ROOT(算数・中学校 数学)

ROOT(算数・中学校 数学)

様々な状況で算数・数学の学習内容を活用する力の育成
2011.02.28
ROOT(算数・中学校 数学) <No.05>
様々な状況で算数・数学の学習内容を活用する力の育成
活用力をつける
加藤 久恵(兵庫教育大学 准教授)

RooT No.05表紙

1.はじめに

 OECDが15歳児(高校1年生)を対象として2009年に実施した国際学力調査(PISA調査)の結果が、2010年12月7日に公表されました。日本の「数学的リテラシー」の平均得点は2006年の523点から529点へと上昇しましたが、統計的な有意差はありませんでした。さらに、参加国・地域のうちで日本は前回の10位から今回は9位とほぼ横ばいでした。この結果は、OECD平均よりも高得点グループを維持したとして概ね評価されているようです。
 「RooT」No.1『活用力をつける:PISA調査の問題から示唆される活用力育成のための指導のポイント』で山田篤史氏が指摘しているように、PISA調査の問題は、学校で学習した単純な知識・技能の習得状況を問うような問題ではなく、様々な状況で知識・技能を活用する能力を問う問題です。数学が用いられる状況については、「全国学力調査B問題に比して、かなり幅広い問題状況が想定されている」と山田氏も指摘しています。つまり、PISA調査では、ある問題状況で学習した知識・技能を、それとはかなり異なる状況の問題でも使える力が求められて、問われているといえます。

2.様々な状況で活用する力の育成の視点

 このような力は活用力の一側面にすぎませんが、PISA調査でも注目されているように、現在、学力の一部として重要視されています。このような活用力を育成するためには、次の2点が算数・数学科の授業づくりで留意すべき点だといえます。
 第一に、学習内容に対する様々な観点からのアプローチです。様々な状況で活用する力を身につけるためには、ある問題状況に直面した際にその問題の解決に必要な算数・数学の学習内容が想起できる力の育成が必要です。また、そのためには、学習内容を色々な問題状況で使えるような学習が重要となります。
 たとえば、線対称な図形の学習について、教科書では下記のように記述されています。

日本文教出版 「小学算数」6年上巻 P.6

日本文教出版 「小学算数」6年上巻 P.6

 ここでは、紙を折ったり紙面に作図したりする学習を想定していますが、それだけでなく、ブロックなどを使っての線対称な図形づくりや、身の回りから線対称な模様を探す活動を通して、線対称な図形という学習内容にアプローチすることも必要です。
 第二に、算数・数学の学習で学んだ内容を使ってみようとする態度の喚起です。どんなに学習内容についての理解が豊かになったとしても、それらの学習内容を活用しようとする態度が身についていなければ、子どもたちは主体的に学習内容を活用することはありません。ともすれば、学習における活用力の重要性や算数・数学学習の有用性を理解しているのは教師だけで、子どもたちは十分に理解していないことも考えられます。それでは、算数・数学の学習内容を他の問題状況で活用しようという態度はなかなか育ちません。したがって、まずは子どもたちの学習に対する考え方(学習観)を見つめ直し、子どもたちが活用力の重要性や算数・数学学習の有用性を感じるような指導を行いたいものです。
 算数・数学学習の有用性が分かっていることは、算数・数学の学習に対するメタ認知と呼ぶことができます。一般的にメタ認知とは「認知についての認知」と呼ばれる概念で、ここでは、算数・数学学習で学んだことは色々な状況で使うことができ、それによって、直面する問題を解決できるということが分かることを指します。このようなメタ認知を育てるためには、「算数・数学の学習内容を活用して、問題解決に成功した体験」が重要であると言われています。さらに、「算数・数学の学習内容を使ったから、問題解決に成功したんだ」という振り返りによって、「次も算数・数学の学習内容を使うと、問題解決ができるかもしれないぞ」という考え方を育てることが可能になってくるのです。

3.おわりに

 活用力の育成に向けて、教科書の内容に応じた算数・数学的活動だけではなく、様々な算数・数学的活動を取り入れた授業づくりの必要性を指摘しましたが、全ての学習内容で様々な活動を行うことは、限られた授業時間を考えると無理な話です。したがって、子どもにとって理解が難しい学習内容やその後の学習で活用されるような学習内容について、重点的に様々な活動を取り入れることが有効でしょう。もちろん、教科書ではその学習内容の基礎的な算数・数学的活動を取り上げていると言えますから、それを疎かにすることは本末転倒です。まずはそれぞれの学習内容に対する基礎的な算数・数学的活動を丁寧に行った上で、目の前の子どもたちに応じてさらなる算数・数学的活動を検討すべきであると考えます。その際には、学習内容を身の回りの事象と結びつけ、その理解を一層深めることを意図した「いち・に・算活」の内容も有効に活用できると思います。

【参考資料】
加藤久恵、濱中裕明「研究成果報告(II)算数・数学教育チーム」『活用型学習の指導方法及び評価方法等の研究 兵庫教育大学(株)ベネッセコーポレーション共同研究プロジェクト報告書』P.48-106(2010年)