中学校 美術
中学校 美術

※本実践は平成20年度版学習指導要領に基づく実践です。
1.題材名
「通学路五十三次」
2.目 標
自分の通学路で心に残る風景を選び,近景・中景・遠景の位置や組み合わせ方を工夫しながら,表現主題により近付くような構図を決め出し,版画に表していく。
3.準備(材料・用具)
教師:写真立て,レイヤーシート(アクリル板),ホワイトボードマーカー,版画板
生徒:通学路の写真,彫刻刀,水彩絵の具
4.評価規準
(ア)造形への関心・意欲・態度
 自分の通学路で心に残る風景を版画で表す活動に意欲的に取り組み,見慣れた風景のよさや美しさを見つけ出そうとしている。
(イ)発想や構想の能力
 主題により近付くようなレイヤーシートの組み合わせや視点を見つけ,構図を決め出すことができる。
(ウ)創造的な技能
 主題により近付くように,彫り方やインクののせ方,刷り方を工夫し,創造的に表現することができる。
(エ)鑑賞の能力
 参考作品や友の作品から,版画の造形的なよさや美しさ,創造的な表現の工夫などを感じ取り味わうことができる。
5.本題材の指導にあたって
○近景・中景・遠景の三段階でレイヤーシートを制作し,構図を考える。
| 一人に3枚ずつレイヤーシート(透明のアクリル板18×24㎝)を配付し,自分の主題を基にスケッチした風景を近景・中景・遠景に分けてそれぞれのシートに描いていく。その際,描画材料はホワイトボードマーカーを使う(何度でも描き直しが可能)。また,レイヤーシートの位置を自由に移動させ,構図の検討がしやすいように,写真立てに差し込んで使うように伝える(図1)。それぞれのレイヤーシートが描けたところで,三枚が重なるように並べ,どのくらいの間隔で置くのがよいのか,また,左右の位置はどのあたりがよいのかをデジタルカメラのモニターに映し出しながら検討する(図2,3)。 |  図3 構図の検討 | 
6.題材の指導計画
| 時 | 学習活動の流れ | 指導上の留意点,(評価方法) | 
|---|---|---|
| 1 | ○浮世絵を鑑賞し,主題と構図の関係性をとらえていく。 | ・歌川広重の「東海道五十三次」を一覧にして,実際の場所の写真とともに紹介する。 | 
| 1 | ○写真を基に,主題と描きたい風景を決め出す。 | ・イメージマップで,自分の描きたい風景を近景,中景,遠景に分けて考えるように伝える。(イ) | 
| 1 | ○近景・中景・遠景の三段階でレイヤーシートを制作して構図を考える。 | ・構図を決め出すために,三枚のレイヤーシートを並べ,表したい構図を考えて間隔や左右の位置を動かして検討するように促す。(イ) | 
| 1 | ○レイヤーシートの位置や視点を変えながら,主題をより表すことができる構図について友と意見交換し,構図を再検討する。(本時) | ・グループでお互いのレイヤーシートの位置や視点を変えながら意見交換するように伝える。  | 
| 3 | ○版に下絵を写し,線彫りを進める。 | ・線の太さを変えたり,彫刻刀の種類を替えたり,彫り方を工夫している姿を全体に紹介する。(ウ) | 
| 2 | ○版に色のインクをのせ,刷る。 | ・同じ色から一色ずつ刷ることや,インクをのせる量,バレンでの刷り方によって表現の違いが生まれることを伝える。(ウ) | 
| 1 | ○完成作品を鑑賞し,自分の作品や友の作品のよさについて伝え合う。 | ・学習を通して学んだことや,友の作品を見て感じたことをワークシートに記入し発表する。(エ) | 
7.本時の学習
①目 標
 版画の構図を検討する場面で,レイヤーシートの位置や視点を変えながら,主題をより表すことができる構図について友と意見交換し,構図を再検討することを通して,主題により近付くようなレイヤーシートの組み合わせや視点を見つけ,構図を決め出すことができる。
②学習展開
| 主な学習活動・内容 | 指導の工夫や教師の支援・評価◆の留意点 | 
|---|---|
| 1 自分の構図を振り返り,本時の課題をつかむ。 | ○前時までに決め出した構図を振り返り,各自の主題と困っていることを伝え合う。 | 
| 2 各自のレイヤーシートを基にグループで意見交換をする。 | ○意見交換の際に,レイヤーシートの位置や視点を変えながら検討するように促す。 | 
| 3 友の意見を参考にして構図を再検討する。 | ○レイヤーシートを描き直したり,新たなレイヤーシートに描いてこれまでの構図と見比べたりして,配置するものの位置や大きさなどを再検討するように伝える。 | 
| 4 活動を振り返り,本時のまとめをする。 | ○本時の活動を振り返り,感じたことや考えたことを,ワークシートに記入し,発表するように伝える。 | 
8.主題と作品
9.実践を振り返って
 レイヤーシートの位置を変えたり,カメラの視点を変えたりすることで,実際にその風景を見ているかのような錯覚にとらわれる。そのため,生徒同士の意見交換では,シートを操作しながら具体的な言葉で修正の方向を見いだすようなアドバイスにつなげられた。また,主題を「○○な感じ」と決めたため,検討の際に「本人が考えているような,○○な感じがでているか?」と論点をしぼって意見交換することができていた。デジタルカメラでいくつかの構図を候補として撮っておくことで,見比べることが容易になり,よりよい構図を導き出すことができた。
 生徒が,自分の通学路を再発見することにもつながり,日常の何気ない風景にも関心を向けることができるようになった。また,後日行われた写生会においても,近景・中景・遠景の組み合わせや配置を意識して構図を決め出そうとする生徒の姿がうかがえた。








