小学校 道徳

小学校 道徳

多面的・多角的に考える授業「よわむし太郎」(第4学年)
2017.11.30
小学校 道徳 <No.020>
多面的・多角的に考える授業「よわむし太郎」(第4学年)
東京都中野区立塔山小学校 指導教諭 幸阪芽吹

1.はじめに

 平成30年度から完全実施となる「特別の教科 道徳」に向けて、授業方法や評価についてさまざまな取り組みが行われている。私は週1回の道徳の授業を子どもたちと共に考え、つくり上げていくことを大切にしたい。そして年間35時間の授業を確実に行っていきたい。

2.実践紹介

(1)主題名 「自分が正しいと思うこと」  A[善悪の判断、自律、自由と責任]

(2)教材名 「よわむし太郎」(出典:日本文教出版「新・生きる力」)

(3)主題設定の理由

A ねらいとする道徳的価値
 私たちの周りには生き方についてさまざまな選択肢があり、常に自分の判断のもとに問題解決を図りながら行為を選択して生きている。そして、その判断基準は、今までの人生経験や置かれている環境、周囲の人とのかかわりなどによって培われたものである。
 今、私たちが置かれている社会で主体的に生きていく上では、よいこと悪いこととの区別が的確にできるようにすることは重要である。また、自分が正しいと思うことを自らの力で判断し行動に移すことは、人としてもとても大切なことである。
 しかし、そのような中でも、人は周りの状況やその時の自分の思いによって正しいと思うことを行動に移すことができなかったり、見失ったりすることもある。そのようなときほど、人に左右されることなく、自らの判断を信じ、それを行動に移す強い意思が必要である。
 本授業では、中学年という発達段階において、自分が正しいと思うことを行動に移すことの大切さや、自らを信じることのよさについて考えさせたい。そして、どのような状況におかれてもその思いを貫き通す強さにも気付かせたい。

B 児童の実態
 学校や学級という多くのかかわり中で、児童は「正しいこと」「正しくないこと」について、日々実感している。そして、“正しい行動をすることで、自分もみんなも気持ちよく生活することができる” “正しくないことをすると、自分だけでなくみんなが困り、悲しい気持ちになる”ということも、生活経験から学んでいる児童も多い。
 また、事前に、「自分が正しいと思ったことは、自信をもって行うことができるか」というアンケートを実施した。「できる」と答えた児童が19人/27人中、「できない」と答えた児童は8人/27だった(※座席表指導案参照)。正しいことをしようとする気持ちが全体的に強いと考える。しかし、実際の生活では、「できない」と答えた児童と同じように行動に移すことの難しさも感じているはずである。周りに流されてしまったり、自分の弱さに負けてしまったり、また、そのときの状況や相手によって気持ちや行動が変わってしまったりすることもある。
 本授業では、自分自身を見つめながら、自分が正しいと思うことを行動に移すことの大切さを改めて感じとらせたい。そして、自らの力を信じることや心の強さにも気付かせ、自信をもって行おうとする気持ちを育みたい。

C 教材について
 ある村に「よわむし太郎」とよばれる男がいた。ある日、この国の殿様が村へやってきた。狩好きな殿様は、子どもたちとよわむし太郎が大切に世話をしていた白い鳥を討とうとする。その時、太郎は殿様の前へ立ちはだかった。そして、大きな涙をこぼしながら鳥を助けるよう頼み、最後まで鳥を守った。
 子どもたちのため、自分のために、自らが正しいと思ったことを行動に移し、最後までその思いを貫き通した太郎。その姿から、相手がどのような立場の人であっても、自分を信じ、正しいと思うことを行動に移す気持ちの強さ、そしてその大切さを感じることができる。
 本授業では、太郎の気持ちを考えることを通して、どのような状況においても、自分が正しいと思うことを自らの力を信じて行っていこうとする気持ちを育みたい。

(4)授業の工夫

○児童の主体的な学びに近づけるために

「第3 指導計画の作成と内容の取扱い」の2-(3)

(3)児童が自らの道徳性を養う中で、自らを振り返って成長を実感したり、これからの課題や目標を見付けたりすることができるよう工夫すること。その際、道徳性を養うことの意義について、児童自らが考え、理解し、主体的に学習に取り組むことができるようにすること。

