旧学び!と美術

旧学び!と美術

作品よ、時空を超えてゆけ
2009.10.08
旧学び!と美術 <Vol.30>
作品よ、時空を超えてゆけ
未来永劫伝わるメッセージ
天形 健(あまがた・けん)
学び!と美術vol30_01

厳重な二重の囲い越しに多くの人々が注視する。その向こうにはルーブルのお宝「モナリザ」が。

 NASAが惑星探査を目的に打ち上げた人工衛星「パイオニア」について、記憶のある世代もずいぶん高齢になっています。1972年は私が学生だったこともあり、その世界的なニュースの印象は強烈でした。
 木星探査機パイオニア10号は、木星や海王星を探査するという役目を終えた後に太陽系を離れ、広大な宇宙の放浪衛星となるようにプログラムされていました。そして、いつかどこかで地球外生命と遭遇することを期待して、人類からのメッセージが託されていたのです。その確率は限りなくゼロに近いということなのですが、金属板に刻まれたメッセージのことや男女の絵柄が、長く私の意識の中に留まっていたことを思い出します。
 その2年前(1970年)、大阪万博(EXPO’70)でも、同様な試みが行われていました。コミュニケーションの相手は宇宙人ではなく、未来の地球人に宛てたタイムカプセルです。5000年後の開封という、これも気の遠くなるような企画ですが、狭い世界で生きていた当時の若者に、時空の広がりという認識を新たにさせる効果は絶大だったでしょう。
 最近映画化された『20世紀少年』(浦沢直樹原作 ビッグコミックスピリッツ連載1999~2006小学館)でも、前半で主人公ケンヂたちのもっぱらの関心事としてEXPO’70が扱われています。当時の子ども達にとって、大阪万博やパイオニア10号は、忘れられない事件でした。時空を超えて、自分が生きる世界から、異次元と思われる宇宙や遠い未来にメッセージを送るという出来事は、その後の考え方や生き方に多大な影響を与えたことでしょう。

 改めて、私たちが絵を描いたり、作品を遺したりすることに、それらを重ねて考えてみますと、表現とは、現時点での自己表現であると同時に、時空を超えた未来人へのあるいは、人類が滅びた後に地球を支配するかもしれない生命へのメッセージなのです。ルーブル美術館で「モナリザ」を見る人々は、「これがモナリザか!」と鑑賞しながら、500年前のレオナルド・ダ・ヴィンチからのメッセージを受け取っています。そのメッセージは、時間的にタイムカプセルの10分の一とはいえ、着実に私たちに伝わりました。彼の他の多くの作品からも、500年前の知恵や、宗教・科学の認識、そして生活様式、価値観などについて私たちは読み解こうとします。人工衛星の金属板やタイムカプセルよりも確実に、時空を超えて未来人である私たちにメッセージが届いています。そのメッセージは、現代人達が受け取ったあとも永く、ルーブルを訪れる人々に「モナリザ」はメッセージを発し続け、例え、本物が風化して果てようとも、デジタル画像などとして遺されて未来永劫人類の宝として注視され続けるのでしょう。
 その時間スケールをもう一度10分の一にして、私たちが指導する表現について考えてみると、子どもが遺す絵や作品のすべては、未来に向けたメッセージです。5歳の子どもの成長過程や、10歳の子どもの空間認識の広がり、そして思春期である中学生の複雑な心境が50年を経て、55歳・60歳・65歳の本人や共に生きた人々、あるいは、50年間に出会いのあった我が子や孫、また、50年遅れで同年齢を生きている未来人へのメッセージなのです。何を発想し知恵を働かせ、得られた材料をどのように活用したか、どれほど大切に思って保管・活用してきたかが、つぶさに看守できるでしょう。

 作品は、同じ教室で学ぶ級友や、そのときの指導者の評価対象として、決して完結するわけではないのです。ルーブルでモナリザに出会うように、5000年後にタイムカプセルを開けた人々のように、感動や興味を提供し続ける可能性を内包しているのが美術の作品なのです。そういうものを子どもたちが日々の授業で、夏休みの宿題で私たちの前に提示しているとしたら、作品のもつ意味は非常に大きいと思われます。

導入事例 Case14

小学校1年 『つなげて、つなげて』(2時間)
* 材料は、地元の製材業者さんにいただいた木片です。みんなで協力して、大量の木片をつなげたり、並べたりして造形活動の楽しさを味わわせたいと企画した題材です。

◎主な材料

  • 木片
  • その他手近で利用できるもの

◎導入の工夫

  • まず、木片の量に驚かせました。そして活動のエリアを可能なかぎり大きくして、級友と協力しながら楽しめるイメージをもたせる導入をしました。

T:教室に重そうな段ボールを運び入れる。
C:「先生、それ何?」
T:段ボールからあふれんばかりの木片を出して見せる。「今日は、これで、遊ぶぞー。」
C:「わぁい!遊ぼ!遊ぼ!」と歓声を上げる。「先生、この木、どこから持ってきたの?」
C:「あ、わかるよ!図工室にあったよ。この前、見たもん!」とすぐに反応。
T:「では、運ぶの手伝ってくれるかなぁ?」
C:両手に木片を抱え、図工室から教室に戻ろうとするが、途中の廊下にいくつか落ちる。
C:女子は、積み木のように家をつくったり、男子は、高く積んだり長く並べたりして、2~3人が集まり出す。
C:木片が足りなくなると、「ねぇ、運び係手伝ってぇ!」と分業制も自然発生していった。すぐに教室が狭くなって、机の上、床などに活動場所が拡大していく。
C:「先生、教室からはみ出してもいいかなぁ。」と、廊下に進出し始める。それに気づいた児童が「おもしろそう!」と手伝いを始め、どんどん廊下や階段に活動が広がっていった。

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(O先生の実践から)