社会科教室
(小・中学校 社会)

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博物館にできること ~社会科との関わりから~
2011.07.19
社会科教室(小・中学校 社会) <Vol.57>
博物館にできること ~社会科との関わりから~
宮崎県総合博物館 Backyardより
学芸課 佐藤省吾

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はじめに

 宮崎県総合博物館は、自然史(動物・植物・地質)・歴史(考古・歴史・民俗)からなる総合博物館である。1951(昭和26)年に設立された宮崎県立博物館を前身としている。最近では、1998(平成10)年度にリニューアルオープンし、2005年度からは常設展の観覧料を無料化した。無料化以後、観覧者数が増加し、2009年度には17万人弱の常設展観覧者があった。
 当館は、宮崎県の自然史と歴史について、資料を収集・保存し、展示している。常設展示室は自然史、歴史及び民俗の3つの展示室からなり、約8000点の資料を展示している。来館すれば、宮崎県の自然史と歴史が分かるようにしている。なお本誌は、小・中学校の社会科教師を対象としている。そのため本稿では、当館の歴史・民俗展示室の紹介や社会科との関わりを中心に述べていく。

文化住宅

 歴史展示室のコーナーのひとつに、「戦後の復興と発展」がある。このコーナーでは、昔のことを懐かしく思い出しながら展示を見る大人や、「一体これは何なのか」と不思議そうに展示を見る子どもの姿をよく見かける。また、孫や子に展示されているものについていろいろと語る祖父・祖母や親の姿も見かける。
 このコーナーでは、戦後の復興を象徴するものとして、昭和30年代の文化住宅を展示している。昭和30年代は、高度経済成長が始まったころである。
 この住宅は、宮崎市内で実際に使われていたものを移築し、復元したものである。住宅の外観だけでなく、住宅の内部もできるだけ昭和30年頃の様子を再現している。そして、来館者はこの住宅の中に入ることができ、当時の生活を実感できるようにしている。
 昭和30年頃を再現しているため、住宅の中に「三種の神器」といわれる電気洗濯機・電気掃除機・電気冷蔵庫はない。台所は土間になっており、竈が置かれ、薪も置いてある。また、木炭や練炭を燃料とする七輪も置いている。台所の外には、手押しポンプの井戸があり、その脇には洗濯のためのたらいと洗濯板がある。
 台所の隣は居間になっている。当然、テレビはない。水屋(食器棚)の上に真空管ラジオがある。このラジオからは、定期的に音声が流れるように設定している。家の中をまわると、足踏みミシンや五右衛門風呂、ちゃぶ台、算盤、柱にかけた振り子時計など、現在では見かけることが少なくなったものを見つけることができる。

時代のひろば

 文化住宅の隣は、「時代のひろば」になっている。昭和30年代の子どもたちが遊んだ空き地を再現している。ここには紙芝居用の自転車を置いている。自転車の荷台に紙芝居舞台と言われる木枠を備えている。この自転車を使って、毎週日曜と祝日には、展示解説員が紙芝居を行っている。毎回、多くの方にご覧いただいている。
 また、当時の子どもたちの溜り場になっていた駄菓子屋も「時代のひろば」に再現している。ガムやポン菓子などが入った角ネコや丸ネコといわれるガラスビンや、メンコやゴム風船、ビー玉などのオモチャを店頭に並べている。
 この「時代のひろば」には、昭和30年代から50年代の子どもたちが遊んだオモチャやゲーム、プラモデルなども展示している。そして、「時代のひろば」では、むかしのあそびも体験できる(第1・3・5土曜日)。けん玉やお手玉、あやとり、メンコなどを用意しており、自由に遊ぶことができる。
 「戦後の復興と発展」のコーナーは、来館者にとって人気のあるコーナーである。

