小学校 道徳

小学校 道徳

心を揺さぶる教材との出会い ~教材「いのりの手」の実践を通して~(第4学年)
2017.11.28
小学校 道徳 <No.019>
心を揺さぶる教材との出会い ~教材「いのりの手」の実践を通して~(第4学年)
東京都昭島市立武蔵野小学校教諭 市倉尚

1.教材との出会いを大切に

 児童が道徳の時間を楽しみ、友達と語り合い、よりよい学びにつなげるためには、心を揺さぶる教材との出会いは不可欠です。児童と教材との出会いを大切にした工夫を報告します。

①教材提示はドラマチックに!
 導入では児童の作品へのイメージを膨らませるために、「祈る手」の絵とハンマーを用意しました。「祈る手」の絵は、額縁に入れ、イーゼルに飾り、布をかぶせておきました。授業前から児童の関心を引きつけておくためです。また、ハンマーは事前に児童に握らせ、重さを実感させました。その上で、教材提示の途中に指導者が振り上げる動作を行えば、ハンスの苦労を想像する助けになると考えました。
 教材提示は、プレゼンテーションソフトとプロジェクターを使って、スクリーンに場面絵を映します。そして、語り口調は穏やかに、児童の目を見ながら、ゆっくり教材を読み聞かせます。時には、指導者が作品の動作化をしながら教材を語ります。物語のクライマックスには、BGMを使い、雰囲気を盛り上げました。

②図工の先生にも協力を!!
 教材に出てくる「祈る手」を含めた作品やアルブレヒト・デューラーの説明を図工専科の先生にしてもらいました。専科の先生が作品や人物の紹介を行うことで、児童にデューラーが世界的に有名な画家であることを深く伝えることができると考えたからです。そうすることで、教材への関心や理解が深まり、児童が教材の世界に浸りやすくなると考えました。

2.実践報告

(1)主題名 「大切な友達」  B[信頼、友情]

(2)教材名 「いのりの手」(日本文教出版)

(3)ねらい 友達と互いに理解し、信頼し、助け合う心を育てる。
 ハンスの友情に応えようとするデューラーの気持ちを、自分との関わりで考えることで、友達のかけがえのなさに気付き、その存在を大切にしていこうとする道徳的心情を育てる。

(4)学習指導過程

学習活動
○主な発問 ・予想される児童の反応

◇指導上の留意点 ☆評価


1 教材への導入を図る。
○この絵の手は、どんな人の手だろう。
・祈っている手
・何かをつかもうとしている手
・何かをお願いしている手
・外国人の手

◇「祈る手」の絵画を提示する。
◇図工専科の先生に、「祈る手」「アルブレヒト・デューラー」「代表作」についての専門的な説明を受けることで、教材への関心を高める。


2 教材「いのりの手」を読み、話し合う。
○「自分でよいと思うまで、しっかり勉強したまえ。」という励ましの手紙とお金をもらった時、デューラーはどんなことを考えたのでしょう。
・いつもぼくのためにありがとう。(日頃の感謝)
・なんでぼくのためにこんなにしてくれるのだろう。(疑問)
・ハンス、なんていい人なんだ。(ハンスへの賞讃)
・ハンスの手紙に勇気をもらった。もっと頑張ろう。(鼓舞する気持ち)
・ハンスは本当は勉強したいだろうな。申し訳ない。
・なかなか代われない。ごめん。(謝罪)
・だいじょうぶかな。(心配)

◇教材提示前に登場人物を簡単に紹介し、デューラーの気持ちになって話を聞くように伝える。
◇教材提示は、ICT機器を使って指導者の語りによって行う。
◇初発問は、児童による相互指名で行う。
◇勉強し始めてから、長い年月がたったという事実を押さえた上で発問を行う。
◇ハンスへの感謝の気持ちがあることを確認する。また、この時のデューラーのもっと勉強していたいという気持ちも同時に気付かせる。

○ハンスの手をにぎりしめたまま、おいおいと泣きだしたデューラーはどんな気持ちだったのでしょう。
・こんな手になってしまったのか。ぼくのせいだ。(事実を知ったことへの驚き)
・ぼくは、もっと早く帰ってくるべきだった。君の夢をうばってしまった。何てことをしてしまったのだ。(後悔・反省)
・許してくれ、ハンス。(謝罪)
・こんな手になるまで、ぼくのために働いてくれていたのか。この手のおかげで、ぼくの成功があったのか。ありがとう。(感謝)

◇第2発問に入る前に、「ごつごつした手」ではどうして絵筆がもてないのか想像させる。
◇ハンスがデューラーのために夢をあきらめた事実を押さえる。
◇第2発問は教師が意図的に指名する。
◇デューラーの罪悪感による自分の行いへの後悔の念や、謝罪の気持ちがあったことを想像させる。

◎デューラーはどんな気持ちを込めて、ハンスの手を描いたのでしょう。
・ぼくを助けてくれたこの手を忘れないように絵を描こう。(友情)
・この手のおかげで、ぼくの成功があった。(感謝)
・こんな手になってしまったのか。ぼくのせいだ。ごめんなさい。(謝罪)
・ぼくは、もっと早く帰ってくるべきだった。(反省)
・君の夢を奪ってしまった。(後悔)
・絵が描けなくなったハンスの代わりに絵を描いていこう。(決意)

◇謝罪の考えに対して、「ハンスは怒っているのか。」と問い返すことで、心が満たされているハンスの気持ちを想像させる。
◇児童の発言に、「デューラーがハンスの手をなぜ題材としたのか。」と補助発問することで、デューラーのハンスへの思いをより考えさせることができる。
☆ハンスの友情に対し、少しでも自分ができることを誠意を込めて行おうとするデューラーの気持ちを自分との関わりで考えることができたか。(発言)


