高校教科書×美術館
(高等学校 美術/工芸)

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空想の建築―ピラネージから野又穫へ―
2013.06.03
高校教科書×美術館(高等学校 美術/工芸) <No.048特別号 教科書の作品に出会える展覧会>
空想の建築―ピラネージから野又穫へ―
「都市の肖像―Babel 2005」野又 穫作
「高校美術1」P.21掲載

アクリル/キャンヴァス/226.5×162cm/2005年 個人蔵 東京オペラシティ アートギャラリー寄託

アクリル/キャンヴァス/226.5×162cm/2005年 個人蔵 東京オペラシティ アートギャラリー寄託

 高さ634mの東京スカイツリーが完成して1年、多くの人々が訪れています。アラブ首長国連邦の都市ドバイでは、総高828mもの超高層ビルが2010年に完成し話題になりました。どちらも雲を突く高さの建造物です。人はより高くをめざし技術の粋を集め、こうした高層のタワーやビルを競い合うようにして造ってきました。
 高い塔や建物には実は長い歴史があります。旧約聖書には「バベルの塔」という建造物が登場します。世界中が同じ言語で話していた時代、人々は「天まで届く塔のある町を建て、有名になろう」(新共同訳聖書、創世記11:4)としました。神はそれを見て、人間が逆らい勝手なことをしないために、互いの言葉が聞き分けられないようにしました。言語が異なり意思が伝わらなくなったため塔の建設は途中で放棄され、民は世界中に散らばっていったといいます。「バベルの塔」は言語の多様性から生じる不和、異文化の衝突、さらには巨大な建造物が崩壊してゆく脆さをあらわすものとみなされます。
 「バベル(Babel)」をタイトルに持つこの作品でも、縦2mを超える大画面に天にも届きそうな建造物が描かれています。画面下部には船やテント状の小屋が細々と描きこまれ、中景にも建物らしきものが並びます。こうした画面下部と対比することで、中央に屹立する白亜の建造物が巨大かつ超高層であることが強調されています。大都市の一部のようにも見えますが人の姿はありません。いにしえのバベルの塔のように、この建物も建設途中で放棄されてしまったのでしょうか。建物の壁面をたどると、所々に見慣れない文字でネオンサインのようなものが取り付けられていることに気づきます。いったいどこの国の言葉なのでしょうか。そもそもここにはどんな人々が住み、どんな意図でこんな巨大な建造物を作ろうと思ったのか…この謎めいた世界を想像力で肉付けしてゆくのはこの作品を見るあなたにほかなりません。一貫して空想の建築をテーマに描き続けている野又穫の力作です。

(町田市立国際版画美術館 佐川美智子)

■町田市立国際版画美術館ico_link

  • 所在地 東京都町田市原町田4-28-1 
  • TEL 042-726-2771/0860
  • 休館日 月曜日(月曜が祝日の場合は翌日休館)

<展覧会情報>

  • 空想の建築―ピラネージから野又穫へ―
  • 2013年4月13日(土)~6月16日(日)

展覧会概要

  • 本展ではヨーロッパの古い版画から現代美術へ、時空をも飛び越える<空想の建築群>を展示し、世界を空想の建築というかたちで目に見えるものにしようとした人々の系譜をご紹介します。

<次回展覧会予定>

  • シリーズ<現代の作家> 
    反骨の画家 利根山光人展―バイタリティーを求めて―
  • 2013年6月22日(土)~8月4日(日)

その他、詳細は町田市立国際版画美術館Webサイトico_linkでご覧ください。