中学校 社会 歴史
中学校 社会 歴史

言語活動を位置づけた学習活動の取り組み ~地域教材を活用しながら~
※本実践は平成20年度版学習指導要領に基づく実践です。
言語活動を位置づけた学習活動を、地域の歴史を調べまとめていく学習を通して行い、郷土の歴史に対する関心を高め、幕政改革や藩政改革についての理解を深める。
1 目 標
- 江戸中期の朝倉市の状況や藩の政策に興味・関心を持って意欲的に追究しようとする。
- 黒田藩が行った政策について幕府の政策と比較しながら考察することができる。
- 黒田藩の藩政改革について、地域の古文書や歴史書などの資料をもとに追究することができる。
- 黒田藩の藩政改革や農村の変化について、その背景や結果をふまえて説明することができる。
2 「言語活動を位置づけた社会科学習」について
(1)学習の構想について
今回取り組んだ学習は、近世江戸中期に本校の校区を治めていた黒田藩の藩政改革を題材としたものである。この藩政改革を通し、領内では産業の発達や教育の普及が見られ、またその際に奨励された商品作物の中には現在特産品となったものもある。そのひとつは校区内で生産され、生徒が1年生の総合的な学習の際に地域調べに訪れた川茸である。このことを教材に用いることで、生徒は本学習内容を身近なものとして感じることができ、学習課題に対する興味・関心を喚起できると考える。また、秋月黒田藩中興の祖と呼ばれ、藩政改革を進めた8代藩主長舒は、かの上杉鷹山の甥であり、この点も生徒の興味・関心を高めることができると考える。
江戸時代中期は、貨幣経済の広まりや生活文化の変化による支出増、度重なる自然災害による農作物の不作などの原因から、幕府・藩ともに財政難に陥り、この財政難克服のための対策が行われていく時期である。このような経済システムの変化や政治方針の転換、農村の変化など変革の様子を身近な地域の具体的事象を通して、資料の読み取り、内容の考察、意見交流、探究の成果の文章によるまとめなどの言語活動を取り入れながら学習を進めていくことで、生徒の思考力、判断力、表現力を養い、学習内容の確かな理解と定着を図りたいと考える。
また、新学習指導要領の「近世の日本」の学習内容・内容の取扱いの中でも「産業や交通の発達については身近な地域の特色を生かすようにすること」、「各地方の生活文化については身近な地方の事例を取り上げるよう配慮し」とあり、この時代の学習に適した題材だといえる。
(2)言語活動をふまえた学習活動について
学習の各段階で、資料の読み取り、調べたことの交流、文章による学習のまとめなど、言語活動を位置づけた学習活動を仕組んでいく。
≪各段階での手立て≫
①つかむ段階
江戸中期の秋月黒田藩領の飢餓のようすを記した古文書「望春随筆」の読み取りを通し、当時のようす(市内の飢饉の状況)を読み取らせ学習課題につなげる。
②見通しを持つ段階
既習の学習(幕府政治の改革)をもとに、黒田藩はどのような藩政改革を行っていったのか予想させ、学習の見通しを持たせる。
③探究する段階
資料を読み取り黒田藩の藩政改革について調べる。調べたことを4つの視点(政治・経済・文化・福祉)で整理し、改革について評価を行い、その評価を班や学級で交流させる。
④まとめる段階
黒田藩の藩政改革について、政策の内容と、その結果、農村の変化について、4語連結の文章で表現する。
<古文書資料例>
(3)学習計画
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学習活動・内容 |
指導のねらい・内容・方法 |
評価の観点 |
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つかむ |
1.江戸中期の地域の様子を知る。 |
●実物の川茸を提示し、パッケージから江戸中期から生産されていることに気づかせる。葛も同じ時期であることを確認する。 |
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見通す 探究する まとめる |
黒田藩の藩政改革を調べ、農村の変化について考えよう。 |
黒田藩の藩政改革の内容について知るとともに、視点ごとに整理しながら理解を深める。 |
黒田藩の藩政改革について資料をもとに意欲的に調べることができる。 |
2.黒田藩の藩政改革について予想する |
●家系図を確認しながら、黒田家、秋月家、上杉家の関係について確認させる。 |
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3.資料をもとに藩の取り組みを調べる |
