中学校 美術

中学校 美術

絵画鑑賞へのいざないⅢ ~作者は何を感じたか~(第2学年)
2013.04.30
中学校 美術 <No.004>
絵画鑑賞へのいざないⅢ ~作者は何を感じたか~(第2学年)
提示型デジタル教材『みる美術』を使って
福島大学附属中学校 國島 篤

※本実践は平成20年度版学習指導要領に基づく実践です。

1.基礎データ

題材・単元名

「絵画鑑賞へのいざないⅢ」~作者は何を感じたか~

時間数

3時間(3/3)

題材・単元の
特徴

クイズ形式を取り入れることにより,自然な流れで生徒に絵画作品を観察させ,グループ活動で様々な鑑賞の視点を学ばせながら,絵画鑑賞へ生徒をいざなう。

授業環境

活動環境

美術室

人数

教師1名 生徒数39名

教材や用具

教師:鑑賞用絵画(A4版に印刷),鑑賞用絵画(一部分拡大したもの),ワークシート
※使用した作品 
・「星降る夜,アルル」ゴッホ
・「ポール=アン=ベッサンの外港,高潮」スーラ
・「エラニーの教会」ピサロ
・「睡蓮の池:バラ色のハーモニー」モネ
生徒:筆記用具

コンピュータ
動作環境

使用デジタル教材

提示型デジタル教材『みる美術』
西洋美術 フランス国立美術館連合 編

OSバージョン

Windows Vista

使用周辺機器

プロジェクター,パソコン(パワーポイント)

2.活用事例および展開

①ねらい
 絵画作品をクイズ形式で鑑賞したり,描いてあるものを分析的に観察しながら,生徒の興味関心を絵画作品の鑑賞へと導く。作品が描かれた時代背景や表現方法の変化などにも着目し,基本的な知識を身につけたうえで,自ら進んで鑑賞し,その表現の工夫や特徴をとらえ,作者の心情や表現意図について考えようとする態度を養う。

②提示型デジタル教材『みる美術』利用の意図
 この授業では印象派における風景画を鑑賞させることを考えた。風景画作品は描かれているものが明確である場合が多く,作品を分析的に見せるための視点の設定が容易である。また,印象派の絵画は歴史上のそれまでの絵画と比較すると劇的に色使いや描かれ方が変わっていく時代の絵画でもある。様々な色使いや筆のタッチなどに着目することにより,作者の気持ちを考える,または想像する,表現意図を考えるというねらいに近づくために使用しやすい題材であると考えた。提示型デジタル教材『みる美術』は「印象派の風景画」などのように検索したいジャンルを指定することですぐに作品を探し出すことができる。また作品の部分拡大を容易にすることができ,非常に詳細に作品を観察することができる。そのため,授業で使用する絵画作品を選び出すことや部分拡大を見せて描かれたものを想像させるという展開を比較的容易にすることができた。

③評価について
◆美術への関心・意欲・態度
絵画作品に関心を持ち,自他の視点をもとに,積極的に作品を鑑賞し,作品に対する見方を広めようとする。
◆発想や構想の能力
画面構成や色彩の効果など,作者の意図について想像し,考えをまとめる。
◆鑑賞の能力
鑑賞を通して表現の工夫や制作意図を感じ取る。

④指導計画

学習活動の流れ

指導上の留意点,評価方法

「絵画鑑賞へのいざない」
①複数の絵画を自由に鑑賞し,描いてあるものや色使い,筆のタッチなどの視点からグループ活動でそれらを分類する作業をする。
②分類した視点について各グループからの発表を聞く。
③他のグループからの様々な鑑賞の視点を聞いた上で教師側からの視点を知る。
④感想をまとめる。

<留意点>
・複数の作品を選ぶにあたり,描かれているものが共通していたり,色使いが似ていたりするなど,ある程度分類することが可能な作品を選ぶ。教師側の視点では,作品から受けるメッセージや時代背景など作品に描かれたものだけでは分類できない視点を生徒に投げかけ,作品の奥深さに気づかせる。
<評価>
・作品を見るための様々な視点に触れ,鑑賞を楽しむとともに,作品に込められている意味などに気づき,積極的に作品を鑑賞しようとする気持ちを持つことができたか。〈ワークシート〉