豊富な民俗資料

 当館は、1万2千点以上の民俗資料を所蔵している。そのなかには、国指定重要有形民俗文化財「日向の山村生産用具」(2260点)がある。民俗展示室では、「日向の山村生産用具」のうち約800点の資料を含め、約1100点の民俗資料を展示している。
 柳田國男は1908(明治41)年に、本県東臼杵郡椎葉村を訪れた。この村で行われていた伝統的な狩猟伝承を『後狩詞記(のちのかりことばのき)』にまとめ著した。これが民俗学の出発点となっており、本県は民俗学発祥の地であるといえる。
 民俗展示室は、「山にくらす」「里にくらす」「海にくらす」「いのりとまつり」の4つのコーナーに分かれている。どのコーナーも実物資料を中心に原寸大の模型やVTR映像、パソコンによる検索ソフト等で紹介している。また、民具を使うときの音、祭りや年中行事の音楽や詞を流している。
 例えば、民俗展示室の入り口には、「炭焼き小屋」のジオラマがある。江戸時代から日向国で生産される「日向木炭」は有名であった。特に炭窯から炭を掻き出しスバイをかけて冷やす白炭が良質の木炭であった。ジオラマでは、この白炭づくりの様子を再現している。ここでは、炭を掻き出す音が常時流れ、炭窯の火が赤々と燃えており、来館者が木炭づくりを目の前で見ているような演出をしている。

博物館にできること

 日本文教出版の教科書『小学生の社会(住みよい社会)』3・4下を見ると、第5章「くらしの中に伝わる願い」の中に、「くらしは、どううつり変わってきたの」「受けつがれてきたものには、どんなねがいがあるの」という節がある。この2つの節は、平成20年版『小学校学習指導要領』の〔第3学年及び第4学年〕内容(5)のア・イにあてはまる。
「(5)地域の人々の生活について、次のことを見学、調査したり年表にまとめたりして調べ、人々の生活の変化や人々の願い、地域の人々の生活の向上に尽くした先人の働きや苦心を考えるようにする。

ア 古くから残る暮らしにかかわる道具、それらを使っていたころの暮らしの様子
イ 地域の人々が受け継いできた文化財や年中行事」

 これまで述べてきた「文化住宅」「時代のひろば」「豊富な民俗資料」は、このア・イの2つの学習を深めるのに大変有効である。
 また、『小学校学習指導要領解説社会編』(平成20年8月)には、上記の内容の指導に当たって、「博物館や郷土資料館などを見学し、道具を観察したり、それらの道具が使われていたころの生活の様子、古くから伝わる文化財や年中行事の内容やいわれなどを聞き取ったり」、「地域の博物館や郷土資料館などにある昔の道具を観察したり」することを挙げている。
 当館には、展示の説明を行う展示解説員がいる。来館者の希望に応じて、全展示室を解説したり、ひとつの展示室のみを解説したりするなどのコースをいくつか用意している。
 このコースの中に、「昔のくらし」がある。「文化住宅」や「時代のひろば」、「豊富な民俗資料」をもとに、当時の生活の様子や道具の使い方などを解説するコースである。この「昔のくらし」を解説するコースは、『小学校学習指導要領』の趣旨と合致する。
 小学校4年生が遠足や校外学習などで来館する場合、担当の教師と確認した上で、この「昔のくらし」を解説することが多い。
 解説内容は、概ね次のとおりである。

①文化住宅
 ・当時の家のつくり
 ・当時の家事で使っていたもの
 ・現在では使わなくなった道具
②時代のひろば
 ・紙芝居の様子
 ・当時の子どもの遊び
③民俗展示室
 ・山のくらし(焼畑農業、炭焼き小屋)
 ・里のくらし(米づくりに使う道具、茅葺きの屋根)

おわりに

 当館の基本理念のひとつに、「郷土に根ざした文化の向上に貢献する博物館」とあり、「宮崎の自然史、歴史の資料を展示し、本県の教育や文化の発展に寄与する」と説明がある。学校の学習内容をさらに深めることができるような資料の展示や解説の充実を今後とも進めていきたい。

宮崎県総合博物館Webサイトico_link