小学校 道徳
小学校 道徳


絵:戸井李名
1.主題名
心の美しさ D[感動、畏敬の念]
2.教材名
「花さき山」 (出典:日本文教出版『新・生きる力』)
3.主題設定の理由
(1)ねらいとする価値について
美しいものや気高いものに感動することは、豊かでありながらも謙虚さを大切にした人間らしい生き方をしていく上で大切なものである。また、感動したり、畏敬の念をもったりすることは、想像する力や感じる力を育み、自身の心を豊かにしてくれる。
この期の子どもたちは、認識能力の発達に伴って、想像する力や感じる力が増してきている。しかし、美しいものや気高いものに触れても、それらの素晴らしさに気付くことができない児童や、人の心の美しさなど内面的な美しさや気高さに対して気付いたり、感動したりするなどの能力が、まだ発達の途上にある児童もいる。
そこで、本主題では、一人一人が想像する力や感じる力を働かせ、日常生活における行為の気高さやその背景にある心の美しさに気付き、素直な気持ちで感動することの素晴らしさを感じ取るようにさせたい。
(2)児童の実態について
本学級の児童は、物語に触れることが好きで、国語の授業や読み聞かせで新しい話に出会うと目を輝かせてその話を心から楽しむ様子が伺える。また、子どもらしく素直な子が多く、自分の感じ方を大切にしたり、感じたことを素直な表現で言葉にしたりしようとする。2学期に行った「しあわせの王子」では、美しい心にも触れ、目に見えないものの美しさを自分たちなりに感じようとする姿は見られた。しかし、ほとんどの子どもたちが普段の日常生活で感じている美しさの対象は、海、花、星、宝石など目に見えるものばかりである。したがって、人の行為や心情に対して美しさを感じられる機会がそれほど多くもなく、またそのような場面でも、その美しさに気付かずに過ごしてしまうことがほとんどである。
そこで、本教材を通し、目に見える美しさに感動する心を大切にしながらも、目に見えないものにまで美しさを感じられる心情を育てていく。そして、誰もが美しい心をもっていることを実感させながら、それらに気付いたり、見つけたりしようとする心情へとつなげていきたい。
(3)教材について
主人公あやは、ある時道に迷い、花さき山に一人で住んでいるやまんばと突然出会う。やまんばは、あやが人知れずに行うけなげさや優しさを認め、褒めてくれる。花さき山の花は、自己犠牲という心の美しさを象徴している。これを支えるつらさ、辛抱、涙は、花が咲くことで癒され、明日への希望となっている。花に象徴されるあやの心の「美しさ」を大切に扱っていきたい。
4.研究主題(本タイトル)との関連
(1)ブラックシアターを活用した教材提示
教材の世界観に浸らせるために、教室全体を暗くし、ブラックシアターを活用した教材提示を行う。登場人物を物語に合わせて出入りさせたり、花さき山のきれいな花を演出したりして、子どもたちがその物語の世界にいるような雰囲気を作り上げる。また、BGMを活用し、演出をより引き立てるようにする。
(2)協同的探究学習を意識した話し合い
協同的探究学習とは、町田市で取り組んでいる、主に概念的な理解・思考を広げ深めるための学習形態のことである。一時間の授業時間の流れを、「①導入問題(限定された問題)」→「②自力解決(個別探究1)」→「③集団検討(協同探究)」→「④展開問題(個別探究2)」として、様々な教科に取り入れながら、児童の学力向上をねらいとして取り組んでいる。
本授業では、中心発問を協同的探究学習の「導入問題」、後段の自分への振り返りを「展開問題」と位置付ける。導入問題では、子どもから出た意見を整理したり、関連付けを行ったりするための時間を十分に確保するために、発問を精選する。また、板書を計画的に活用し、子どもたちが自分たちの考えを整理する手立てとなるようにする。展開問題では、子どもたちが自分たちで広げたり深めたりしたことを元に、それぞれの心に返って自己を見つめる活動となるよう、以下(3)のように工夫する。
(3)一人一人の心の美しさに気付かせる展開後段・終末の工夫
展開後段や終末で使用するための、「3年1組の花さき山」のボードを用意しておき、教室の中に用意しておく。
展開後段で、みんなの前で発表することができる児童がいた場合、一人が発表するごとに一つの花をボードに咲かせていき、花を増やしていく。そして、終末の説話では、教師が感じていた3年1組の「美しい心」をいくつかを紹介し、花を咲かせていく。また、そのボードを今後も引き続き掲示しておくことを伝え、それらの花をさらに増やしていきたいという実践意欲につなげていく。
(4)多面的・多角的な思考を深める話し合い
中心発問の話し合いでは、「あや」の気持ちを考えながらも、「そよ」や「母」の視点からも話し合いを深めていくことで、多面的な思考を深めさせる。また、自分のことよりも人のことを思う優しい心(思いやり・親切)や、そよやお母さんを大切に思う心(家族愛)など、様々な価値が関連した児童の考えが出てくる。それらを一つ一つ大切にし、複数の角度から「美しい心」について考えを深めさせることで、多角的な思考を深めさせていく。