「絵画鑑賞へのいざないⅡ」
①1時間目に鑑賞した作品を再び鑑賞し,様々な鑑賞の視点があったことを確認する。
②クイズ形式で教師側から出されるヒントをもとに絵画を描かれた順番に並べてゆく作業を行う。グループ活動により,相談しながら順番を考えていく。
③答え合わせをし,描かれ方の変化や時代背景などの解説を聞く。
④感想をまとめる。

<留意点>
・作品数が多いとクイズが難解になる恐れがあるため,その時代を象徴する作品などに鑑賞対象を絞って行う。
<評価>
・ヒントをもとに積極的に絵を鑑賞し,話し合うことで答えを導き出そうとしていたか。〈授業観察〉
・時代背景や作者の考えの変化などから描かれ方の変化を理解することができたか。〈ワークシート〉

「絵画鑑賞へのいざないⅢ」
①絵画作品の部分拡大を鑑賞し,何が描かれた絵かを想像する。
②作品全体を鑑賞するとともに,作品を分析的に見る視点を持ち,細部まで観察する。
③観察をもとに作者の気持ちや表現意図を考え文章にまとめる。

<留意点>
・作品を鑑賞して感じたことに「どうしてそのように感じたのか」などの意味づけをさせる。また,「作者はどうしてそのように描いたのか」などを考えさせ,作者の気持ちや表現意図に迫るようにする。〈ワークシート〉
<評価>
・作品を分析的に観察することから感じたことに理由付けをして自分の考えをまとめることができたか。また,作者の気持ちや表現意図を考えることができたか。〈ワークシート〉

3.本時の展開

①目標
・風景画の作品を様々な視点で分析的に観察し,作品から感じ取られることを言葉で表現する。
・作品の部分拡大を鑑賞することにより,その表現の工夫や特徴をとらえ,作者の心情や表現意図について考える。
・作品から感じたことに自分なりの理由付けをしながら感想をまとめる。

②提示型デジタル教材『みる美術』を利用した授業の展開



学習活動

◎主な支援 ●評価〈手だて〉


1 本時の課題を把握する。
(1)本時の課題を知る。

◎制作者が作品を作り出すときの気持ちに着目するよう伝える。

様々な視点から,絵画作品を鑑賞し,感じたことをまとめよう。



2 作品を鑑賞する。
(1)作品の部分拡大写真を見て何を描いたものか考え,話し合う。
●「これから風景画の部分拡大を見せます。色使いや筆のタッチなどをよく見てどんな風景が描かれているか,また,何を描いたものかを想像してください。」

◎作品の一部分を拡大して見せることで,筆のタッチや色使いに着目させる。
◎何を描いたものかを考えさせることにより,全体をより詳しく見ようとする意識を持たせる。

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○「暗い青が塗られているので夜空のようです。」
○「青い色の上に塗られた黄色がとても強く目に飛び込んできます。」
○「黄色い色は水面に反射した光のように見えます。」

◎絵の具の塗り方,筆が動いた方向,絵の具の厚さなどにも着目させる。

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○「様々な色は縦横に荒っぽく塗られています。何が描いてあるかは全然分かりません。」
○「よく見ると薄いピンク色でたくさんの点が描かれています。

◎縦横に塗られている絵の具,筆の動き,どんな色が塗られているかなどに着目させる。様々に考えさせた上で「わからない」ということも一つの答えとして認める。

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○「細かいたくさんの点で描かれています。遠くに見える水平線のようです。

◎点描で描かれていることに着目させる。細かい点の集まりがどんな風景になるのかを考えさせる。

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○「淡い色が重なって塗られています。青い色が薄く見えるので空の雲を描いたものだと思います。

◎淡い色の重なり方に着目させる。

(2)鑑賞の視点をもとに作品全体を鑑賞し,感じたことをまとめる。

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〈鑑賞の主な視点〉
・場所はどこだろう。
・時間は何時くらいだろう。
・季節はいつ頃で,気温はどれくらいだろう。
・(音が聞こえるとしたら)どんな音が聞こえるだろう。
・作者が最も描きたかったのはどの部分だろう。

