学び!と美術

学び!と美術

図画工作・美術の「見方・考え方」
2016.12.12
学び!と美術 <Vol.52>
図画工作・美術の「見方・考え方」
奥村 高明(おくむら・たかあき)

 新しい学習指導要領で提示される「見方・考え方」について検討します。結論から言えば、図画工作・美術では前回改訂の経緯や趣旨を理解していれば大丈夫だと思います。

1.「見方・考え方」とは何か(※1)

 グローバル化、情報化、技術革新などの急速な変化が、私たちの社会や身近な生活を質的に変えています(※2)。それらは子どもたちの成長にも影響を与えています(※3)。子どもたちが社会で活躍する30年後はいったいどうなっていることでしょう。“30年後に求められ、必要となる力を身に付けさせたい”、そこから中央教育審議会は、「社会に開かれた教育課程」を主軸に「各教科等をなぜ学ぶのか」「それを通じてどういった力が身に付くのか」という「学びの本質的な意義」をとらえ直す議論を展開してきたようです。各教科等の「見方・考え方」はこの文脈から生まれてきたと思われます(※4)。
 「見方・考え方」は、「どのような視点で物事を捉え、どのように思考していくのか」という教科等の「視点や考え方」とされています。例えば、算数・数学で示されている「見方・考え方」は「事象を数量や図形及びそれらの関係などに着目して捉え、論理的、統合的・発展的に考えること」です。子どもたちに置き換えれば、“数や量、図形とその関係に着目し”、そこから“論理的、統合的・発展的に考えている”姿でしょう。「審議のまとめ」では「見方・考え方」を支えているのは「各教科等の学習において習得した概念(知識)や考え方」だとも述べられています。子ども一人一人が自ら習得した知識や理解したことなどを活用し、具体的な課題について考え探究する姿が「見方・考え方」ということもできるだろうと思います。ただ、「見方・考え方」という言葉自体は一部の教科で用いられているだけで、学習指導要領全体として語られることはありませんでした。そこで、今回、各教科等の「学びの本質的な意義」を「見方・考え方」として明確化し、それを軸とした授業改善の取組を活性化しようということなのでしょう(※5)。

2.図画工作・美術の「見方・考え方」と〔共通事項〕

 図画工作・美術の「見方・考え方」については、現在のところ、以下のように整理されています。

図画工作
感性や想像力を働かせ、対象や事象を、形や色などの造形的な視点で捉え、自分のイメージを持ちながら意味や価値をつくりだすこと。
美術
感性や想像力を働かせ、対象や事象を、造形的な視点で捉え、自分としての意味や価値をつくりだすこと。

 まだ審議中であり、「審議のまとめ」から「答申」までは変更があると思われます。あくまでも8月時点での資料であり、これをもとにした筆者の個人的な意見であることを踏まえながら、検討してみましょう。

(1)「見方・考え方」のポイント
 まず、冒頭にくるのは、「感性や想像力を働かせ」です。「働かせ」の主語は子どもですから、ここには「(子どもが)感性や想像力を働かせ」という隠れ主語が入っていると考えてよいでしょう。前回、図画工作の改訂では、教科目標に「(子どもが自らの)感性を働かせながら」という文言を加えました。児童の感覚や感じ方などを一層重視するためですが、併せて中学校美術科の目標にある「感性」との共通化も図っています。今回、音楽や書道など芸術系全教科の「見方・考え方」に「感性を働かせ」という言葉が入っています。「感性を働かせる」ことは芸術系教科の基本的な立場に昇華したと言えるのかもしれません(※6)。
 次に、「対象や事象を、(形や色などの)造形的な視点で捉え」、そこから自分の「(イメージを持ちながら)意味や価値をつくりだす」と続きます。「見方」と「考え方」は厳密に分けられる性格ではないと思われますが、便宜的にとらえれば、前者が「見方」で、後者が「考え方」でしょう。子どもたちに置き換えれば、“形や色などの造形的な視点に着目して目の前の世界を捉え”、そこから“自分の意味や価値をつくりだす” 姿でしょう。
 最終的にどうなるかは不明ですが、図画工作・美術では、まず、子どもが自らの感性や想像力を働かせることを基盤に(※7)、対象や事象を造形的な視点で捉え、自分のイメージを展開したり、自分の意味や価値をつくりだしたりすることが「見方・考え方」であり、教科の学びの「本質的な意義」だと考えられます。

(2)「見方・考え方」と〔共通事項〕
 「見方・考え方」について、〔共通事項〕の視点から考えてみましょう。
 子どもは、何かの材料に触れたとき、その形の感じや質感を自分なりにとらえています。また、材料を見つめながら色の変化に気付くなど、対象の特徴をとらえています。自覚的であれ、直観的であれ、子ども一人一人は、何らかの知識や理解を持っています。同時に、材料などの形や色に対して、あるいは粘土を練るとか並べるなどの自分の行為に対して、ぼんやりと、時には明確に、自分のイメージも持っています。中学生であれば、色に関する文化的なイメージを把握したり、作家に対して特定のイメージを抱いたりしていることもあるはずです。
 つまり、何か「こと(表現や鑑賞の活動)」を起こす前に、子ども一人一人は、すでに形や色などの特徴をとらえ,イメージを持っているわけです。その上で、これらを基に発想・構想したり,鑑賞したりするなどの具体的な学習活動を展開しているのです。前回の改訂では、この「形や色などの特徴をとらえ,イメージを持つ」という基盤的な部分を、造形活動や鑑賞活動の“共通項”として取り出し、「表現と鑑賞の全てにおいて働く」としました。それが〔共通事項〕です。それによって、児童・生徒の活動を具体的にとらえ、指導や評価を改善するとともに、子どもの資質や能力をより高めようとしたのです。

