ROOT(算数・中学校 数学)

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活用力を育成するための授業改善に関する2つのポイント-「全国学力・学習状況調査」の結果からの示唆-
2010.06.10
ROOT(算数・中学校 数学) <No.03>
活用力を育成するための授業改善に関する2つのポイント-「全国学力・学習状況調査」の結果からの示唆-
活用力をつける
山口 武志(鹿児島大学 教授)

root_no3表紙

1.調査結果を授業改善に生かすこと

 「指導と評価の一体化」といわれるように、子どもたちの評価結果を日頃の指導にフィードバックさせることが大切です。PISAやTIMSS、全国学力・学習状況調査(以下、学力調査)といった各種調査の結果についても、順位や正答率だけに注目するのではなく、調査問題に対する子どもたちの思考過程の特徴や誤答の傾向などを授業改善に生かすことが重要です。
 こうした視座から、本稿では、「学力調査」の「B問題」を取りあげ、「活用力」に関する子どもたちの課題を考察するとともに、その課題をふまえた授業改善の方向性について検討したいと思います。

2.「学力調査・B問題」の調査結果から示唆される今日的課題

図1 平成20年度「B問題」3(1)

図1 平成20年度「B問題」3(1)

 平成20年度の「B問題」3では、「図形の性質と面積」に関する問題が出題されています。(1)では、まず、図1のように、三角形の頂点を中心に半径10cmの円の一部をかき、3つの黒い部分をあわせた面積を求める式「10×10×3.14÷2」を4つの式の中から選択させています。三角形の内角の大きさの和が180°になることを基に、求める面積が半径10cmの円の半分になることの理解を問う問題です。(1)の正答率は58.0%にとどまっており、「調査結果概要」では、「円の面積の求め方を基に、半円の面積の求め方を表す式を読み取ることに課題がある」(P220、下線筆者)と指摘されています。

図2 平成20年度「B問題」3(2)

図2 平成20年度「B問題」3(2)

 (2)は、図2のような長方形において、4つの黒い部分をあわせた面積が、(1)の三角形の3つの黒い部分をあわせた面積の2倍になっていることを問う問題です。(2)の正答率は69.3%であり、「三角形から長方形に図形を変えて考える発展的な場面で、図形の性質を基に面積の関係を考えることに課題がある」(P221、下線筆者)と指摘されています。

図3 平成20年度「B問題」3(3)

図3 平成20年度「B問題」3(3)

 続く(3)では、図3のように、長方形から四角形に図形を変えた発展的な場面が与えられています。その上で、図3の4つの黒い部分の面積の和が、(2)の長方形の面積の和と同じになる理由を言葉や式を用いて記述できるかどうかを問うています。

 「面積は同じになる」という選択肢を正しく選び、その理由も記述できた子どもは、33.4%にとどまっており、「長方形から四角形に図形を変えて考える発展的な場面で、図形の性質を基に面積の関係をとらえ、判断の理由を言葉や式を用いて記述することに課題がある」(P223、下線筆者)と指摘されています。

3.授業改善に関する2つのポイント

 これらの調査結果や課題をふまえ、筆者は、次の2つの視座からの授業改善の重要性を感じています。
 第一は、数学的表現力や数学的コミュニケーション能力の育成を重視した授業です。新学習指導要領では、言葉や数、式、図などといったさまざまな数学的表現を使って、自分の考えや解法を説明し伝え合う能力の育成が強調されています。前節のB問題では、(1)において式読に関する課題が指摘されるとともに、(3)では、言葉や式を用いた数学的表現力に関する課題が指摘されています。こうした課題は、中学校のB問題においても同様に指摘されている課題です。そのため、いわゆる「練り上げ」の場面などにおいて、さまざまな数学的表現を使って、自分の考えや解法を表現し伝えたり、逆に、数式や図などを読んで、他者の考えや解法を解釈したりするといった算数・数学的活動を充実させることが重要です。
 第二は、知識や考え方の本質を理解させるために、問題を発展的に考える授業の工夫です。前節のB問題の(2)や(3)に関する結果にもみられるように、基礎的な知識・技能や考え方を発展的な場面で活用することに課題がみられます。当該の知識・技能や考え方の本質をとらえ、「生きてはたらく」知識・技能や考え方として理解するために、知識・技能や考え方の活用の仕方や発展のさせ方を子どもたちに示す必要があると考えます。こうした視座から、日頃の指導では、当面の問題を解決することで満足するのではなく、問題解決の過程を振り返りながら、解法や考え方を別の場面や問題に活用する学習活動を意図的に仕組むことが重要です。その際、「場面や条件を変えたらどのようになるか?」といった問題意識をもたせながら、子ども自身によって問題を自律的に発展させることができるように指導を工夫したいものです。

[引用文献]
 文部科学省・国立教育政策研究所『平成20年度全国学力・学習状況調査【小学校】調査結果概要』(平成20年8月)