(小学校学習指導要領 第3章 特別の教科 道徳より)※下線筆者

≪主体的に取り組むために大切なこと≫
学習の始めに児童自らが学びたいという課題意識や課題追及への意欲を高め、学習の見通しなどをもたせること。
一定の道徳的価値に関わる物事を多面的・多角的に捉えることができるようにすること。
理解した道徳的価値から自分の生活を振り返り、自らの成長を実感したり、これからの課題や目標を見つけたりすること。
そのために、一人一人が意欲的で主体的に取り組むことができる表現活動や話合い活動を仕組んだり、学んだ道徳的価値に照らして、自らの生活や考えを見つめるための具体的な振り返り活動を工夫したりすることが必要である。

(小学校学習指導要領解説 特別の教科 道徳編より)

 授業では、主体的に学習に取り組むことができるよう、以下の手立てを考えた。
◆児童の課題意識や課題追及への意欲を高めるために、「考えてみたい」「気になる」「他の友達はどのように思うのだろう」という気持ちを大切にしたい。そのために、児童自らが感じる「問い」と教師が本時のねらいとする道徳的価値とを関係づけながら、教師が本時の課題を設定する。
◆物事を多面的・多角的に捉えることができるよう、話合い活動の時間を確保する。
 話し合うことは、自分自身の考えをより明確にしたり、相手の考えを深めたりすることができる。その話合いを深まりのあるものにするために、本学級では「つなぎ言葉」を活用している。

【児童の発言例】
「私は、~だと思います」「○○さんの考えに付け足しです」「○○さんの考えと違って」「○○さんが言いたかったことは~だと思います」「○○さんと似ていて」 他

 教師も児童の発問をさらに深めるために、切り返しの発問も意識している。

【教師の発問例】
「もう少しくわしく教えて」「どうしてそのように思ったの」「この考えについて、みなさんはどう思いますか」「自分の思いと似ているなと思うところはありますか」「これらの思いで共通しているものは」 他

◆児童自らの生活を振り返ることができるよう、「心のノート」を活用する。
 「心のノート」は、主に道徳の授業で自分の生活や考えを振り返るときに活用している。児童の思いや考えを書き残すことができるとともに、いつでも今までの自分を振り返ることができる。継続的に取り組むことで、児童の成長も感じることができる。

(5)評価

「道徳的諸価値についての理解を基に、自己を見つめ、物事を(広い視野から)多面的・多角的に考え、自己(人間として)の生き方についての考えを深める」という学習活動における児童生徒の具体的な取組状況を、一定のまとまりの中で、児童生徒が学習の見通しを立てたり学習したことを振り返ったりする活動を適切に設定しつつ、学習活動全体を通して見取ること。

(小学校学習指導要領解説 特別の教科 道徳編より)

≪大切なこと≫
◇他者との考え方や議論に触れ、自律的に思考する中で、一面的な見方から児童がより多面的・多角的な見方へと発展しているか。
◇多面的・多角的な思考の中で、道徳的諸価値の理解と自分自身との関わりの中で深めているか。

(小学校学習指導要領解説 特別の教科 道徳編より)

 本時では、道徳的価値の理解と自分自身との関わりの中では、「心のノート」を活用し、今までの自分やこれからの自分を見つめさせる。また、児童の「自己評価」を取り入れる。本時の授業への取り組みや、自分の考えを伝えることができたか、また、友達の考えから自己の見方が広がったかなどを評価する。
◆評価の方法として
・発言(話し合い)・心のノート・自己評価を活用して児童の考えについて評価する。
 「自己評価」については、5つの項目の中から、特に今日の授業でがんばったことや学んだことを2つ選ばせる。

□ 自分の考えをもち、進んで伝えることができた。
□ 友達の考えを聞いて、「そういう考えがあるんだ」「なるほどな」など、考えることができた。
□ 友達の考えを聞いて、新たな考えをもつことができた。(自分の考えが広がった)
□ 登場人物の気持ちを考えることができた。
□ 今日、学習したことについて「自分はどうかな」「自分も、似たようなことがあったかな」と、自分を振り返ることができた。

 これらを継続的に行い「個々の内容項目ごとではなく、大くくりなまとまりを踏まえた評価」「成長を励ます個人内評価」につなげていきたい。


「よわむし太郎」 教材分析表

A 場面の概要・keyword

B よわむし太郎の内面

C 発問

①1行目~3行目
<太郎の様子>
背はとても高く、力も人一倍あるのに、子どもたちからどんなにばかにされても笑っている。

②3行目~13行目
子どもたちがどんないたずらをしても、太郎はにこにこと笑っている。

・やっぱり子どもはかわいい。
・子どものことだから、いろんなことをやるもんだ。
・次はどんなことをしてくるのだろう。

③14行目~21行目
白い大きな鳥を、子どもたちと太郎は大切にしている。

・子どものためにも、この鳥を大切にしよう。
・どんどん餌をたべて、大きくなってほしい。

基本発問
子どもたちの大切な鳥を、太郎はどのような思いで世話をしていましたか。

④22行目~29行目
狩り好きのとの様が現われる。

【との様の内面】
・なぜ、なにも捕まえられないのか。

⑤30行目~38行目
との様が白い大きな鳥に向かって弓をかまえたとき、太郎は「うってはだめだ」と立ちはだかった。

・何をするんだ。・やめてくれ。
・どんなんことがあっても、うってはいけない。
・お願だ。わかってくれ。
・この鳥は、子どもたちにとっても自分にとっても大切な鳥なんだ。

