小学校 道徳
小学校 道徳

1.はじめに
「特別の教科 道徳」の実施にあたり、「評価」について様々な実践や案が出ています。評価は子どもの実態や成長を把握し、それに合わせて指導をしたり保護者と連携したりして教育効果を上げるためにあります。どの教科・領域においてもその意義は変わりません。今回は評価基準を用いるルーブリック(注1)評価を参考にした実践を紹介します。児童一人一人がどのような考え方をしたのか分析することで、授業中の声掛けや事後の指導に生かすことができると考えました。先生方の実践のご参考になれば幸いです。
2.実践
(1)主題名 働くことのよさを感じて C[勤労、公共の精神]
(2)教材名 「もりのゆうびんやさん」(出典:「小学校道徳読み物資料集」文部科学省)
(3)主題設定の理由
A.ねらいとする道徳的価値について(指導観)
自立した人間として、他者と共によりよく生きるためには、自己の能力を発揮し働く必要がある。変化の激しい現代社会においても、社会の維持向上に積極的に努める価値の尊さは社会の形成者である以上揺るがない。その手段である勤労、職業につながるような教育が求められている。
小学校では、児童が自己中心的な考えから視野を広げ、他者や集団、社会に愛着をもつように指導を重ねていく。その中で、多くの人々の支え合いや助け合いを実感し、自分もそれに応えようという意欲につなげる。そして、実践する場所を与えていくことで、社会の維持向上に積極的に努めようとする態度を育てることができる。
働くことの意義については多様な考えがあり、これからの社会を生き抜くためには様々な考えに触れることも大切である。本研究では、様々な考え方の中でも、社会の維持向上に積極的に努める価値を中心におく。低学年の発達段階を考慮して、集団を限定したものにせず「みんなの役に立つ」ことを中心に働くことのよさについて考えさせる。目の前にいる先生、友達、家族等見える相手から、少しずつ集団という見方ができるように視野を広げさせる。自分のしている仕事は誰かの役に立ち相手の喜びにつながることを実感させ、みんなの役に立とうとする心情を育てたい。
B.児童の実態(児童観)
掃除や給食当番等、意欲的に取り組む姿が見られる。その動機としては、その作業が楽しかったり、新鮮だったりするところが大きく、また、先生や家の人に褒められるという基準で動いている様子が窺える。
普段の生活ではその実態に合わせて、様々な仕事に触れさせ、教師の声掛けから価値観を広げることを意識して指導に当たっている。その結果、学級内で様々な仕事があることを理解しつつある。また、自分の役割がみんなに影響を与えることも経験してきている。
6月の生活科「商店街探検」の学習では住んでいる町の人々の仕事についても学ぶ機会となった。目の前の自分たちの仕事と直接結びつけることは難しかったが、職業を知る、仕事を知るという部分で学びがあった。
7月の特別活動「多田小祭り」の学習では、縦割り班活動で、任された簡単な仕事を楽しく、責任をもって行うことができた。遊びの中でも、仕事として認識する機会になった。
9月の道徳「のぶくんはポスター係」の教材を使った学習では、「楽しいから、褒められるから」という喜びから、「ありがとう」等の周りの人が喜んでいることが分かった時に喜びを感じるという価値観に気付く時間となった。自己の振り返りの活動では、学級内で他の人の仕事で嬉しかったことの経験を書いた。そして、終末では教師の説話で、自分も人に喜んでもらえるように仕事ができるといいねと生活につなげた。
本時では、指導をより一層深めるために、自分のしている仕事は、自分が楽しむだけでなく周りの人も嬉しい、周りの人の役に立っていることのよさを感じられるようにする。そして、これからもみんなの役に立とうとする道徳的心情を育てたい。
C.教材について(教材観)
くまさんは森の郵便屋さんである。ある雪の日のこと、やぎじいさんへ小包を届ける仕事が入る。くまさんは鞄の中に小包を大切に入れてやぎじいさんの家に向かった。やぎじいさんに心温まる小包を無事に届けるとやぎじいさんは感謝の気持ちを伝えた。くまさんは、それを聞いて次に配達する家に急いだ。一日の仕事を終え家に帰ると、くまさんに一通の手紙が届いていた。森のこりすから、くまさんが仕事をしていることに感謝する内容の手紙だった。
本教材は、勤労について「した方がいい、でも辛いこともある」といった人間理解を深められる場面や、価値について多面的、多角的に考えられる場面が見られる。そのことから、くまさんに共感し心情や判断を話し合うことで、勤労についての価値理解を深めることができる資料だといえる。くまさんの気持ちを通して、自分の仕事が誰かの喜びにつながっていることや相手の役に立っているという、働くことのよさを学ばせたい。
場面 |
価値に関わる心情 |
---|---|
①くまさんが森のみんなに郵便をわたす。 |
喜んでくれてうれしい。 |
②くまさんは、郵便が無い日でも森のみんなと話したり、他の森の様子を伝えたりする。 |
みんなを喜ばせたい。 |
③ある雪の日に小包が届く。 |
雪で届けるのが大変だ。 |
④くまさんがカバンの中に小包を入れて出かける。 |
やることに決めた。 |
⑤やぎじいさんの家が見え、急ぎ足で歩く。 |
つらいな。 |
⑥やぎじいさんに郵便を渡す。 |
やっとついた。 |
⑦次に配達する家に急ぐ。 |
次も頑張ろう。 |
⑧家に帰り、手紙を読む。 |
みんな喜んでくれているんだな。 |
(4)評価について
