旧学び!と美術

旧学び!と美術

脱線授業の言い訳をすると…。
2009.11.09
旧学び!と美術 <Vol.31>
脱線授業の言い訳をすると…。
生きた空間の中で
天形 健(あまがた・けん)
「新種かな?」と思うほど強烈な色彩のアカスジカメムシでした。(郡山市)

「新種かな?」と思うほど強烈な色彩のアカスジカメムシでした。(郡山市)

 以前から、私の授業はよく脱線すると言われました。そういえば、予定した通りに授業が進まないという自覚もあります。ある授業では、計画通りの授業を心がけたつもりが、全く内容が違ってしまったというケースもありました。それらを反省しながらも、生徒や学生の興味や関心を彼らの顔色から読み取りながら、授業内容が全く異なる話題へと逸れてしまうことは、現在も日常茶飯なのです。
 ところが、大学にFD制度が導入されてから、最近は少々戸惑っています。FDとは~Faculty Development~の略なのですが、学生が授業の内容や教員を評価する制度です。実は、その評価項目の中に「授業内容はシラバス通りであったか」というのがあるのです。大学では半期15コマのシラバスを公表し、学生はその授業内容を確認しながら授業を選択履修しますから、授業内容がシラバス通りでないということは、大学側の契約違反ということになるのでしょう。
 学生が自分の研究や目的に合った授業内容だと考えて出席してみたところ、内容が全く異なっていたり、期待の内容でなかったりしたら、裏切られたことになるわけですから、その項目が設けられた意味は十分に理解できます。そのため、脱線授業を常とする私にとって、その項目が大きなハードル、授業改善課題として立ちふさがっているのです。一方では、学生の様子や理解度にかかわらず、淡々と予定通りに授業を進めることを否定する気持ちがあるため、なかなか改善が図られないというのが実情です。

生きた授業

 一昔前、デジタル機器などの導入アイテムを工夫して、効果的なプレゼンテーションを行うことが教育現場でも求められました。単に講話やノートをとらせるための板書だけでなく、視覚的に、聴覚的に教授し、内容が分かりやすく伝わるようにする教員の努力が求められたのです。
 その工夫の多くは、powerpointという便利なソフトを使って行われたのではないでしょうか。ところがそのアイテムを使いこなしていたベテランたちから、powerpointに依存しすぎるのは授業の手抜きだという声が漏れ聞こえるようになりました。充分に使いこなせているとは言えない私にも、そのことについて心当たりがありました。もし1コマ分のpowerpointができ上がってしまえば、翌年からの授業がとても楽に感じている自分に気付いていたのです。まして、すべての授業内容のデジタル化が完成したら、それは黄ばんだ大学ノートを使って、何年も同じ授業をくり返している教員以上に大変な事態が生じることに気付いたのです。
 授業にとって、指導計画やシラバスとは、あくまで予定でしかないのです。作成する段階では、受講する生徒や学生とは全く面識がありません。これまでの受講生を参考にしながら改善を重ねた授業予測にすぎないのです。ですから、チャイムからチャイムまでの間に、時間的にも内容的にも教員がイメージした計画通りに授業が完結するというのは、生徒や受講生を無視した授業になっている可能性があるのです。

 どのような教室でも、受講者の雰囲気というものは、必ず授業者に伝わります。時には、教室のドアを開けた瞬時に空気が読み取れる場合すらあります。多様な生徒や学生が集う教室内とは、生きた空間なのです。その集団にフィットしながら、授業中でさえ展開や内容を改善・精選できることが教員の技量ではないでしょうか。脱線授業とはそういうものかもしれないと感じてくれれば、私の杞憂がひとつ少なくなるのですが…。

導入事例 Case15

小学校3年『くぎうちトントン』(2時間)
*金づちの使い方を知り、木切れにたくさん釘を打った後、ひもやビーズ、モールなどの副材料を加え、好きなものを作る授業です。

学び!と美術vol31_02
学び!と美術vol31_03
学び!と美術vol31_04

T:みんな金づちって使ったことある?
C:「ある、ある。」「危ないからって、家ではやらせてもらえないよ。」「ちょっとこわいな。」
T:「今日は、みんなでくぎうちに挑戦!初めての人は、金づちの使い方を覚えよう。使ったことがある人は、もっと上手になるようにやってみようね。」
C:「はやくやってみたい!」
T:「うん、でも怪我をしたら大変だから、最初に安全なくぎうちの仕方を教えるね。先生の机のところに集まって。」
T:「最初は、左手でくぎを持ち、右手で金づちの柄の真ん中へんを持ってトントン・・・。
目はくぎの頭を見るよ。くぎがひとりで立ったら柄の端を持ってトーントーン・・・。
ゆっくりやってみようね。やり方を忘れたら、黒板に貼ってある図や、教科書の後ろの使い方の所を見てみよう。」
T:「では、くぎをうつ木を選ぼう。後ろの机の上にある中から、これにうってみたいなという木を探して持ってきてね。」(選んで持ってくる。)
T:「みんなどうしてその木を選んだの?」
C:「くぎで、ここに足をつけたら動物になりそうだから、これにしたよ。」
C:「すべすべしていて、うちやすそうだったから。」
C:「ざらざらしているところに、丸い模様がたくさんあっておもしろい。」
T:「手触りとか模様とか木という材料の特徴に気がついた人がいるね。もう木切れが何かに見えてきた人もいるね。すごい!!みんな、工夫してこの木切れを楽しいものに変えてみよう。」
T:「いろんな種類のくぎも用意したよ。たくさんうってみてね。」

(K先生の実践から)

導入事例 Case16

小学校1年『とんねる くぐって・・・』(造形遊び4時間)
*大きめの段ボールを主材料とし、くぐったり入ったり、立てたりつないだりしながら思い付いた表現に取り組み楽しむ造形遊びの題材です。

◎導入の工夫

 体育館入口のトンネルをくぐると、その先には体がすっぽり入る段ボールがたくさん用意されている。その段ボールで「~してみたい」「~できそうだ」と自ら動き出すのを温かく見守った。

T(体育館入口を前に)これは、みんなが知っている学校近くの信夫山だよ。 
C:何かあっちまで続いているみたい。あっ、下がトンネルになってる!
T:そうだよ。よく気付いたねえ。このトンネルをくぐっていくと何があるかな?
C:町とか道路。材料かなあ。早くくぐりたい。
T:早くくぐりたいよね。ようし、みんなでくぐってみよう。
(やがて、段ボールの部屋、お城、電車、洞窟、想像の世界をつくり始めた。)

(A先生の実践から)