⑥39行目~42行目
との様は大声をあげたが、太郎は動かなかった。

・なんとしてでも、この鳥を守るんだ。
・との様に何を言われても、この場を動くものか。
・何を言われても構わない。

⑦43行目~45行目
「助けてやってください」と、太郎は大きな涙をこぼしとの様にたのんだ。

・子どもたちが世話をしている鳥を、どうかうたないでくれ。
・子どもたちの思いをわかってくれ。大切な鳥なんだ。
・うたせてたまるか。
・なんとしてでも、守り抜こう。
・もしかしたら、この場で鳥がうたれてしまうかもしれない……そんなことがあってなるものか。
・自分もうたれてしまうかもしれないがそれでもいい。

中心発問
「どうか助けてやってください」と目から大きな涙をこぼしてとの様の前に立っていたとき、太郎はどのような思いだったでしょう。

⑧46行目~47行目
との様は、しばらくすると弓を下にむけた。

・最後まで、あきらめないぞ。
・との様にこの思いが伝わったのだろうか。

⑨48行目~50行目
との様が、城に向かって帰っていった。

・鳥を守ることができて、本当によかった。
・これで、安心だ。

⑩51行目~54行目
子どもたちが、太郎の周りに走りよってきた。

・鳥を守ることができて、よかった。
・子どもたちのうれしそうで、よかった。
・自分もうれしいよ。
【子どもたち】
・太郎はすごい。強い人だな。
・鳥を守ってくれてありがとう。
・もう「よわむし太郎」なんて言わない。今までごめんね。

基本発問
太郎の姿を見ていた子どもたちは、どのようなことを思ったでしょう。

⑪55行目~56行目
それから後は、「よわむし太郎」という名前は、この村から消えた。

(6)学習指導過程

A 本時のねらい
 自分が正しいと思ったことは、自信をもって行おうとする道徳的心情を育てる。

B 本時の展開

学習活動

・指導上の留意点 ◇評価


1 「自分が正しいと思うこと」について話し合う。
○自分が正しいと思うことを相手に伝えたり、行動に移したりできますか。
・いけないなと思うこといけないと伝えることができる。
・気持ちはあるけど、簡単にはできない。

・日常の生活で、正しいことだと分かっていてもなかなか行動に移せなかったり、勇気をもって伝えることができたりしたことを想起させる。


2 教材「よわむし太郎」を読んで、話し合う。

①子どもたちの大切な鳥を、太郎はどのような思いで世話をしていましたか。
・児童のためにも、この鳥を大切にしよう。
・どんどん餌をたべて、大きくなってほしい。

・「子どもたちのために」と、子どもたちを大切に思う太郎の気持ちを押さえる。

②「どうか助けてやってください」と目から大きな涙をこぼしてとの様の前に立っていたとき、太郎はどのような思いだったでしょう。
・子どもたちが世話をしている鳥を、どうかうたないでくれ。
・子どもたちの思いをわかってくれ。大切な鳥なんだ。
・うたせてたまるか。
・なんとしてでも、守り抜こう。
・もしかしたら、この場で鳥がうたれてしまうかもしれない……そんなことがあってなるものか。
・自分もうたれてしまうかもしれないがそれでもいい。

・相手が殿様であっても、自分が正しいと判断して行動に移した太郎の思いを考えさせる。
・さらに「太郎の中で迷いはなかったのか」「簡単にできることではないのでは」と問い、自分を信じる気持ちや正しいと思ったことは行動に移そうとする思いの強さについて考えさせる。
◇殿様にたのむ太郎の気持ちを考えることができたか。
(発言・話し合いより)

③太郎の姿を見ていた子どもたちは、どのようなことを思ったでしょう。
・太郎はすごい。強い人だな。
・鳥を守ってくれてありがとう。
・もう「よわむし太郎」なんて言わない。今までごめんね。