◎作品をより分析的にまた,自然に鑑賞ができるよう鑑賞の視点を与える。

●「ゴッホの絵の季節はいつ頃でしょう。」
○「冬だと思います。」
●「どうして冬だと思いますか。」
○「下に描かれている人がコートのような服を着ているように見えるからです。」
○「星がきれいに見える季節なので冬かも知れません。」

●「スーラの絵の季節はいつ頃でしょう。」
○「春だと思います。」
●「どうして春だと思いますか。」
○「黄緑色の草が多く描かれていて,全体的な色も淡い感じだからです。」

◎一部分を見て感じたことと作品全体を見たときの感じ方の違いにも着目させ,感じたことをまとめさせる。

◎表現から作者の気持ちや考えを想像させる。

●作者の心情や制作意図などを自分なりに考えることができたか。
〈ワークシート〉

<生徒の作文(鑑賞文)>
・ゴッホの絵は,海の上に浮かんでいる船と夜空の風景です。人が厚着をしているので季節は冬だと思います。ゴッホは船が出している光に負けないくらい星が輝いていることに感動し,これを描きたいと感じたと思います。
・スーラの絵は,昼下がりの海辺の風景を描いたものです。季節はもう寒さが残っていない春のようです。作者は海岸を出て行くヨットの音,かすかなそよ風の音,ゆっくりと過ぎていく時間などに心地よさを感じ,まわりの風景を楽しみながらのんび りと絵を描いていったことが想像されます。



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3 鑑賞したことを発表する。
(1)まとめたことをもとにグループで伝え合い,話し合いをする。

◎自他の感じ方,考え方の違いを捉えさせる。

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(2)各班の発表を聞く。

◎学級内での発表を通し,より多くの考え方に触れさせる。



4 グループでの話し合いや学級での発表をもとに授業の感想をまとめる。

●自他の感想をもとに作品鑑賞の様々な視点を知り,自分なりの感想を持つことができたか。
〈ワークシート〉

<授業後の生徒の感想>
・絵を見ていると作者そのものが映し出されているように感じました。描かれた風景以外にも表現されているものがあると思いました。
・今まであまり考えてこなかった作者の思いや気持ちを考えることができ,作者からの思いが伝わってくると感じました。
・作品には作者の心情も表現されていることを知りました。作者の人柄なども想像することができるのは,おもしろいことだと思いました。

③指導のポイント
・クイズ形式など遊び感覚を取り入れ,自然に作品を鑑賞させる。作品や作者に関する知識はできるだけ与えず,感じたことを自由に話せる雰囲気を大切にする。
・作品の一部分が拡大されることで見えてくるもの(筆のタッチ,色使いなど)は生徒にとっても新しい発見である。必要に応じて生徒が詳しく観察したいと思う場面を取り上げ,プロジェクターなどを使用し生徒全体に見せ,様々な意見を生徒から集める。
・多くの生徒に自分が感じたこと,考えたことを発表させることで価値観の交流を図り,作品を見る視点を自然に身につけさせる。作者の気持ちや表現意図を意識させることで作品の奥深さを感じさせる。

4.感想等

 今回の授業では提示型デジタル教材『みる美術』の部分拡大の機能を利用したが,生徒の興味,関心を高める導入,展開をすることができた。拡大することで絵の具の塗られ方,絵の具の盛り上がりや塗り重ね,筆のタッチなどが確認でき,生徒は「何が描いてあるか分からない」ということを言いながらもグループ活動ではそれぞれの考えを出し合いながら何が描かれたものかを探る様子が見られた。また,部分拡大を見せた後に作品全体を見せたことにより,拡大部分は全体の中のどの部分だったのか,他の部分にはどのように何が描かれているのかということを興味深く観察する様子が見られた。今後は作品を分類したり,比較したり,作品の情報を見たりするなど,他の機能も利用していきたい。生徒が自ら興味を持った作品を検索し,鑑賞できる授業展開を考えていきたい。