小学校 道徳
小学校 道徳

1.主題名
自分の役割と責任に誇りを C[よりよい学校生活、集団生活の充実]
2.教材名
海の勇者(出典:文部省「小学校 道徳の指導資料 第2集 第6学年」1965年)[一部再構成]
3.主題設定の理由
(1)ねらいとする道徳的価値について
人は社会的な存在であり、家族や学校をはじめとする様々な集団や社会に属して生活を営んでいる。それらの集団や社会の中で生活していく上で大切なことは、集団や社会の中で一人一人が尊重して生かされるとともに、一人一人が主体的にその集団や社会に関わっていくことが大切である。そのためには、各自が役割をもち、その責任を果たしていくことが必要になってくる。しかし、人は大きな集団になればなるほど「誰かがやってくれる。」「自分がやっても大して変わらない。」といった無責任な気持ちで集団に関わり、自分の役割に責任をもとうとせず、責任転嫁してしまうこともある。しかし、これは個にとっても集団にとってもマイナスでしかなく、いずれはその集団のまとまりを壊してしまうことにもつながる。また、人は逆に自分の役割を自覚しているものの、その責任の重さに耐えられずその役割を投げ出してしまいたくなる弱さをももっている。
いろいろ大変なことや自分の力だけではどうにもならないことが起こったとしても、集団や社会の中で自分の役割を自覚しその責任を果たしていくことをしていかなければ、よりよい集団や社会をつくっていくことはできない。そのように自分の役割を果たす経験を重ねる中で、「集団を支えている一人なんだ。」ということに気付いたり、集団の中で主体的に協力することの大切さを知ったりすることができる。自分の役割をしっかり果たすことで、所属する集団がよりよく向上していくことをじっくり考えさせていきたい。そして、集団の中で役割をもつことが大変なことと思うのではなく、自分が責任をもってやったことが集団に影響を与えることを考えることによって、自分に与えられた役割と責任を自分の誇りとしてどんなことがあっても最後まで責任を果たしていこうとする心情を育てたい。
(2)児童の実態について
自分に与えられた仕事は責任をもってやろうとする児童が多い。普段の学校生活でも、係や委員会の仕事に責任をもち、その仕事の中でも全校に対して先頭にたってやらなくてはいけない時など、隙間の時間まで原稿に目を通していたり、練習に励んでいたりしている。また、6年生だからこそ頼まれた仕事や先生から自分を見込んで頼まれた仕事などは、生き生きと誇りをもって仕事をしている姿に頼もしく感じることもある。また、真面目に取り組んだり、責任感を強くもつ気持ちが強かったりすればするほど自分の責任に対して重く感じていることもある。
責任をもつということは大変なことではあるが、自分の責任を重く感じるのでなく、自分が責任をもってやったことが集団の支えになっていることに気付かせ、自分に与えられた役割と責任を自分の誇りとして、どんなことがあっても最後まで責任を果たしていくことの大切さを考えさせたい。
(3)教材について
1951年12月26日に実際に大西洋で起こった出来事の話である。突然の大嵐の中、船長のクルト=カールセンは必死に船と乗客、船員を守ろうとしていた。しかし、自然の驚異には勝てず、船がだんだん傾き、航海を続けることができなくなった。クルト=カールセン船長は乗客の命を守るために細かに避難の指示を出す。乗客、船員がボートに移った。しかし、クルト=カールセン船長は、船員の再三の呼びかけにも応じず、船を守るという自分の船長としての責任を果たそうとする。
乗客が無事救助され、クルト=カールセン船長のもとにも救助船が向かい、とうとう船が沈んでしまうというところでクルト=カールセン船長も救助された。その最後まで乗客と船を守ろうとした船長の姿をたたえた内容である。
何社かの副読本にもこの教材は掲載されている。原作である文部省「小学校 道徳の指導資料 第2集(第6学年)」を読み、その時の情景がよく描写され、クルト=カールセン船長の自分の責任に対する思いがよく分かるので、原作をもとにねらいとするところに着目して再構成をした。
この教材を通して、クルト=カールセン船長が船長として、乗客と船をまもろうと最後の最後まで自分の責任を果たそうとした姿を通して自分の役割に責任をもち、また、それを誇りとしてどんなことがあっても最後まで責任を果たしていくことが集団の大きな支えとなることを考えさせていきたい。
4.教材分析図
場面 |
主人公の心の動き(内面) |
発問 |
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①船長と船員たちが必死に船を守っていた。 |
・早く嵐が静まってほしい。 |
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②船は、左に大きく傾いていった。 |
・もうだめなのか。 |
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③じっと夜のように暗い薄気味悪い空の一角をにらんでいた。 |
・嵐は止んではくれなさそうだ。 |
