小学校 道徳
小学校 道徳

1.主題名
まっすぐな心を貫く C[公正、公平、社会正義]
2.資料名
アンパイアの心(出典:文部省「小学校 道徳の指導資料 第2集 第5学年(1965年)」)
3.主題設定の理由
(1)ねらいとする道徳的価値について
社会生活の中で、人として公正に判断し行動していくことが、よりよい社会を作っていく中でとても重要である。そしてそれが社会正義でもある。その根底には、相手に対する思いやりの心、善悪の判断が働いてなければならない。しかし、それは決して容易なことではない。人間は、自分とは異なる考え方や感じ方に対して不安になったり、多数ではない立場や意見などに対して偏ったものの見方をしたり、自分より強い相手に恐れを抱き、つい自分の思いや考えを曲げてしまったりしてしまう弱さをもっている。また、自分より弱い存在があることで優越感を抱きたいがために偏った接し方をする弱さももっている。それが、差別や偏見につながっていくのである。
社会に所属する一人一人が確かな自己実現を図ることができる社会を実現するためには、そのような人間の弱さを乗り越えて、自らが正義を愛する心を育むようにすることが不可欠である。しかし、それは簡単にできることではない。人間誰もが弱さをもっており、それに打ち勝つには強い意志が必要である。そのためには、自他の不公正を許さないという姿勢と共に、一時的な周囲の雰囲気や感情、人間関係に流されることなく自分の考えをしっかりもつことが重要である。自分の心に迷いがあったり、周りに流されて自分の心と反した行動をとったりすれば、他人を傷つけるだけでなく、自身の心が納得することはないということをじっくり考えさせていくことが大切である。
誰に対しても、一時的な自分の感情に惑わされることなく、公正、公平な態度で、正しいことを迷わずに堂々と行っていこうとする心情を育てていきたい。
(2)児童の実態について
本学級の児童は、人としてよくない行動は許してはいけないと思っている児童が多い。いじめの事件など人として許せないような話をすると、「そんなひどいことあるの。」と心を痛めている。また、相手のことを思いやる気持ちをもっている児童が多く、クラスで意見が対立した時などでも、対立する意見に対しても、相手の意見をうまく取り入れたり、相手に気を遣ったりしながら自分の意見を表出していることが多い。
6年生の2学期になり、思春期に入っていく時期である。友達との関係も今までとは違ってくる。それでも、相手のことを考えることのできる心を大切にしながら、たとえ、状況が自分にとって不利であっても、また相手が誰であったとしても一時的な自分の感情に惑わされることなく、公正、公平な態度で、正しいことをやっていくことの大切さを考えさせていきたい。
(3)教材について
この教材は、文部省「小学校 道徳の指導資料 第2集 第5学年(1965年)」の中の「アンパイアの心」の一部である。
いつも公平な審判をするので「公平君」とあだ名で呼ばれるほどの主人公「公一」が、頼まれて引き受けた野球の試合の話である。
公一は野球の審判をしていた。キリンクラブの友だちの広は調子が悪く、苦しい局面になっていた。相手チームのバッターは、感じが悪い。広のチームの味方をしたい気持ちに傾くが、公平な判断をすることを曲げず正しい審判をする。試合が進んでいくうちに、ライオンクラブの道男の打った球がギリギリのところでファールになる。1点を争うゲームの中での出来事で、ライオンクラブの応援団の中学生2人に「ホームランだ。」と殴られるかと思うほどの勢いで言い寄られる。しかし、判断は曲げなかった。結果は、ライオンクラブが負けてしまう。「負けたのはおまえのせいだ。」と帰り際にまた中学生に言われ悔しい思いになる。
しかし、二週間後、公一は公平な判断をした公一の行動をたたえたスミ子の書いた校内新聞の記事を読み自分の判断の正しさを再確認する。また、その記事を読んだライオンクラブの道男と文句を言った中学生が自分たちの行動を謝罪し、また審判を公一に頼むというお話である。
この教材を通して、自他の不公正を許さないという姿勢と共に一時的な周囲の雰囲気や感情、人間関係に流されることなく、公正、公平な態度で正しいことを迷わずに堂々とやっていくことの大切さを考えさせていきたい。
4.教材分析表
場面 |
主人公(公一)の心の動き・内面 |
発問 |
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①広投手が力いっぱい投げた球はボールだった。 |
・残念。 |
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②友だちの広は、今日は調子が悪い。 |
・どうしたのかな? |
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③公一はえこひいきせず、公平な審判をするので審判を頼まれている。 |
・審判は公平にするべきものだ。 |
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④ライオンクラブの打者は感じが悪い。 |
・あんな失礼な打者にはいい思いをさせたくない。 |
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⑤満塁の後、広が投げた第一球もボール。続く球もボールで押し出しの1点になってしまった。 |
・広が不満そうにしている。辛いのはよくわかるが間違ったことは言えない。 |
