ROOT(算数・中学校 数学)

ROOT(算数・中学校 数学)

知識の構成と展開の中で活用を考える
2010.10.10
ROOT(算数・中学校 数学) <No.04>
知識の構成と展開の中で活用を考える
活用力をつける
岡崎 正和(岡山大学 准教授)

RooT No.04表紙

1.いつ、どのような場面で活用するか

 PISA調査や全国学力・学習状況調査の結果から、新しい学習指導要領では活用する力の育成がこれまでにもまして叫ばれています。活用力は、文字どおり、知識や技能等を活用する過程の中で身につくものですが、活用する場面にはどのような場面があるでしょうか。
 まず、教科の目標に述べられているように、生活や学習に活用する場面があります。これを二つに分けるなら、新しい知識を知った後に、生活に活用する場面と、新しい知識を知るために、既存の知識を活用する場面があります(特に授業の前半で)。
 もう一つ忘れてならないのは、問題解決的な授業では、最初に取り組んだ問題解決の過程をふり返り、それを活用して新たな知識を構成する、という活用があります。例えば、平行四辺形の面積の学習では、まず「面積はいくら」という問題から、等積変形などを通して面積の値を求めますが、その後にその過程をふり返って、面積公式を定式化する活動が行われます。つまり、問題解決的な算数・数学の授業では、前半の問いの解決方法が、後半の知識づくりの対象へ転化され、知識の再構成が行われます。ここにある種の活用が見られます。
 さらに、まとめを行う際にも、何に使えそうか、何がまだ分かっていないかを見つけるなどの工夫が必要だと思います。次なる活用を見越してまとめをすることで、活用力がついていくように思います。
 算数・数学は常に活用を通して知識の構成と展開が行われるといっても過言ではありません。基礎的な知識・技能をまず習得して、それから活用する、といった考えを聞くことがありますが、こうした考えは活動を通した算数・数学学習とは齟齬(そご)が生じているのではないかと懸念しています。

2.算数・数学的活動と活用力

RooT No.04

 新しい学習指導要領には、活用力のほかに算数・数学的活動の一層の充実、反復(スパイラル)の教育課程の推進、言語活動の充実、小中の接続といった視点が盛り込まれています。これらはバラバラに考えるべきでなく、豊かな算数・数学学習をいくつかの側面から眺めたものだと思います。
 一例として、中学1年の図形の移動の学習として、麻の葉模様での陣取りゲームを考えてみます。まず基準の陣を決め、常にその陣から平行、対称、回転のどれかの移動を使って、陣を取り合うゲームです。
 移動の活動を通して、移動の観点(対称移動における軸や回転移動における回転の中心等)を明確に意識することをねらいとしています。

RooT No.04 このゲームは、対称移動限定のゲームと回転移動限定のゲームに発展可能です。前者は2回連続の対称移動(移動の合成)を取り入れ、すべての場所がとれるようにします。その後に麻の葉を抜け出し、一般的に「任意の位置にある合同な一般三角形は、何回の対称移動で重ね合わせられるか」という問題に発展させたいと思います。実験をすれば、「2回でできそうだ」ということと、「少しずれているかもしれない」という感情が交じります。これは、証明をしたい、という状態でもあると思います。

RooT No.04 ずれを補正するにはどうすればよいか、ここに既習の垂直二等分線の活用があります。対応する一組の頂点を結び、線分の垂直二等分線をかけば、2回目の対称の軸も容易に見えてきます。

 もし重ね合わせ先の図形Bが裏返っていれば、もう一回対称移動を行えばよいので、「任意の位置に置かれた2つの合同な三角形は高々3回の対称移動で重ね合わせることができる」という結論が得られます。この証明は、作図と移動の過程をそのまま記述したもので、中学1年生にもかかせたいことですし、中学2年の証明に反復(スパイラル)として活用されることを期待します。
 回転移動限定ゲームも、同じように展開できます。まず、次の移動を考えてみてください。思考力アップのために。

RooT No.04 AはBに1回の回転移動で重ねられます。回転の中心はどこですか。どう考えれば移動が見えてきますか。

3.おわりに

 知識を積極的に活用し、思考力、判断力、表現力を養うことは、新しい学習指導要領の基本的な考え方であるとともに、知識の活用、ふり返り、本質の抽出、知識の再構成という一連の過程は数学の発達の本性でもあります。国際的な学力調査から、子どもたちに算数・数学に対する楽しみや自信が欠如している、ということが大きな課題として明らかになっています。習得だけに偏る授業でなく、子どもの知識や個性が生きる活用の場を考えたいし、そうした活用が連続する場づくりこそ、教師が教材研究の中で最も真剣に考えねばならないことだと思っています。

【参考文献】
岡崎正和,髙本誠二郎「図形の移動を通して培われる図形認識-論証への移行を目指したデザイン実験-」『日本数学教育学会誌91(7)』P.2-11(2009)