3 自分の友達について振り返る。
○友達の事を思い出してください。「友達っていいな。」って思ったことは、どんなことでしたか。
・わたしは、その子の笑顔が好きです。わたしが困っている時や悲しんでいる時に、その笑顔で励ましてくれるからです。これから友達が困っている時は、わたしも笑顔で元気にさせたいです。
・音楽クラブで友達になった子は、楽器が壊れたら直してくれたり、楽器洗いの時はどこに何を塗ったらいいのか教えてくれたりして、嬉しかったです。ずっと友達でいたいです。そして、その友達に教えてもらったことを、これから入ってくる3年生に教えてあげられたらいいと思います。

◇道徳ノートを活用し、学習の積み重ねを大切にする。
◇相手の何かしらの行為や気持ちに対して、何か返してあげたいという振り返りをしている児童を指名し、発表させる。
☆友達の事を振り返り、その大切さについて考えることができたか。(道徳ノート)


4 教師の説話を聞く。

(5)本時の評価
○ハンスの友情に応えようとするデューラーの気持ちを考えることができたか。(中心発問)
○友達のかけがえのなさに気付き、その存在を大切にしていこうとする心情をもつことができたか。(道徳ノート等)

(6)板書

(7)授業記録 ※抜粋

【導入】

T (白い布を取りながら)みなさん、この絵を見てどう思いますか。
数名の児童 「拍手」「高級そう」「うまい」「有名人の手」「手が大きい」「いただきます」「おそうしきの手」
T 実はこの学校にはこの絵に詳しい先生がいます。図工の先生にこの絵の説明していただきます。
~図工専科による説明~
T 今日は、この「いのる手」を書いたデューラーにまつわるお話です。デューラーとハンスという友達が出てきます。デューラーの気持ちをよく考えながら、お話を聞きましょう。

【教材提示】(部屋を暗くし、提示する。)

【展開前段】

T (ストーリーの振り返りをして、場面絵を示しながら)
お金と一緒に手紙をもらったデューラーはどんな気持ちだったのだったのでしょう。
児童の
主な反応
早く終わらせて、ハンスにかわらなきゃ。ハンスありがとう。ハンスは何て優しいんだ。自分は絵、ハンスはつらい仕事、なのにこんな手紙を。ありがたい。ハンスは大丈夫かな。ハンスが先に勉強すればよかったのに。勉強しなきゃ。ハンスが頑張ってくれているから、自分も頑張ろう。
T やっと終わってハンスと出会ったデューラー。抱きしめあったのかもしれないね。しかしその時、デューラーはおいおいと泣きだした。どうしてだっけ。
児童 ごつごつとしていたから。
T うん。どんな手なんだろう……。マメがいっぱいできているのかな。こわばって、うまく開かなかったり、伸ばせなかったりしたのかな。絵筆が握れないってどういうこと。
児童 上手く動かない。しっかり筆がもてない。
T
うん。その手をにぎったデューラーは、どんな気持ちだったのだろう。
児童の
主な反応
ハンスを先に勉強させておけば、こんなことにはならなかった。早く絵を終わらせればよかった。
ごめんね、ハンス。なんで早く帰らなかったのか。こんなになるまで、自分は待たせてしまったのか。
T ハンスの手は急にこんな手になったのかな。ハンスの夢はもともと何だったのかな。
児童 絵かき。
T 「ハンス、君の手をぼくにかかせてくれ。」というデューラーは言った。「心をこめて」描いたんだよね。
どんな心をこめて描いたのかな。
(心をこめて と板書する。)
児童の
主な反応
ハンスの筆の持てない手の代わりに。がんばって働いてくれた、ありがとう。
自分が有名になるまでがんばり続けてくれて、ありがたい。ハンスの手を忘れたくない。
自分のために頑張ってくれた手を残したい。
T ふつうは顔を描くんじゃないかな。なんで手を描いたのかな。
児童 今までこんなになるまで頑張ってくれた。自分を助けてくれた手だから。
T ハンスは仕事のために頑張っていたのかな。
児童 デューラー!!
T ハンスはデューラーにとってどんな存在だったのかな。
児童 大切。
T みなさんにも、大切な友達はいますか。その子の事をすこし考えてみて下さい。どんな所が好きですか。その子とどんな風にこれから付き合っていきたいですか。ワークシートに書きましょう。
C1 わたしは友達の笑顔が好きです。わたしが困っている時や悲しんでいる時にその笑顔ではげましてくれるからです。これから友達が困っている時は、わたしも笑顔で元気にさせたいです。
C2 音楽クラブで友達になった子は、楽器がこわれたら直してくれたり、楽器洗いの時はどこに何を塗ったらいいか教えてくれたりして、うれしかったです。ずっと友達でいたいです。そして、その友達に教えてもらったことを、後から入ってくる3年生に教えてあげられたらいいと思います。
C3 いつも笑顔でニコニコして優しいところ。放課後や中休み、昼休みに一緒に遊んで今よりももっと仲よくなりたいです。中学校に行っても仲良くしたいです。

3.考察

 教材提示に際して、事前に何度も資料を読み、暗唱できるほどになりました。そのため、児童の顔をじっくり見ながら余裕をもって教材提示を行うことができました。どの子の顔も真剣に画面を見つめていました。多くの児童が、授業中の発言に意欲的になりました。
 4年生の終了時に、「道徳の時間で心に残った教材は?」と聞くと、多くの児童から、「いのりの手」という声があがりました。