旧学び!と美術

旧学び!と美術

「蝉」たちのシーズン
2009.07.31
旧学び!と美術 <Vol.28>
「蝉」たちのシーズン
天形 健(あまがた・けん)

学び!と美術vol27 東大寺二月堂の閼伽井屋(あかいや)の留蓋瓦「鵜」

「蝉」たちのシーズン

 また「蝉」たちのシーズンとなりました。一昨年(Vol.6「楽しく表すために」)も、この季節にセミを話題としました。彼らの儚さ故か気になる生命のひとつです。
 南北に長い日本では、出現する時期も種類も異なるでしょう。セミは7年も土の中で生活をし、地上に出てから、たった一週間しか生きられないと言われます。彼らの成虫姿は、死の装束であるかのような儚さです。産卵して子孫を残す使命を果たさんがためですが、他の昆虫の生態を考えると必ずしも虫たちの事情は同じではないようです。寿命が7年余りのセミにとって、成虫の姿は真の彼らではないのかもしれません。雌を呼ぶための発声器と交尾と産卵に適した構造を備えるために、私たちが成虫と呼ぶ姿に一時変身しただけなのかもしれません。むしろ、土中で過ごす幼虫の姿がセミ本来の姿と彼らは思っている可能性があります。成虫の姿をセミの姿と決めたのも、幼虫は美しくないと感じるのも、私たちが勝手にそう判断しているだけのことです。
 一方、私たち人間は、80年という平均寿命を生き、年を重ねながら経験を積み、もの知りとなっていきます。多くの人は社会貢献を果たし、充実した生命を燃やしていると感じるのかもしれません。セミに比べれば遙かなる時間を楽しみ、多くを食しながら学び、膨大な遺産を残しているのがヒトです。

子どもだからこそ生きられる「天使」の時間

 ところが、改めて生命の充実を考えると、本当に自由であり幸せな生命とは、あどけなさの中に生きる幼少期から少年期ではないかと考えるときがあります。生命の、私たち人生の主役は、成人するまでの子どもたちではないかと思うのです。モラトリアムという彼らへの評価は、大人たちが世の中の主役であり、いつか大人の仲間入りを果たすまでは、その予備軍であるかのように考えているからでしょう。
 生きることが大変だった時代に、子育てを重く感じながらも、大人がいるからこそ子どもは生きていけるという保護本能が、主役を大人とさせたのかもしれません。知恵ある大人たちは、ヒトの存在を効率性や生産性などの社会性という規準で評価します。その価値が、個々人の外に付帯する価値である場合でも、大人世界へ誘うための学習を私たちは子どもにさせています。子どもには子どもだからこそ生きられる「天使」の時間があるはずなのに、大人と同じようにできることが賞賛に値すると思っています。
 私たちが生命としての存在を実感する自我は、必ずしもそのような価値観で自己評価しないものです。もし、それが生命の価値だと思うなら、それも外付けの価値観に汚染されているにすぎないと考えることもできます。
 太古の昔から大人たちは過酷な自然と向き合い、現代では、不況と戦いながら生命を消費しています。そして、一方では常に子どもの笑顔を期待するのです。私たちの知恵や労働の恩恵を受けるのは、子どもたちであると気づかされることはありませんか。
 セミたちの季節である「夏」は、子どもたちのシーズンでもあります。

導入事例 Case10

小学校2年 造形遊び『ふわふわ むにむに ○○○』(2時間)

*柔らかい材料を用いた造形遊びの授業です。

◎主な材料
 綿,シーツ,フェルト,毛糸,スポンジ,各種梱包材

◎導入の工夫
 「さわってみたい」「体全体でかかわってみたい」という児童の思いを引き出すために,材料を雲に,ブルーシートを青空に見立てた場をつくった。その教室を半分隠して導入し,題材への期待感を高めさせる工夫をした。

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T:もしもここに雲があったら、どんなことしてみたい。
C:寝てみたい。
C:乗ってみたい。
C:ぎゅーってしてみたい。
T:どれも楽しそうだね。実は今日は,図工室に雲を連れてきたんだよ。

 子どもたちの期待感が高まったころ,教室の半分を隠していたブルーシートを降ろすと,歓声をあげながら材料へ向かった。寝転ぶ,くるまる,踏む,抱きしめる,つなぐ,結ぶ,張り巡らせる,包む,飾るなどの,様々な姿を表出していた。

(O先生の実践から)


導入事例 Case11

中学校1年『表情がかたちになる -紙によるお面づくり-』(2時間)

*紙の特性や基本的な折り方を理解し、人間の感情を表したお面を作る学習です。

◎主な材料
・ スケッチブック ・色画用紙 ・トレーシングペーパ
・カッター    ・木工用ボンド  ・ピンセット

◎導入の工夫
 基本的な山折り・谷折りから段階的に複雑な折り方を体験させ、複雑な形も基本の折り方の繰り返しであることに気づくようにした。顔の半分だけをトレースし、左右対称に型紙を作ると美しく仕上がる。

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T:これは紙を折っただけでできたものだよ。
S:すごく立体的だ!
T:山折りと谷折りが交互になると盛り上がった面になる。
S:面がなだらかだね。
T:折り目が曲線だと、緩やかなカーブの面になるよ。
T:喜びや怒りの表情には、どんな特徴がある。
S:喜びの顔は、口の両端が上向きだね。
S:怒っている人の目がつり上がっているよ。
S:哀しい顔は、まゆげも口も垂れ下がっているね。
T:目や口に人間の感情がとてもよく表れるね。

(H先生の実践から)