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⑥投手が代わり、広がぼくをうらめしそうににらんだ。 |
・ぼくが悪いわけではない。 |
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⑦同点のまま7回を迎えた時、よい音がして、球がレフトの上を超え、ホームランかと思われたが、「ファール」と公一が叫んだ。 |
・あれは、ファールだ。 |
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⑧ライオンクラブの選手や応援団が、「ホームランだ。」と騒ぎ出した。 |
・ほんのちょっとだから、そう思いたいのだろう。 |
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⑨体の大きな中学生2人が詰め寄って、「ホームランだと言いなおせ。」となぐるような勢いで言ってきたが、ファールだと言い切った。 |
・ちょっとこわいな。 |
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⑩ライオンクラブは、負けてしまって、「さっきのホームランで勝っていたのになあ。」と悔しがっていた。 |
・負けたのはかわいそうだ。 |
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⑪先ほどの中学生がまた公一のところに来て、「負けたのはおまえのせいだ。」と怒鳴り、公一はだまったまま唇を噛んでいた。 |
・ぼくの判断は間違っていない。それなのになんでこんなにまで言われなくてはいけないんだ。 |
①中学生の2人に「負けたのはおまえのせいだ。」と言われ、だまったまま唇を噛んでいた公一はどんなことを考えていたのでしょう。 |
⑫校内新聞を見て、ちゃんと見ていてくれた人がいたことが分かった。 |
・ぼくの判断は間違っていなかったんだ。 |
②自分が正しかったと認めてくれた校内新聞を読んで、公一は、どんな気持ちだったでしょう。 |
⑬公一の家にライオンクラブの主将の道男と応援団の中学生2人が来た。 |
・また、文句を言いに来たのかな? |
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⑭ライオンクラブの道男や中学生に謝られ、次の試合にもアンパイアになってほしいと言われた。 |
・どんなことがあっても正しい判断をすることが大事だ。 |
③公一に詰め寄ってきた中学生たちに、「次の試合にもアンパイアになってほしい。」と言われて、どんな思いになったでしょうか。 |
5.ねらいに迫るための手立て
(1)座席の工夫
〈教材提示〉教材理解にじっくりひたらせるために、全員が担任の方を向くようにする。
〈話合い〉座席をコの字にし、みんなの顔を見て、話し合いができるようにする。
〈振り返り〉前向きの座席の形にし、一人一人が集中してじっくり自分を見つめられるようにする。
(2)アンケートの活用
児童に「公平にしたくても、その時の状況に負けて、公平にできなかった時はどんな時ですか。」というアンケートを事前にとっておく。導入では、アンケートに多く出てきた事例をもとに、その時の気持ちを児童に考えさせることで、具体的にねらいとする価値項目について考えられるようにする。また、振り返りの時に、なかなか思いつかない児童に対して、活用できるようにする。
(3)表現活動の工夫
主人公がいろいろな考えで揺れている第2発問の場面で、役割演技を行う。役割は交替して、「何を言われてもゆるがない」という気持ちと、状況に負けてしまいそうな気持ちの両方の思いについて考えられるようにする。
(4)発言方法の工夫
児童一人一人に考えを深めさせたい場面で、ドキワク発言を行う。ドキワク発言とは、手を挙げていない児童でも教師の意図的な指名をし、発言を促すものである。
*他にも、たけのこ発言(教師が指名を行わず、児童が自主的に立ち、発言する)、ドキドキ発言(挙手はなく、教師が意図的に指名する)などがある。
6.本時
(1)ねらい
自分に詰め寄ってきた中学生たちにも正しい判断を認められた時の公一の気持ちを考え、その時の一時的な思いや状況に負けず、誰に対しても公正、公平な態度で接していこうとする心情を育てる。
(2)本時の展開
□学習の流れ ○発問 ・予想する児童の活動 |
・指導上の留意点 |
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導 |
□価値への導入 |
・児童に事前に「公平にしたくても、その時の状況に負けて、公平にできなかった時はどんな時ですか。」というアンケートをしておく。 |
展 |
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③公一に詰め寄ってきた中学生たちに、「次の試合にもアンパイアになってほしい。」と言われて、どんな思いになったでしょう。 |
・ドキワク発言にし、教師の意図的指名を行う。 |
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展 |
□自分を振り返る |
・座席を全員前に向かせる。 |
終 |
□教師の説話を聞く。 |
(3)評価
・自分が正しかったことを認めてくれた校内新聞を読んだ時の公一の気持ちを考えることができたか。(③の発言)
・誰に対しても自分の弱さに負けることなく、公正、公平な態度で接していこうとする心情をもつことができたか。(ワークシート)
(5)ワークシート