旧学び!と美術
旧学び!と美術

やってみせ 言って聞かせて させてみて ほめてやらねば 人は動かじ
8月になると、あっという間に夏休みが終わってしまうと感じた、子どもの頃を思い出します。研修や免許の更新、部活動で多忙を極めた教師のみなさんも新学期に向けて気合いを入れ直している頃でしょう。新聞の4コマ漫画やTVアニメなどでは、夏休みの宿題に追われる子どもたちが一時の主役です。夏休み中の天気をすべて教えてくれるサービスもあると聞いたことがあります。
夏休みの宿題のイメージは、昆虫採集と作文、そして絵という風景は今も変わっていないのでしょうか。珍しい夏休みの宿題特集をしてみるとおもしろいかもしれません。子どもたちにとって夏休みの宿題は楽しみなのか、それとも苦痛なのでしょうか。たとえ苦痛であっても、これまでの学習不足を補うためと、意志強く練習問題に取り組んだ子どももいるでしょう。「自由研究」として宿題を課す教師のみなさんは、自主的な研究心と楽しさを期待していると思われます。
何れにせよ、夏休みのような貴重な時間に包まれる夢のような少年・青年期はすぐに覚めてしまいます。時間とエネルギーを自らの学びのために費やせる幸せを、子どもたちに話してあげて欲しいと思います。果たして、絵の宿題を楽しみと感じて取り組んだ子どもはどれほどいたのでしょう。
図画工作・美術科は楽しいと感じる宿題をもっとも工夫しやすい教科なのかもしれません。
絵の宿題に取り組む情況は、それぞれの家庭ではどのような様子なのでしょう。教師のみなさんも、この時期ばかりは、母として父として我が子と向き合い、忙しい両親が日頃の信頼回復をねらうチャンスであったかもしれません。一方で、教師である自分と、親である自分とについて考えさせられたかもしれません。
職場での良い教師は、必ずしも良い家庭人とは限らない情況は、私も多々見たり感じたりしてきましたが、良い家庭人は、職場でも良い教師であったような気がします。また、そうあってほしいと願います。
この夏休みの宿題にまつわる問題で、私自身もこれまで解決できずに気になっていることがあります。
それは、夏休みの宿題を「親が手伝っていいか」という問題です。やる気のない我が子を見て、ついつい手を出してしまい、気がついたら「親の作品」と子どもの依存心だけが残ったという場合も多いのではないでしょうか。これは、授業のときの教師が児童生徒の作品に手を入れたり加筆したりすることと共通する問題でもあります。
「やってみせ・・」
本人以外の手が入ることを強く嫌う傾向には、自由画の思想があるようです。戦後の主流である「絵をかく意味」は自己表現です。絵には、その子らしさ、成長の様子が形として現れ、本人が現状の自分と向き合いながら成長するという期待があります。そして、見守る保護者や教師が、彼らの自己表現を通して、学ぶ子どもを支援する手段にするという教育的意味があります。確かに、大きい画用紙と格闘しながら、その子ならではの感動や思い出を表現した絵には、大人の意図的な絵などは蹴散らされてしまいそうなすばらしい作品があります。それは作者の健全な成長を示すものであったりします。
すべての子どもたちがそうあって欲しいと願いながらも、決してそうではない多くの子どもたちにも注目する必要があります。
「自由画」や「自由研究」を課されて不自由に感じている子どもたちを私はたくさん知っています。かいたりつくったりすることが好きな子どもたちでさえ、必ずと言っていいほど「何をかけばいいのか分からない」経験をします。そんなとき、そっと、子どもの背中を押してやるように加筆をしたり、手伝ってやったりする優れた教師や保護者が必要だと私は思います。
名言を借りれば、
「やってみせ 言って聞かせて させてみて ほめてやらねば 人は動かじ・・・」(山本五十六1884~1943)
絵をかき続けようとしない子どもがいます。自発的・自立的に学習に向かう子どもたちにも、自らの力では解決できない課題に直面するときがあります。絵に表すヒントや文章表現なども習作の中で「真似ぶ」ことをさせながら、学習意欲を高めてやる必要があると考えています。
子どもたちの成長とは、まず、やってみせ、言って聞かせながら遂げられたことなのですから。
導入事例 Case12
小学校3年『タイヤをつけて出発進行!』(4時間)
日本文教出版教科書3・4年(上)
* 箱やペットボトルの下に、竹串とストローの車軸を貼り付け、ペットボトルキャップをタイヤ(4輪)にした「乗り物」をつくる題材です。
◎主な材料
・紙箱 ・ペットボトルとキャップ ・ストロー
・竹串 ・ダンボール ・木工用接着剤
◎導入の工夫
教室に、木などをまくらにして緩やかな傾斜をつけた長机(脚は立てない)をセットし、参考作品をすべらせて見せる。途中の実験や完成作品のお披露目にも使います。
T:(参考作品を長机の上に停めておき)手を離すとどうなるかな?
C:走り出すよ。きっと。早くやってみて。(手を離すと)すごい。すごい。
T:みんなが自分で持ってきた箱やペットボトルでもできそう?
C:うん,できそう。(すぐにでもつくりたそうにしているが…)
T:もう一台用意してあるんだ。このタイヤはどうかな?
C:大きい。前と後ろのタイヤの大きさが違う。
T:どうやってつくったタイヤだろう。(全体にタイヤの部分を見せる)
C:どこかで見たことあるような気がするけど…。ダンボール?
T:そうだね。こんな風にしてタイヤにしたんだよ。(もう一度走らせて)耳をすませてごらん。
C:カタカタなってる。
T:スピードはペットボトルキャップのタイヤほどじゃないけど,音がするね。
T:段ボールタイヤのいいところはどんなことだろう。
C:好きな大きさにできるよ。幅の広い帯があれば太いタイヤになるかも。
(グルーガンで補強できるようにしておくと,ずっと使用に耐えるものになる。)
![]() (1)猫の顔を車体の前側に細長く表現 |
![]() (2)右手は、黒い発泡トレイのレーシングカー |
![]() (3)車体の紙は「風受け」,後方からうちわで扇ぐ |
![]() (4)タイヤの色が走るとカラフルに変わる |
(I先生の実践から)
導入事例 Case13
中学校2年 『スクラッチボード』
*白黒による線描表現で動物などをリアルに描いて、美しい明暗のトーンを楽しむ題材です。
◎主な材料
・ スクラッチボード(B4) ・ニードルなど
◎導入の工夫
作品例、明暗の基本的表現、画面へのかたちの入れ方を黒板に図示しておく。
条件は以下の3点。
(1)明るい部分、暗い部分が適度に含まれており、色みの無い表現に変えても美しいもの。
(2)なめらかに明から暗までつながる面があること。
(3)形を大きく画面に取り込み、面処理を見せやすいこと。
T:(参考作品を見せながら)最初に見る力、とても大事です。「何でひっかいたのかな~」細かい線をたくさんひいてるな~大変なのかな~」とか、「リアルに表せるんだな~」とか、よく見ると、たくさんの事が分かります。これが人間のすごいところです。
C:おお~。
T:どの作品ももともとは黒のボードです。厚めのブラスチックに黒のコーティングがしてあります。
それをニードルを使ってひっかき、傷を付けていきます。線は細い方が美しく仕上がります。下絵用紙いっぱいに下がきしてください。
C:はーい。
T:線の使い方により滑らかな面、硬質な面など質の高い画面が得られるのがこの素材の特性です。
![]() |
![]() |
![]() |
(T先生の実践から)