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山に登るということ
2012.03.15
生活&総合navi(生活・総合) <生活&総合教室 Vol.63>
山に登るということ
い~め~る より
みなみ らんぼう

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 小学校から中学校にあがるころは、「第二の誕生」と入学式の祝辞で述べています。中学3年間の体験は一生の尺度になります。わたしにとっても中学1年生で母が亡くなったことにより、内向的、文学的、哲学的になりました。また、夏に山登りへ行ったとき、久しぶりに心がはじけました。異次元体験のような非日常の素晴らしさを体験しました。それが後々まで忘れられないものとして残り、中高年で山登りを再開するきっかけとなったのです。そのころの価値観、喜びはずっと残るものです。
 『山口さんちのツトム君』の歌のモデルは、自分の母親が亡くなったときの気持ちがうまいこと幼児にすり替えられていました。自分自身が母親をなくしたときの喪失感の表れです。つくったというよりは生まれた歌です。3番の歌詞に関しては、明るくハッピーエンドにしようとスタッフと話し合い、田舎に法事に行っていたという形になりました。この3番のみ作家的立場でつくったものです。実は、この歌のモデルが自分だとわかったのは、母親が亡くなって15年後、「山口さんちの思い出」という題名で文章を書いたときに、自分自身がモデルだったということに気付いたのです。負の体験がプラスに活きてきたのです。子どもたちに「苦しい思い出があってもマイナスでは終わらない。前向きに生きる者にとっては、体験として生きてくる」と伝えています。
 今、世の中が先鋭化して遊びの部分がなくなってきています。本来もっていなくてはならない潤い、文化・芸術という喜びを感じる感性が押し込められ、磨耗しています。テストの結果以外の部分を見なくてはならないのではないでしょうか。山登りだと、早く登る人、遅く登る人、さまざまいますが、遅く登ったからといって感動が少なくなるわけではありません。子どもたち、親、ひいては社会がもっともっと立場をこえた話し合いをする環境をつくらなければいけないのではないでしょうか。

みなみ らんぼう

みなみ らんぼう

1944年宮城県栗原市生まれ。
法政大学社会学部卒業後、ラジオ台本作家を経て71年「酔いどれ女の流れ唄」で作詞・作曲家としてデビューし、73年に「ウイスキーの小瓶」で歌手デビューする。
子どもの世界を描いた作品も多く手掛け、76年に「NHKみんなのうた」で発表した「山口さんちのツトム君」はミリオンセラーを記録し、世代を越えて多くの人に歌い継がれている。自然に関する知識も豊富で、特に植物に関しては造詣が深い。エッセイ「おばあちゃんと花」は中学1年生の国語教科書に採用された。
最近では山歩きをライフワークとして、四季を通して国内外の山に登り、新聞・雑誌などに山旅のエッセイを発表している。平成12年11月より東京都武蔵野市の教育委員。