5.教材分析
場面 |
登場人物の心の動き |
関連する内容項目 |
考えられる発問 |
児童の心の動き |
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山菜取りに行ったあやが、道に迷って、やまんばと出会う。 |
・やまんばは何でも知っている。不思議だな。 |
D[感動、畏敬の念] |
あやは、やまんばと出会って、どんなことを思っているのだろう。 |
・やまんばはなんだか怖そうだな。 |
あやが、花さき山の花がなぜ咲くのかを聞き、自分が我慢している気持ちが花を咲かせたことを知る。 |
・人の優しさが花になるなんてすごい。 |
D[感動、畏敬の念] |
あやは、どんな気持ちで「そよさ買ってやれ。」と言ったのだろう。 |
・あやは優しいな。 |
あやが、青い花が咲こうとしている理由を知る。 |
・小さな赤ん坊でも我慢しているんだな。 |
D[感動、畏敬の念] |
あやは、双子のあんちゃんが咲かせた小さい青い花を、どんな思いで見ていたのだろう。 |
・あやよりもっと小さい子が、こんなに我慢しているなんて、えらいな。 |
花さき山一面の花が、みんなこうして咲いたことを知る。 |
・我慢しているのは自分だけじゃなかったんだ。 |
D[感動、畏敬の念] |
花さき山に咲く一面の花を見て、あやはどんな気持ちになっただろう。 |
・つらいことがあっても、我慢するといいことがあるんだな。 |
山から帰り、みんなにやまんばから聞いた話をする。しかし、信じてもらえず、確かめに再び山へ行く。 |
・素敵な話を聞いたから、みんなにも聞いてほしい。 |
D[感動、畏敬の念] |
山から帰ったあやは、どんな気持ちで、しんぼうすることを続けているのだろう。 |
・みんなに信じてもらえなくて、あやがかわいそう。 |
6.本時のねらい
心の美しさや気高さに触れ、それを大切にしていこうとする心情を育てる。
7.展開の概要
学習活動(○主な発問 ・予想される児童の考え) |
◇指導上の留意点 ●評価 |
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導 |
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○写真を見て、どのようなことを感じましたか。 |
◇「きれいなもの、美しいもの」への興味や関心を高め、目に見えない「美しい心」について考えることを話し、ねらいとする内容項目に方向付ける。 |
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導 |
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○花さき山一面の花を見て、あやはどう感じただろう。 |
◇花さき山の花の美しさと涙、辛抱、つらさとのつながりをとらえられるようにする。 |
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○みんなの周りにも、花さき山の花を咲かせているなと思う人がいますか。★協同的探究学習<展開> |
◇心の美しさは、人が誰かのために我慢したり、譲ったり、尽くしたりすることだということをもう一度確認する。また、人のことだけではなく、自分のことでもよいことにする。 |
|
終 |
4 ボードに、クラスの花さき山を作っておき、その一部を紹介していく。 |
◇その後も日常的に花さき山を掲示しておき、児童の花を咲かせることで、美しい心を大切にしようとする意欲をもてるようにする。 |
7.板書計画
8.ホワイトボード
9.ワークシート
10.考察
ブラックシアターやBGMを用いた教材提示は、子どもの心を惹きつけ、物語の世界に入り込ませる上で、とても効果的だった。物語の美しさを視覚的・聴覚的にもとらえることができた。
また、中心発問で、多面的・多角的に話し合いを進めていくことで、子どもが考えた全ての思いが「心の美しさ」につながっていく、ということをとらえさせることができた。
当日、展開前段から後段に移る際に、『「花さき山」はどこに行ってしまったのだろう。』という補助発問を行った。すると、子どもから、「一人一人の心の中。」という反応が見られ、ねらいとする価値の深まりを実感することができた。
展開後段で、「自分が我慢をして…」ということにこだわって授業を進めてしまったが、「心の美しさ」をもっと広くとらえさせることで、さらにねらいに迫ることができたのではないかと感じている。一人一人の心にどのように働きかけていくか、さらに模索を重ねていくことが今後の課題である。