 それは、表現や鑑賞を超えて、図画工作・美術という教科の学びを本質的に見直す作業でした。つまり、今回「見方・考え方」で提示された教科の学びの「本質的な意義を捉え直す」ことが行われていたというわけです。前回の改訂で、感性を明確化し、〔共通事項〕を導入したことと、「見方・考え方」は同じ文脈にあります(図参照)。言い換えれば、「見方・考え方」は、感性を基盤に、〔共通事項〕が一人一人の児童・生徒において十分に活用された姿として見ることができるのです。

3.これからの授業づくり

 「見方・考え方」を踏まえたとき、各学校は、どのような授業づくりに取り組めばよいでしょうか。
 「審議のまとめ」では、「見方・考え方」は、「表現及び鑑賞に共通して働く資質・能力である〔共通事項〕とも深い関わりがある」とされ、「今後、その関連について検討していく」と述べられています。この文脈から、〔共通事項〕の趣旨を生かした学習活動の充実が考えられます。例えば、学習活動で取り扱う「形や色など」について、単なる事実的な知識にとどまらず、その効果や性質、生活や社会との関わりまで具体的にとらえ、発達の段階を踏まえながら、児童・生徒一人一人が主体的に活用できる学習過程を工夫することが可能です(※8)。その際、知識や技能の一方的な伝達に陥るのではなく児童一人一人の感性や想像力が働くようにすることが肝要でしょう。そのことが〔共通事項〕を十分に活用した学習活動につながると思われます。
 また、アクティブ・ラーニングの「深い学び」、「対話的な学び」、「主体的な学び」の視点から学習指導の改善・充実も求められるでしょう。この時、図画工作・美術の“アクティブさ”に目を奪われないようにしたいものです。本連載でも、図画工作・美術で子どもたちが楽しく活動しているのは、自分の資質や能力が発揮されていることが実感できるから楽しいのであって、題材や学習自体は厳しく難しいことを指摘しています(※9)。「審議のまとめ」で指摘されている「自分の見方や感じ方」「批評」「討論」などを視点に、「主体的な学び」の楽しさ、「深い学び」の面白さなどを明確にする必要があるでしょう。今回の改訂が「社会に開かれた教育課程」を主軸に置いていることを考慮すれば、図画工作・美術の授業を、学級単位で考えるのではなく、学校全体のカリキュラム・マネジメントの中で位置付けることも求められるかもしれません。
 ちまたでは「年が明ければ答申が出る」「年度内には学習指導要領が告示される」と言われています。前回の改訂をさらに発展させた図画工作・美術の学習指導要領を心待ちにしながらも、今から研究や実践を具体化する手立てを講じたいものです。

 

※1:中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会「次期学習指導要領等に向けたこれまでの審議のまとめ」平成28年8月26日
※2:例えば、技術革新で、つい10年前まであった仕事が消えています。PASMOやスイカは駅の改札を消し、スマートフォンは公衆電話やテレフォンカードを激減させました。いったい子どもたちの活躍する30年後、世の中はどうなっているのでしょう。その時に行われている仕事な何なのでしょう。このことについては、様々な識者が指摘しています。「テクノロジーが雇用の75%を奪う」マーティン・フォード(著)秋山 勝 (翻訳)朝日新聞出版(2015)
※3:例えば、現代の子どもは映像文化やメディアなどで高速で視覚的に操作することに長けています。それは知能指数にも影響を与えているようです。「なぜ人類のIQは上がり続けているのか? –人種、性別、老化と知能指数」ジェームズ・R・フリン(著)水田賢政(翻訳)太田出版(2015)、「知能と人間の進歩 遺伝子に秘められた人類の可能性」ジェームズ・フリン(著)無藤 隆ほか(翻訳)新曜社(2016)
※4:「審議のまとめ」8p。「これから子供たちが活躍する未来で一人一人に求められるのは、解き方があらかじめ定まった問題を効率的に解いたり、定められた手続を効率的にこなしたりすることにとどまらず、直面する様々な変化を柔軟に受け止め、感性を豊かに働かせながら、どのような未来を創っていくのか、どのように社会や人生をよりよいものにしていくのかを考え、主体的に学び続けて自ら能力を引き出し、自分なりに試行錯誤したり、多様な他者と協働したりして、新たな価値を生み出していくことであると考えられる。そのために必要な力を、子供たち一人一人が学ぶことで身に付け、予測できない変化に受け身で対処するのではなく、主体的に向き合って関わり合い、その過程を通して、自らの可能性を発揮し、よりよい社会と幸福な人生の創り手となっていけるようにすることが重要である。」
※5:また、「見方・考え方」の提示と「三つの柱」の整理で、学んだことを教科等の枠を越えて活用したり、教科等を横断して学びを構築したりしやすくなります。そのようなカリキュラム・マネジメントで「社会に開かれた教育課程」を実現するとすれば、「見方・考え方」は、単に教科の学びを豊かにするだけでなく、教科相互、教育課程全体で子どもたちの資質や能力が十全に働くために設計された仕組みでしょう。
※6:学び!と美術<Vol.45>「図画工作科・美術科の改訂、どんな感じ?」参照
※7:高学年や中学生以上であれば、他者の感性や文化的な感性も含まれるでしょう。
※8:学び!と美術<Vol.49>「図画工作・美術における知識の行方」
※9:学び!と美術<Vol.28>「ホントは厳しい図画工作・美術」参照