学び!と美術

学び!と美術

子どもをとらえる方法と手掛かり~視線
2013.09.10
学び!と美術 <Vol.13>
子どもをとらえる方法と手掛かり~視線
奥村 高明(おくむら・たかあき)

 前回「図画工作・美術では、子どもと先生の間に作品があるので、子どもを具体的に認めたり、ほめたりしやすい」と書きました。本稿では、これを少し進めて、図画工作・美術で子どもをとらえるための方法や手掛かりについて考えます。

「子どもをとらえる方法」

 私たちは、普段からいろいろな手掛かりをもとに「見えない」相手の心中をとらえています(※1)。
 例えば、相手の足が細かく動き始め、時計を気にし始めたとしましょう。その様子から「ああ、話を終わりたがっているな」「次に何か用事が控えているのかな」と判断します。そして「じゃ、そろそろ」「…っていうところですかね」など、話を終わりに方向付ける発言をします。それに相手が乗ってくれば、先ほどの判断は正しかったというわけです(※2)。
 このような能力は生まれてすぐから発達します。赤ちゃんが、お母さんの向く方を向く、口を開けると口を開けるという動作をすることをご存じでしょう。これは、真似ながら相手をとらえようとする行為で原初的なやり取りです。乳飲み子ですら、お母さんの動きや声などから機嫌をはかります。人は人と交渉しながら生きていく生き物です。私たちは表情、動き、言葉など様々な手掛かりをもとに相手の感情や考えをとらえ、相手とやり取りしながら、概ね妥当に生活しているのです。
 図画工作・美術で子どもをとらえるのも同じ方法です。姿勢や動きなど手掛かりをもとに、子どもが何を感じ、何を考えているのか推し量ります。

「視線という手掛かり」

 手掛かりにはいろいろありますが、今回は視線を取り上げましょう。
 視線はいろいろなことを教えてくれます。例えば視線が隣の子の作品に止まれば「アイデアや色などを気にしている」と考えられるでしょう。子どもの視線が宙を泳げば「何か考えている」のかもしれません。さらに、視線を他の動きや作品と関係づけると、もう少し具体的なことまで分かってきます。
 例えば、写真を見て下さい。習字の筆や墨を使って模造紙大の和紙に何か描いています。「思いのままに筆を動かそう」とか「筆が動いて生まれた形」などの提案が行われたのでしょう。
 まず、真ん中の女の子は、ぐるりと画面全体を見渡します(図1)。

図1

図1

 その直後、画面上部に筆を「ドン!」と落とします(図2)。

図2

図2

 次に画面下部に目を移します(図3)

図3

図3

 そして、画面下部に向かって筆を「ピッ、ピッ」と振ります(図4)。

図4

図4

 10秒程度の出来事です。でも、そのわずかな時間の出来事から、この子が6年生らしい画面構成をしていることが分かります。
 まず、全体を見渡した後に、画面上部に大きく墨を落としたのは、そこに強い形が必要だと思ったからでしょう。次に、画面下部を見て、軽く筆を振ったのは、そこに小さな点が必要だと判断したからでしょう。つまり、この子は全体のバランスを考えながら筆を動かしているのです。それは高学年児童ならではの能力です。そのことが、この子の視線と、それに連動する手の動き、その結果としての作品などから分かるというわけです。
 一方、このような場面であっても、子どもの作品だけを見て評価する大人がいます。その場合、「書道と美術の融合で面白い」とか「大胆な作品だ」などのような「上から目線の評価」になりがちです。子どものすべてを作品からとらえることはできません。せっかく子どもが目の前で活動しているのですから、その姿から分かることを大事にしたいものです。
 視線は雄弁です。視線と手の動き、作品などを関連させることで、より具体的に子どもが何を感じ考えているかとらえられます。まずは、明日、誰か一人の子どもの視線に注目してください。ほんの数秒でよいと思います。そこでわかったことをもとに、子どもを認めたり、ほめたりしてみましょう。


※1:「見えない」というよりも、そもそもお互いに「見えるようにしている」というほうが適当だろう。環境との相互行為で自分をかたちづくるのが人間だ。
※2:必ず人は終わるためのやり取りを行う。