形 forme
(図画工作・美術)

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(図画工作・美術)

ホルンと彫刻の調べ
2012.07.31
形 forme(図画工作・美術) <No.297>
ホルンと彫刻の調べ
巻頭のことば より
NHK交響楽団 ホルン奏者 日髙剛

forme297

 「音楽からのイメージで彫刻をつくってみませんか?」
 長崎大学からの旧知の仲である彫刻家・片山博詞氏との何気ない会話から全ては始まりました。抽象的で様式感のない、ホルンとピアノのための曲を提案したので、具象をフィールドにしている片山氏にとっては冒険に近い試みだったかも知れません。この試みは、いつしか実現したいという「夢」となっていました。
 そんな私たちの思いが通じたのか、昨年「ホルンと彫刻の調べ」というコラボレーションが実現しました。
 リサイタルの依頼を受けた際、主催者に「音楽と彫刻」という組み合わせのコンサート企画を提案したところ、幻想的で新しい空間を創造したいという熱い思いが伝わり、沢山のご支援の中実現することができたのです。
 企画内容を詰めていくうちに、「彫刻」から「音楽」ができたらどうなるか? という興味も湧いてきました。そこで、長崎出身の作曲家・中原達彦氏に、片山氏の彫刻をもとにした新曲を委嘱しました。
 演奏会当日、会場に足を運ぶと、彫刻がステージ上や客席の周りを包み込むように設置されており、不思議な雰囲気を醸し出していました。
 今回初めての試みでしたが、お客様の思いもよらぬ感想に驚きました。「曲によって彫刻の表情が変わる」「彫刻が動いているように感じた」というのです。ワルツでは踊るように、ノクターンでは沁み入り聴いているように見えるというのです。音の響きが彫刻と共鳴してそう見えるのか、音楽を聴いた自分の中のイメージによってそう見えるのか判別付け難いのですが、そこには確かに「動き」がありました。
 演奏中は彫刻から温かみを感じました。お客様の表情も、柔和に変わって行くのを肌で感じました。彫刻家の「想い」が我々演奏者に伝わり、そこから奏でられた「音」が観客に伝わったと確信しています。
 このコンサートを通して、「人との繋がり」の大切さを改めて痛感しました。最初は小さかった輪が次第に大きくなり、ホルンと彫刻までも結びつけて幸せな空間を生み出したのです。結びついた力は数倍にも増幅し、幸福をもたらす事を信じて、この新しい表現を引き続き模索して行くことが、「音色」のメッセンジャーである音楽家、私個人の「夢」です。

プロフィール
 宮崎市出身。長崎大学経済学部を卒業後、東京藝術大学にて学ぶ。1996年より、オランダ・マーストリヒト音楽院に留学。留学中はヨーロッパ各地にてオーケストラの演奏旅行に参加した。帰国後、九州交響楽団とモーツァルトのホルン協奏曲を共演。2000年第17回日本管打楽器コンクール第3位入賞。同年広島交響楽団に入団。その後、日本フィルハーモニー交響楽団、読売日本交響楽団を経て、2005年NHK交響楽団に入団。現在首席代行を務める。2009年にはドイツ・オストフリースラント夏の音楽祭に招待され、ソロ、室内楽を演奏。モーツァルト作曲「協奏交響曲」のソリストを務めるなど好評を博した。活動範囲は幅広くユニークで、今後の活躍が最も期待されるホルン奏者である。洗足学園音楽大学、国立音楽大学、東京藝術大学各非常勤講師。