旧学び!と美術

旧学び!と美術

暗い時代だからこそ
2010.02.01
旧学び!と美術 <Vol.34>
暗い時代だからこそ
バカな人ほど愛すべき存在
天形 健(あまがた・けん)
雪の中を飛び回るコウモリ発見!冬眠妨害者は、実は私かな?(福島県東山温泉)

雪の中を飛び回るコウモリ発見!冬眠妨害者は、実は私かな?(福島県東山温泉)

 一向に世の中が明るくならないから、こんなことを考えるのかもしれません。人間は、成すことや考えることが混沌としていて、好みが多様で、行動が不可解、そして何事も自己中で、判断が感情的、おまけにバカだと。

 もしも、混沌でなければ世の中が澄み渡り、過去のことが理解できて未来の予測がつきやすく、それに対応した生き方ができるのに…。もしも、好みや嗜好が多様でなければ、デザインや機能が統一され、雑多なものや余剰生産物が減り、もっと環境がシンプルで世の中がすっきりするのに…。もしも、行動や言動が不可解でなければ、過去の失敗や過ちを後世の人々が教訓とし、整備・統制された社会・家庭が実現し、子育てにも苦労がなくうまくいくのに…。もしも、誰もが自己中でなければ、世の中が協調性ある格差のない社会集団となり、差別や飢えに苦しむ人々が減るのに…。もしも、人間が冷静で感情的でなければ、攻撃性が薄れ、常に納得のいく話し合いができ、争いもなくなって競争原理の生き方をしなくなるのに…。もしも、バカでなければ、人類総生産の膨大なエネルギーを軍事費に充てたりせず、個人の存在や世の中とは何であるかに気づき、もっと若い頃から学ぶ意味や生き方の正しさを悟っていたのに…。
 でも、混沌でないということは、整然とした秩序社会で誰もがコンピュータのようになり、二進法の計算式で表せそうな考えや行動をとり、多くの正しさが方程式のようにセオリーでまとめられてしまうかもしれません。多様でない60億人の住む地球ということは、美しさや配色や味や音までもが統一され、いろいろなアイデアが供給されたとしても誰もが同じものを好み、商戦が成立せず、個性的な作品や飽くことのないスポーツに出会えないばかりか、発明や発見の喜びを味わうことがなくなるかもしれないのです。人々が不可解でないということは、恋のささやきにも、誕生日のプレゼントにも悩む楽しさがなくなり、芸術の価値が消失し、生きる意欲が低迷するかもしれません。

 人は自己中であるからこそ、自分だけが得をしようと多くのエネルギーを発散させながら、人間の多様さを許し、やがて、自分のためより愛する家族のためにと思う心が、より活力を生み、ついには、人々や地球のために費やすエネルギーが崇高であることに気付くのかもしれません。
 人は、感情的だからこそ、人々に個性があり、自らの感覚や感情に適う人との出会いを楽しみ、意気投合した連帯感にも価値が生じるのでしょう。そして、人生に光と陰の部分が生じ、その振幅の度合いに比例して、生きた実感を得るのだと思います。
人はバカだから、丁寧に育てられなければならないし、学ぶ大切さを知る必要があります。そして、努力の成果を期待しすぎてはいけない反面、バカな人ほど愛すべき存在であって、友とするによき人なのです。バカであるからこそ、苦悩という人生の彩りを道標のように過去に残し続けることができるのでしょう。

 美術教育とは、そのような人間讃歌のような営みであるのかもしれません。
美を求めようとする意思をもった人間は、やはり偉大です。そして、造形的な表現をいつの時代も試みようとする愛すべき存在なのです。

導入事例 Case19

小学校3年『夢の国の王様からの手紙、パレードに参加しよう!』(4時間)
 図画工作3・4年(上)題材「タイヤをつけて出発進行!」をアレンジしました。
 *箱やペットボトルに竹串とストローの車軸をつけ、キャップや段ボールなどをタイヤ(4輪)にした「乗り物」をつくる題材です。

◎主な材料:

  • 紙箱
  • ペットボトル
  • ストロー
  • 竹串
  • 段ボール
  • 木工用接着剤 など

◎導入の工夫

 前時に、「夢の国ドリームランドの王様からの手紙」を紹介し、次時に行う題材の予告を導入として行いました。手紙には、題材でねらう教師の願いが「パレードの参加条件」として盛り込まれています。どんなパレード車で参加したいか「参加プラン」を考えて、家から材料を集めてくることも指示しました。
 華やかなパレードのイメージは、子どもの知的好奇心を刺激し、発想が広がると考えました。発想が単純な車にとどまるのではなく、子どもらしい思いと感性を働かせて、造形活動に取り組む姿を期待しました。
 また、「どんな車だとみんなが喜んだり驚いたりしてくれるかな?」とか「どんな色にすると目をひくかな?」などと、より具体的に教師がかかわり、子どもたちの想像がふくらむ支援を行いました。

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(Y先生の実践から)

導入事例Case20

小学校5・6年<複式>
『表そう、そのしゅん間!』~針金を使って~(2時間)

 *高学年になると表現方法に広がりが見られます。「針金」の造形的な可能性に気づかせながら、表現の幅を更に広げるさせるための材料体験的な題材です。

◎主な材料・用具:

  • アルミ針金(細・中・太・極太<極太は、園芸品コーナーにて発見>)
  • スチール針金
  • カラー針金
  • ペンチ
  • ラジオペンチ(スタンダードタイプ、先細タイプ、先曲がりタイプ)
  • 金槌
  • 金床(金敷ともいう)

◎導入の工夫

 児童用机を向き合わせにし、友だちの発見や活動の工夫を間近で見ることができる距離関係にしました。友だちの活動の中から、自分では気づかない表現の広がりを見つけ出すことがねらいです。

  • 最初に児童を集め、準備しておいた多様な太さ・種類の針金を宝箱を開けるように見せました。ちょっと勿体ぶると、材料を詳しく観察する意欲が高まる学級の実態からこのようにしました。
  • 安全面に留意しながら、思う存分材料に触れ、特徴に気づく活動を充実させるための「材料の扱い方のルール」:

    1. 切る時・運ぶ時は、まわりの人に気をつけて
    2. 端っこは丸めて
    3. 道具は、安全な場所に置いて
    4. できるだけいろいろいじってみて
    5. どんな特徴があるのか感じたり・気づいたりしたことを伝えられるようにして活動前のルールを確認しておけば、表現への抵抗やつまずきを減らすことができます。
  • テーマは「表そう、そのしゅん間!」ですが、馴染みのない材料に触れる活動自体に意味づけした導入を行いました。
学び!と美術vol34_06 学び!と美術vol34_08 学び!と美術vol34_07
学び!と美術vol34_09 学び!と美術vol34_10

(S先生の実践から)