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④やがて、静かにしかし強い声で命令した。 |
・とにかく乗客だけは助けなければならない。 |
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⑤「お客様を先にお乗せしろ。風は冷たいぞ。毛布、セーター、ありったけお着せしろ。」と声をあげていた。 |
・乗客を無事に港に避難させなければ。 |
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⑥「船長、早く乗ってください。」と、船員たちが口ぐちに叫んだ。 |
・ありがとう。 |
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⑦「船を最後まで守り通すのは、私の責任だ。きみたちの責任は、お客様の命を守ることだ。さあ、早く。」と船長は言った。 |
・船員たちの言っていることはわかる。でも、私の責任を果たしたい。 |
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⑧遠ざかるボートを、じっと見つめながら船長はつぶやいた。 |
・この嵐の中で無事にいけるだろうか。 |
○遠ざかるボートをじっと見つめながら、クルト=カールセン船長はどんなことを考えていたでしょう。 |
⑨傾きかけたエンタプライズ号は、救助船ターモイル号に引かれ、イギリスのファルマス港に向かって進んでいた。 |
・よかった。これで、船を守ることができる。 |
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⑩1週間の後、エンタプライズ号は、その大きな体をぶくぶくと海の中へ沈め始めた。 |
・あと少しだったのに、ほんとうに残念だ。 |
○クルト=カールセン船長は、どんな思いでフライング=エンタプライズ号が沈み始めるのを見ていたのでしょう。 |
⑪ファルマス港に入っていくと、人々は船長をほめたたえた。 |
・みんながこんなに喜んでくれて嬉しい。 |
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⑫乗客と船員がみな無事に助かり、しかも、二代目のエンタプライズ号が、船長のために用意されていた。 |
・乗客も船員の命を救うことができて本当によかった。 |
◎乗客と船員が無事であり、さらに二代目のエンタプライズ号が用意されていることを知って、クルト=カールセン船長は、どんな思いだったのでしょうか。 |
5.ねらいに迫るための手立て
(1)座席の工夫
〈教材提示〉教材にじっくりひたらせるために、全員が担任の方を向くようにする。
〈話合い〉座席をコの字にし、みんなの顔が見て話し合いができるようにする。
〈振り返り〉前向きの座席の形にし、一人一人がじっくり自分のことを振り返られるようにする。
(2)教材提示の工夫
実際にあった映像を教材提示の中で提示し、臨場感あふれるよう工夫する。他にも、場面に応じた写真をパワーポイントで映しながら、教師が範読する。
(3)話合い活動の工夫
ハンドサインを活用し、児童の考えを把握し、多様な意見が出るようにする。中心発問では、ドキワク発言(手を挙げた児童以外でも教師が意図的に指名された児童が発言する)を活用し、話し合いを深めていくようにする。
6.本時
(1)ねらい
乗客と船員の命を守り、また新しい船で船長ができることを知った船長の気持ちを考え、自分の役割の責任を果たすことが集団の支えとなることを自覚し、どんなことがあっても最後まで責任を果たそうとする心情を育てる。
(2)本時の展開
□学習の流れ ○発問 ・予想する児童の活動 |
・指導上の留意点 |
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導 |
□価値への導入 |
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展 |
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③乗客と船員が無事であり、さらに二代目のエンタプライズ号が用意されていることを知って、クルト=カールセン船長は、どんな思いだったのでしょうか。 |
☆ドキワク発言を活用する。 |
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展 |
□自己を振り返る。 |
・ワークシートに書く。 |
終 |
□教師の説話を聞く。 |
(3)評価
・乗客と船員が無事であり、さらに二代目のエンタプライズ号が用意されていることを知った時のクルト=カールセン船長の気持ちを考えることを通して、自分の役割を最後まで全うし、責任をもつことの大切さを考えることができたか。(ワークシート)
・自分の役割の責任を果たすことが集団の支えとなることを自覚し、どんなことがあっても最後まで責任を果たそうとする心情をもつことができたか。(発言、ワークシート)
(4)板書計画
(5)ワークシート