・今まで「よわむし」と言っていた子どもたちが、太郎の行動から感じたことや学んだことを考えさせる。

3 今までの自分を見つめる。
○自分が正しいと思うことを、行動に移したことはありますか。そのとき、どのような思いでしたか。

・「心のノート」を活用する。
◇自分が正しいと思い行動に移すことについて今までの自分を見つめ直すことができたか。(ノートより)


4 教師の説話を聞く。

・担任の中学生のときに、自分が正しいと思って行動に移したときの話をする。

3.授業記録

【導入(学習問題作り)】

T 自分が正しいと思うことを相手に伝えたり、行動に移したりできますか。
C 自分で考えはあっても、なかなか言えないなあ。
C 言えるときと言えないときがある。
→「言えるときと言えないときがある」という児童の発言から、相手が「友達だったとき」「自分より年が上だったとき」と条件を設定し、その場合の気持ちを問いかけた。また、伝えようとする気持ちを共有するために、視覚的にもわかる「心情円グラフ」を全体で活用した。

T

友達が何かいけないことをしていたときに、自分だったら教えるよという気持ちはありますか。
C 3分の2くらい。
C 4分の3くらい……。
C 友達だったらできるかも。

T

では、相手が自分より年上、大人だったらどう?
C もっと青(できない)が多い。
C やっぱり心の中ではだめだよって思っているけど、それをさすがに言えない。
たとえば、ベンチを独り占めしている人に心の中では言えるけど、実際は言えない。
C いやできる!
T 人によると思うけど……今友達だったらこれくらいできるって言っていたけど(円グラフ確認)、知らない人や大人だったら(円グラフ確認)これくらいかな。
C 青の方が多いね。
→円グラフを活用して全体で確認をし、友達だったら言えるが、大人だったらなかなか言えないことを確かめた。そして、本時の授業への問題意識をもたせるために、次の発問をした。

T

「正しいことを伝える」ということは、大切なことではないですか?
→円グラフで、「正しいことは相手によってそう簡単に言うことはできない」という児童の思いと、「正しいことを伝える大切さ」という道徳的価値への意識で児童は迷い始めた。
C 年上の人たちに言えば直ると思うけど、言おうとしても言い返されちゃうかもしれない。
C 大人っていう考えだとちょっと違うのですけど、知らない人だとちょっと違う気がする。
T 何が違うの?
C できるっていうところが違う。知らない人にはなかなか言えない。
C 友達とか家族、知っている人なら気軽に話せるけど、知らない人や初めての人はそんなに話せないから、いくら正しくても言えない。
→児童の「伝えることは大切だとわかっているが、なかなか言えないときもある」という思いに共感しながら、本時の課題を提示した。
課題「自分が正しいと思うことを伝えるためには、何が大切なのか。」
教材範読後、児童の思いを問いかけた。

T

どんなことを感じたり考えたりしましたか。
C 相手が殿様なのに、太郎はすごい勇気がある。
C 殿様なのに、しかも「お前もいっしょに射ってしまうぞ」と言われている中で、動かずに立ち向かえる太郎がすごい。
C 子どもたちにいたずらされていて普通に強い人だったら言い返すのに、太郎は笑って相手をしていたから本当に強い人、すごい人なんだなって。
C どうしてよわむし太郎は子どもにいたずらされていたのにニコニコしていたんだろう。
C なんで殿様の前でも立ちはだかることができたのかな。
→児童から教材に対しての気になること「殿様に言われても立ちはだかった太郎」「子どもたちからいたずらされても怒ることをせず、ニコニコしていた太郎」それはどのような思いからか、なぜそのようなことができたのかという思いがあった。
これらは、教師が本時の授業でねらうところでもあり、中心発問として「殿様に言われてまで立ちはだかった太郎の思いとは」について十分に触れることにした。

【展開】

T 太郎は、子どもから言われてもニコニコしていたよね。いやじゃなかったのかな。
C 太郎は子どものことが好きだから。子どもに言われても我慢ができた。強い人ほどやさしい。
C 子どものことだから仕方がないと思ってまったく怒らなかった。よわむし太郎は子どもが好き。子どもが悲しむ姿は見たくなかった。
T その太郎は、子どもたちと一緒に白い鳥を世話していたね。どのような気持ちで世話をしていたのだろう。
C 太郎は、子どもが好きだし、みんなと一緒に育てようと思っていた。
C 子どもが好きで、鳥がいれば子どもが喜んでくれる。
T 子どもが好きだからという気持ちが強いのかな。
→太郎の「子どもが好き」という思いを押さえ、本時の中心発問を問いかけた。