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4.黒田藩の改革について考える。 |
●班でまとめたレーダーチャートを黒板に貼り、評価の理由を班ごとに発表させる。 |
黒田藩の藩政改革についてレーダーチャートを使い評価することができる。 |
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5.黒田藩の取り組みについてまとめる |
学習内容を整理し、地域への関心を高めることができるようにする。 |
黒田藩の藩政改革や農村の変化についてについて文章で表現することができる。 |
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●学習したことをもとに、黒田藩の藩政改革について、4語連結文でまとめさせる。「江戸中期の朝倉市の状況は~黒田藩では~のような藩政改革を行ったが~農村では~」 |
3 学習の実際と考察
≪手立ての①≫
つかむ段階で用いた、古文書「望春随筆」には当時の地域のようすが記してある。往来に死人が多かったことや、死んだわが子を川に投げ捨て、その亡くなった子の衣服を米と換えた母親の話などがあり、「天明飢饉之図」に描かれたような惨状が身近な地域でも見られ、生徒は興味深く学習していた。古文書の読解は難解すぎるので読み取れる文字を見つけさせ、あとは書き下し文を範読しながら内容を考えさせた。
≪手立ての②≫
見通しを持つ段階で、黒田藩の藩政改革について予想させることについては、既習の幕政改革を想起させながら、それらの政策を参考に考えさせた。このことにより、幕政改革についてどのような政策が行われたのかも再度振り返えらせ、学習の理解を深めることができた。
≪手立ての③≫
秋月黒田藩の郡奉行であった間小四郎の記した『餘樂齋(よらくさい)手記』にはさまざまな記録が残っており、興味深い資料であるが、古文書であるため生徒にとってすべての読解は時間的にも難しいため、その一部の原文を提示したり、書き下し文を提示したりしながら用いた。資料に対する生徒の関心を高めるため「目安箱」や「倹約令」などの幕政改革で見られた政策と同様のものや、校区内の地名が明記されているものなどを選んで提示した。また、それ以外には地域の歴史書から、藩政改革に関わる記述を提示し、どのような改革や政策が行われたのか調べさせた。これらの調べ学習により、幕政改革で行われたような政策が身近な地域でも実施されていたことに気づき、当時の幕政改革や藩政改革を身近なものとして捉えることができたと思う。
また、この調べたことを4つの視点で整理し直し、レーダーチャートを使って改革の評価を行い班や学級で交流を行ったことは、内容や政策についての理解を深めるとともに、思考力や言語表現力を養う学習活動になった。
レーダーチャートについては思考を可視化でき、意見交流する際の手立てとして効果的であった。
評価の理由としてあげたもの <政治> <経済> <福祉> <文化> |
≪手立ての④≫
探究活動でまとめたプリントを参考にさせながら文章でまとめさせたが、学習を振り返らせることができ、理解の定着を図ることができた。
4 成果と課題
この学習を通して以下のねらいを達成することができた。
- 身近な地域の歴史を題材としたことで、生徒が今まで知らなかった地域の歴史を学ばせることができた。
- 課題追求活動の中で意欲的に学習プリントでまとめをすることができた。
- 黒田藩の藩政改革について、政治・経済・文化・福祉の4つの視点から整理し考察することができた。
- 黒田藩が行った政策について幕府の政策と比較しながら考察し、また交流することで、黒田藩の政策に対する理解を深めることができた。
- 学習活動を通して資料の読み取り、意見の交流、文章表現によるまとめなど、複数の言語活動を仕組むことができた。
一方で、不十分だった点は以下の点である。
- 限られた時間の中で多くの資料を出したことにより、一部の難解な古文書資料などが(意欲的に)十分に読みこなせない生徒がいた。もっと資料の精選を行い、1つ1つの資料の読解をじっくりできるようすべきだった。
- 地域の藩政改革の学習を通し、幕府の政治改革への理解を深めたかったが、藩政改革を通して幕政改革を見る視点を与えていなかったので、不十分であった。黒田藩の藩政改革と幕府の幕政改革の共通点や違いについて確認させるなどの活動が必要だった。
- 農村の変化について、変化を捉える視点を明確に与えていなかったので、まとめの中に書き出させることができなかった。