一人一人の学習状況についての評価の観点は「みんなのために働くことのよさについて、自分の経験に照らし合わせながら考えることができたか」とする。
評価方法は、自己の生活を振り返る活動の場面でワークシートを活用する。ワークシートを活用することで、じっくりとねらいとする価値について自己を振り返るとともに、一人一人がどのように価値について考え、深めたのかをみとれるようにする。
事前に行ったアンケートの結果とねらいとする価値についての指導者が評価した簡単な所見を用意しておく。
(はたらくことのよさについてかんじたことを書きましょう) |
|||
---|---|---|---|
仕事ができるようになった。 |
友達の助けになってよかった。 |
みんなが困らなくなったからよかった。 |
|
仕事が楽しい。 |
友達に「ありがとう」といわれた。 |
みんなが喜んでくれた。 |
|
シールをもらえた。 |
親に褒められた。 |
みんなに褒められた。 |
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(5)本時の学習
A.ねらい
みんなのために働くことのよさを感じ、みんなの役に立とうとする心情を育てる。
B.展開
|
主な発問と児童の心の動き |
※指導上の留意点と手立て ☆評価 |
---|---|---|
つ |
◆学習のめあてをもつ。 |
※アンケート調査でどのような意見があったかを伝える。 |
はたらくとどんないいことがあるだろう |
||
深 |
◆「もりのゆうびんやさん」を読んで、話し合う。 |
※くまさんの気持ちを想像しやすくするために、BGMを流して資料提示をする。 |
2 やぎじいさんの家に向かいながらくまさんはどんなことを考えていたでしょう。 |
※仕事をすることは時に辛いと感じる人間理解と、それでもがんばろうとするくまさんの動機を考えさせることで価値理解を深めさせる。 |
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3 手紙を読みながらくまさんはどんなことを考えていたでしょう。 |
※やぎじいさんだけではなく、こりすや他の人も同じ気持ちでいることをおさえる。 |
|
生 |
◆自己の生活を振り返る。 |
☆みんなのために働くことのよさについて、自分の経験に照らし合わせながら考えることができたか。(ワークシート) |
D.評価の例
児童4
授業前のアンケートで働くことのよさについて、「何かもらえる」「楽しい」の自己の利益が優位にある回答をしていた。また、普段の生活からは、怠けたり嫌がったりするようなことはほとんどなく、しなければならないことを確実にこなすところを評価していた。授業中の発言はほとんどなかったが、他の児童の発言をよく聞いて取り組んでいた。ワークシートでは、家庭でのお手伝いのことを振り返り、「ありがとう」と言われて、仕事が好きになったことを書いた。この授業では、他者意識の広がりが見られた。
児童8
授業前のアンケートで働くことのよさについて、「褒められる」「仕事ができるようになる」という回答をしていた。また、普段の生活からは、自分から進んで行うというよりは、指示を受けて仕事を覚えている段階と評価していた。書く活動があまり得意ではなく、本時でも何を書こうか悩んでいたため、「できるようになったことがあるかな」と声掛けを行った。すると、生活班のリーダー活動のことを思い出し、自分の経験と照らし合わせて考えることができた。
児童3
授業前のアンケートで働くことのよさについて、「何かもらえる」「みんなが困らない」というルーブリックで見るとバラバラな回答をしていた。また、普段の生活からは、周りの大人の様子を見て、褒められそうなことを行う傾向があると評価していた。中心教材のくまさんの気持ちでは、「やぎじいさんの笑顔のために頑張る」と相手を意識した発言をしていた。また、「手紙がもらえてよかった」という気持ちに共感した発言をした。ワークシートでは、「お小遣いをもらえなくても褒められてよかった」と、価値を比べながら相手意識の面で進んだ方に価値を見出していることが見られた。その他に書いていることからも、ねらいとする価値について、多面的・多角的に考えていることが分かる。
児童5
授業前のアンケートで働くことのよさについて、「何かもらえる」「褒められる」というねらいとする価値についての深さでは低い回答をしていた。また、普段の生活からは、言われたことを確実にこなしていると評価していた。ワークシートでは、家庭で、お風呂掃除をしたときに、兄弟に喜んでもらえたことを思い出し、経験に照らし合わせて考えることができた。この授業では、ルーブリックにおけるねらいとする価値の深まりが見られた。
3.おわりに
今回は「C 勤労、公共の精神」の「みんなのために働くことのよさ」をねらいとする価値とし、「もりのゆうびんやさん」を中心教材にして授業をしました。ルーブリックはその価値の深まりと相手意識の広がりをベクトルに作っています。このルーブリックのベクトルはどの内容項目でも当てはめられるものでもありません。また、同じ内容項目でもねらいや教材が違えば変わってくるでしょう。大事なのは、指導者が児童にどのような価値観に触れさせたい、気付かせたい、身につけさせたいという願いをもって指導に当たるかです。指導の成果である児童の実態を把握していく手段の一つとして、今回の提案をご参考にしていただけたら幸いです。
注1:ルーブリックとは、子どもの学習到達状況を評価するための、評価基準表のこと。