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「伝える」ことと「伝わる」こと
2011.07.05
生活&総合navi(生活・総合) <生活&総合教室 Vol.61>
「伝える」ことと「伝わる」こと
い~め~る より
木場弘子

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 TBSに入社してすぐに女性初のスポーツキャスターになりました。その時すごく苦労したのは、いかに“深く”視聴者に伝えるかということでした。ある選手がホームランを打つ。そのことを伝えるにしても、彼がどういう気持ちで打ったのか、というバックグラウンドをわかっているのといないのとではまったく変わってくるのです。それをつかむのに1、2年かかりました。
 「伝える」と「伝わる」は、一文字しか違わないのですが、意味がまったく違います。ニュースは読めば終わりではありません。聞き手に伝わっていなければ、仕事をしたことにはならないのです。伝えるための努力というのは、際限なくあると思います。例えば、滑舌をよくすること、話の構成を工夫すること、最も大切なことを強調すること、などです。でも、無骨でもいいから、一生懸命伝えようとする気持ちや熱意、これがなければ本当の意味で「伝わる」ことにはならないと思います。
 現在、千葉大学で教員をめざす学生さんに講義をしているのですが、1回目の講義で必ず言うのは「東京タワーに上ってください」ということ。東京タワーは333mですが、それを単なるデータとして子どもに伝えるだけの教員にはなってほしくないからです。実際にそこから見える景色や感じたこと、例えば、そこから見えるスカイツリーは、上ってみたら怖かったのか、逆に面白かったのかなど、自分が体験したこと、感じたことをプラスして物事を教えられるようになってほしいと思います。
 今の先生方は多忙感をおもちだとよく聞きます。学力向上はもちろんのこと、防犯、防災などの責任も負って、本当に大変です。重責を担う先生方には、頭が下がります。しかし、先生というのは、子どもが社会生活を学ぶ第一歩のところに立ち会って物事を伝える立場にあり、子どもにとってとても重要な役割を担うことも事実です。そういった意味で、わたしは先生方には大きな期待をもっています。是非頑張ってください。(談)

木場弘子

木場 弘子

千葉大学教育学部を卒業後、87年 TBSにアナウンサーとして入社。
在局中はスポーツキャスターとして、『筑紫哲也ニュース23』など多数のスポーツ番組を担当。女性スポーツキャスターの草分けに。
92年 与田剛氏(NHKスポーツキャスター)との結婚を機にフリーランスに。
現在は妻、母、キャスターの三役をこなす存在として、テレビ出演、コーディネーター、講演や執筆活動など多方面で活動。最近は教育や環境・エネルギーにかかわる活動が多い。06年、千葉大学教育学部初の特命教授に。生活者と国の行政をつなぐ立場を常に意識しながら活動している。
著書 『子連れキャスター走る!』(中央公論新社)
木場弘子オフィシャルブログ「幅広通信」ico_link