学び!とシネマ

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よりよき人生
2013.02.07
学び!とシネマ <Vol.82>
よりよき人生
二井 康雄(ふたい・やすお)
(c) Wild Bunch 2011

(c) Wild Bunch 2011

 日本の政権交代で、公共事業がますます膨れあがる。これで経済復興が出来るとは思えないし、ますます貧富の差が出来るように思う。会社も個人も、いくらかは借金しやすい状況になるかも知れないが、これで経済復興、インフレ解消になるとも思えない。
 フランス・カナダ合作の映画「よりよき人生」(パンドラ配給)を見ながら、フランスでも、貧しい人が借金を重ねると、とんでもない目にあうのだなあ、と痛感した。

(c)Jean-Claude Moireau

(c)Jean-Claude Moireau

 調理人のヤン(ギョーム・カネ)は、シェフの職を求めて、レストランの面接に行く。体よく断られるが、そこでウェイトレスをしているナディア(レイラ・ベクティ)と知り合い、さっそくデートに誘う。結果、うまく事が運ぶが、朝、目覚めると、ヤンは、ナディアには9歳になる男の子スリマンがいることを知る。スリマンは、レバノン人との間にできた子供で、ナディアはシングルマザーであることが分かる。
 ヤンは、心優しい青年で、スリマンともすぐに仲良しになる。ある日、三人は、ピクニックに出かけた湖畔で、すてきな廃屋を見つける。ここにレストランを開業すればうまくいくのでは…。ヤンは開業資金を捻出するために奔走する。
 ヤンは、あちこちから借金を重ねるが、消防署の認可がおりず、レストランの開業は困難を極める。辛い現実がのし掛かる。やむを得ず、ナディアはカナダでの職を選び、単身、出かけてしまう。パリ近郊、サン=ドニの町に取り残されたヤンとスリマンの二人暮らしが始まる。やがて、ナディアとの連絡が途絶え、音信不通になってしまう。
 ざっとのあらすじから窺えるのは、フランスと日本では、システムこそ違え、貧しい者は簡単には借金できないこと。無理をして、いったん借金してしまうと、高い利息で返済を続けなければならない。よりよき人生を求めても、ちっともよりよき人生にはならない。

(c)Jean-Claude Moireau

(c)Jean-Claude Moireau

 夢が叶わず引き裂かれる男と女、血の繋がっていない男と少年の「家族」が、貧困と戦う。映画は、暗に、血が繋がっていなくても、濃密な人と人との関係があり、フランスの抱える貧者の現実があることを伝える。
 残された道は、とにもかくにも、ナディアのいるカナダまで出かけること。ヤンとスリマンの「父子」は、カナダに向かう。
 多くの厳しい現実を前にした三人は、よりよき人生に向けて、どのように生きていくのか。映画の示した問いの持つ意味は大きい。ことは、フランスだけの話ではない。日本の現実もまた、ほとんど同じなのだから。
 監督、共同脚本は、セドリック・カーン。数年前、「チャーリーとパパの飛行機」という映画で注目を浴びた監督。
 貧困で、悲惨な状況でも、僅かでも「希望」はあるはず。一歩、踏み出すことである。ヤンとスリマンが、カナダに向かったように。

2013年2月9日(土)より、新宿武蔵野館ico_linkにてロードショー

■『よりよき人生』

監督・脚本:セドリック・カーン
脚本:カトリーヌ・パイエ
撮影監督:パスカル・マルティ
編集:シモン・ジャケ
出演:ギョーム・カネ、レイラ・ベクティ、スリマン・ケタビ
2011年/フランス・カナダ共同製作/111分/35mm・デジタル/カラー
原題:Une Vie Meilleure
配給:パンドラ
後援:フランス大使館