旧学び!と美術
旧学び!と美術

内面が表現しやすい図工や美術
この一点透視図で並木道の絵を描いたのは、19歳の大学生です。写真を見ながら下の枠内にスケッチする課題に取り組んだ60人のうちの一人の作品です。
最近の私は、コンクールや展示会などに出かけるばかりで、このような絵を描く子どもについて考えることを忘れていたと反省させられました。すでに各学校で選抜されてきた展覧会の作品を見るだけでは、絵に表れる「いまどきの子ども」の傾向がわかっていないと気づいたのです。
この作品は、いわゆる展開図と呼ばれる小学校低学年の児童に見られる傾向を示しています。美術を専攻した訳ではないので、本人は絵が苦手と考えているだけでしょう。図画工作や美術の時間が少くなっているために、このような絵を描く子どもが増えているのでしょうか。
絵を描いたり、彫刻をしたりしなくても、子どもたちは環境や情況を見ながら育ちます。そしてなぜか、絵を描かせるときに教師が決まって言うのです。「よく見なさい」と。それは単に眺めているだけでなく、注視して観察しなさいという意味であったはずです。幼児期に、水平に置かれた画用紙であるにもかかわらず、描きながら画面の上下と実際の空間との関係を認識し、画面が立ち上がる瞬間を経験します。また、子どもたちの想像力はレントゲン画を描き出します。やがて、ものの重なりや奥行きを意識し始めると、画用紙を窓に見立てたような空間を描き始めます。そのとき彼らは、空間や情況の認識を深めた瞬間だと考えられます。「よく見なさい」がもっとも必要とされる成長の頃合いです。
公開授業などで配布される指導案に「題材設定の理由」とともに「児童観/生徒観」が示されるようになりました。子どもの情況をふまえて授業を行う教師にとっては当たり前のことなのですが、何を「児童観/生徒観」とするかの観点が、指導案によって違っているように思うのです。
小学校学習指導要領「図画工作」・中学校学習指導要領「美術」では、「身近な」が多く用いられています。また、「第3 指導計画の作成と内容の取扱い」においては、「児童や学校の実態に応じて」や「生徒の学習経験や能力,発達特性等の実態を踏まえ,」という記述があります。子どもにとっての身近なもの、受けもっている児童生徒の実態とは何かを考えてみる必要がありそうです。
子どもの事故や事件が頻発すると現代っ子の特徴などとして、マスコミが取り上げたりしますが、基本的には、子どもの実態をもっともよく把握しているのは教師たちです。ですから、学習指導要領や教科書の編集者は、おおよそ子ども傾向を捉えて編集はできても、教師たちに委ねる以外にない子どもの実態認識というものがあります。ですから、教師たちが学校の地域性や子どもの実態に応じて、柔軟に授業展開できるよう配慮されている部分が多いのだと思われます。
ところが、近年は私たちが子どもを理解しようとする以上に、子どもたちの変化が大きくなっているように感じませんか。その変化を簡単に「幼児化」「体験不足」と言ってしまいがちですが、実際には多様な子どもの数だけ理解が必要であり、対処的・予防的な教材と、目の前にいる子どもたちの課題に重点化した指導が求められます。
例えば、エコ感覚やIT感覚などの社会性において、大人たちよりも優れた順応感覚を示す子どもが、「臨機応変」や「自分で考え判断する」、「気を利かす」、「一歩先のことを考える」などの主体性が欠落していたりします。一方では、宇宙やブラックホールについて詳しい児童が、実際の夜空を見ても北極星や星座が確認できなかったりします。これらは生活習慣の中で学び、身につけるべきものですから、「気を利かしなさい。」という指導の一言で一変したりはしないものです。配慮に気づいたり、ダイナミックな自然に感動したりする体験学習を通して学ばせる時間が必要なのです。展開図を描くという裏側に、人の感情や社会的価値が察知できない認識不足が潜んでいるとしたら、豊かな人生などあり得ないかもしれないのです。
規則に縛り「ルールを守ってさえいれば自分に責任がない。」という一見社会的過保護が規則依存の感覚を招いている可能性があります。場合によっては、規則のないところから授業に導入し、その必要に気づかせるようなカリキュラムが必要なのかもしれません。
大人は、便利な規則を振りかざして、子どもたちに考えさせることを手抜きしてしまったために、柔軟な判断力や複雑な人間関係の認識力が育ちにくくなっているのかもしれないのです。
現代の親たちは、我が子がどんな子に育つことを望むのでしょう。我が子と話せる時間・時期は非常に短いものです。それは学校教育で育くむことができる時期と符合します。私たちは「よく見なさい」と指導しながら、子どもの内面がもっとも表され易い図工や美術の作品から、彼らの傾向を捉える立場にあります。そして、保護者と情報交換しながら指導のチャンスを逃さないようにしなければなりません。
導入事例 Case18
中学校2年『光の表現 光の演出』(7時間)
*光の効果について、日常生活の中から情報を集め、生活空間の豊かさや潤いを演出する造形要素としての光を再考し、ランプシェードつくる題材です。
◎主な材料:
- 和紙
- 風船
- 厚紙
- 接着剤
- セロハン 他
◎導入の工夫
光を用いた表現は比較的生徒の興味・関心が高い傾向にあります。ただ、光の造形的な活用が難しく、表現の深まりという点において、生徒には難しさがあると感じていました。
身近にある材料を用いた造形的に簡単な方法なら、表現活動への抵抗感がなく、より発展的な発想や積極的な工夫を促せると考えました。光の役割、価値など、人と光の関係から身近な生活を意識させ、活用から探求へ意欲が展開することを期待しました。
◎学習課題として提示したこと
- 身近な光の美的体験を思い出そう。
- 人類が初めて手にした光、生活の中の光、そして現代の光の価値と効果を考えよう。
- 身近な素材を用いて、光と影の効果が美しい作品を発想しよう。
- 風船の形状や和紙の透過性を生かした雰囲気ある演出をしよう。
- アイデアを具体化するための素材活用や着色材料について考えよう。
- 完成予想図について、安全・エコ・演出の効果などの視点から話し合おう。
- 作品を相互評価し、日常生活での効果や鑑賞者(家族など)の気持ちを思いやろう。
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(A先生の実践から)