高校教科書×美術館
(高等学校 美術/工芸)

高校教科書×美術館
(高等学校 美術/工芸)

伊勢物語絵巻
2013.04.04
高校教科書×美術館(高等学校 美術/工芸) <No.046>
伊勢物語絵巻
新版「高校美術1」 P.31掲載 和泉市久保惣記念美術館蔵

写真は部分|紙本着色/26.8×412cm/13世紀後半‐14世紀初

写真は部分|紙本着色/26.8×412cm/13世紀後半‐14世紀初

 伊勢物語絵として伝わっている着彩画の中で、この作品は制作時期が最も早く、鎌倉時代後期(13世紀末から14世紀初め)で、物語の7段分を含んでいます。
 質の高い顔料や金銀の装飾を用いた伝統的なやまと絵で、伊勢物語の雅(みやび)の世界を表しているのが大きな特徴です。しかし、この絵巻は、それだけに止まらない見所を備えています。
 掲載場面は、伊勢物語第41段「洗ひ張り」にあたり、豊かな男と貧しい男に嫁いだ姉妹の話です。貧しい男に嫁いだ妹が、自分の夫が朝廷で着る大切な衣服の袍(ほう)を正月に備えて洗ったのですが、仕事に慣れておらず破いてしまいます。それを苦にして泣いているのを姉の夫が同情し、義兄妹の縁を詠んだ歌を添えて義理の妹に新しい袍を贈った、という温かな心情を語る場面です。
 絵を構成するのは、建物と菜園などの屋外風景で、建物は、やや高い視点から天井や屋根を取り除いた吹抜屋台(ふきぬきやたい)の手法を用いて描かれています。建物と菜園の間には赤く色付いた柿の実をついばむメジロが、画面右上には着物を洗濯する洗い張りの情景として、洗った布を竹棒で張り延ばして乾かす伸子張り(しんしばり)の一部が見えています。
 この絵は該当する伊勢物語の内容を直接的には表さず、話しのポイントとなる着物を洗う行為を、伸子張りによって暗示的に示しているのです。雅な世界を田園風景に置き換えたり、白と青2色の暖簾(のれん)が風に揺れ、菜園は青々するなど物語の情景とやや相違しているのですが、絵師はこのようにあえて紛らわしくして伊勢物語への探求心をくすぐる仕掛けを作っていると解釈すると、絵巻の魅力はさらに増していきます。こうした表現が随所に盛り込まれているのがこの作品の大きな特徴なのです。なお、この作品は国の重要文化財に指定されています。

(和泉市久保惣記念美術館館長 河田昌之)

■和泉市久保惣記念美術館ico_link

  • 所在地 大阪府和泉市内田町3丁目6‐12
  • TEL 0725-54-0001
  • 休館日 月曜日(月曜日が祝・休日の場合はその翌日)

<展覧会情報>

  • 古美術の愉しみ-久保惣コレクションの国宝・重文-
  • 2013年4月7日(月)~5月26日(日)

展覧会概要

  • 上記の日程で、和泉市久保惣記念美術館が所蔵する国宝・重要文化財を中心にご紹介する特別陳列「古美術の愉しみ-久保惣コレクションの国宝・重文-」を開催します。「伊勢物語絵巻」は前期展示(4月7日~4月29日)で展示予定です。

<次回展覧会予定>

  • 常設展「北斎・広重の名所と風景-日本を巡る-」
  • 2013年6月28日(土)~7月28日(日)

その他、詳細は和泉市久保惣記念美術館Webサイトico_linkでご覧ください。