、歌ったり、踊ったりしないドラマ仕立てのインド映画の秀作が多い。このほど公開の「マルガリータで乾杯を!」(彩プロ配給)も、そんな一本。

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 19歳の女子大生ライラは、障がいを抱え、車椅子でデリー大学に通っている。健常者に混じっても、まったく元気。何事にも前向きで、好奇心も旺盛、明るい性格である。両親も、ライラに精一杯の愛情をそそいでいる。両親はお金持ちではないけれど、自家用車があるくらいの、いわば中流の家庭である。ライラや弟にも、パソコンやスマホなどを所有させている。
 ライラは音楽が好き。同級生たちとバンドを組み、作詞もしている。バンド仲間でボーカル担当の男性ニマに、自作の詩を送る。これが、ニマに誉められる。ライラは、ニマにほのかな恋心を抱く。音楽コンテストが開かれる。ニマのバンドが、ライラの作った詩で演奏する。なんと、優勝する。審査員は言う。「障がい者が作詞したから、優勝を決めた」と。ライラは、がっかりする。ニマは、ライラを励ます。思わずライラは、ニマに告白するが、ニマに体よく拒否される。「バカみたい」と、落ち込んだライラは、大学に行くのもやめ、失意の日々を過ごす。そんなライラに、ニューヨーク大学に留学する話が持ち込まれる。父親は反対するが、母親は大賛成。ライラは母親とともに、冬のニューヨークに旅立つ。

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 映画には多くの示唆がある。障がい者と肉親や健常者との関わり、19歳の女性としての心と体のこと、同性を愛し異性も愛するといったバイセクシャルの問題、肉親の致命的な病気などなど。ヒロインのライラをめぐって、ドラマは二転三転する。ライラを演じたのはカルキ・コーチリンという、インド生まれのフランス人女優。すでにアラサー世代だが、19歳の障がい者役を達者に演じ切る。なにより、ドラマの描き方がきめ細かく、清潔である。演出は、女性監督のショナリ・ボース。アメリカでの映画の修行が大きな果実となった。
 これは、やがて大人になろうとしている若い人に、ぜひ見てほしい。おそらく、これからの現実に必ず出会うであろう事象の数々が、映画に登場するのだから。タイトルにある「マルガリータ」は、女性の名前に由来するカクテル。テキーラにホワイト・キュラソー、レモンかライム・ジュースを入れ、シェイクする。強いカクテルだが、これまた、大人へのとば口かもしれない。

2015年10月24日(土)よりシネスイッチ銀座ico_linkほか全国順次ロードショー!

■『マルガリータで乾杯を!』

脚本・監督:ショナリ・ボース
出演:カルキ・ケクラン、レーヴァティ ほか
2014年/インド/英語、ヒンディー語/カラー/ヴィスタ/5.1ch/100分/
配給:彩プロ
宣伝:ミラクルヴォイス