T

太郎は、白い鳥を大切に世話していました。そのような中で殿様が来て、大切な白い鳥を撃ってしまおうとします。そのとき太郎は殿様に向かって、体全身で鳥を守りました。そして、「どうか助けてやってください」と言って大きな涙をこぼして殿様に頼みました。このとき、太郎はどんな思いで殿様の前に立ちはだかったのでしょう。
~ペアトーク~
C 動物の命をなくすのもいや。子どもたちの笑顔をなくすのものいや。だから守らないと。
C 太郎は、撃たれるかもしれない恐怖はあったかもしれないけど、子どもが好きという気持ちの方が大きかった。
C 鳥が撃たれるなら、自分の命は後でもいいと、一瞬そのときは思った。
T 一瞬って?
C そのあとに、撃たれてしまったら終わりだけれど、その時はできる限りやろうと思った。
C 自分が死んだら鳥も死ぬ。でも、自分の命も大切だけど鳥の命も大切。
T 自分の命が撃たれたとしても守りたいくらい、鳥が大切ということかな。
C 子どもたちの悲しい顔が見たくない。もし撃たれたら、子どもたちもどうしてあんなことをしたんだろうっていう気持ちになって悲しむ。太郎も、悲しい気持ちになる。
→子どもたちは、「太郎は子どもたちが好きだから」「動物を守りたい」という思いからこのような行動に至ったという考え多かった。
そこで、相手が「殿様」であることをもう一度おさえた。これは、導入で児童から発言があったように“たとえ立場の異なる相手でも、正しいことを伝えることができるか”という視点と重なる。また、ねらいとする価値にも迫ることができる。

T

みんなは、動物の命、子どもたちの思いを守りたいという思いでこのような行動をとったといっているけれど、相手は殿様だよ。こういうこと簡単にできますか。
C 言えない。絶対、言えない。
C 太郎もさすがに、全部が全部そういう気持ちではなく、怖さはあったと思う。でも、本当にいやなことをされたら、本当に怖さを忘れることってあると思う。ぼくもそういうことある。
C 子どもたちを笑顔にできるんだったら、何を言われても、何をされても、なんとか言おうという気持ちがあったと思う。子どもたちのため。鳥のために。
C 白い鳥の命は、子どもたちの笑顔とつながる。その笑顔を守りたい。
C 相手が殿様と忘れるくらい、そのときは鳥や子どもたちのことを考えていたのだと思う。
→児童は、たとえ相手が殿様であっても行動に移すことができた太郎の思いの強さを考えていた。また、怖さを忘れるくらい強く鳥を守ろうという気持ちであったことも児童は共感していた。
次に、その姿を見た村の子どもたちの思いを問いかけた。

T

それを見ていた、子どもたちはどんな思いだったでしょう。
C 太郎は勇気がある。だから、よわむし太郎ではない。
C よわむし太郎といってごめんね。
C 本当は勇気があってやさしい。
C もうよわむし太郎とは言わない。強い太郎だ。
C 殿様にも言えるなんて、ぼくたちにはできないな。
C 勇気があってすごい。
→児童は、太郎の「勇気」「感謝」「優しさ」について、自分たちの思いを村の子どもたちの思いに重ねて伝えていた。特に、「勇気」は本時のキーワードでもあった。これは、本時の課題でもある
「自分が正しいと思うことを伝えるためには、何が大切なのか。」
についての「大切なこと」につながると考える。
その後、太郎のように強い気持ちで正しいと思ったことを行動に移したことがあるかどうかを問い、自己を見つめさせた。


~児童の心のノートより~
○たまに、歩いていたりすると、ながらスマホをしていたり、音楽を聴きながら歩いている人を見る。いけないとわかってしてしまう。なので、太郎はやっぱりすごいと思う。
○わたしは太郎のようにえらい人や年上の人に向かって注意できたことはない。理由は、年上の人は自分よりも力が強いから。でも、クラスではだいたい言えることは言っている。そこをのばして太郎のように関係なく正しいことができるようにしたい。

【終末】
(教師が中学生だったころ、「いけないことはいけない」と思って行動に移した

4.考察

 児童は「自分が正しいと思ったことは、自信をもって行う」ということについて、自分とのかかわりで多様な視点から考えていた。
 本教材の太郎が考える「正しいこと」とは、「相手が誰であろうと、自分が守るべき大切なものを守り通すこと」であると考える。ここでは、相手が殿様であろうと誰であろうと、子どもたちが大切にしていた鳥を守り通すことである。自分の命までも討たれるかもしれない中、そう簡単にできることではないが、殿様の前に立ちはだかった太郎は、それだけ「勇気」「優しさ」そして「強さ」があることを全体で話し合うことができた。
 また、教材を通して本時の課題である「自分が正しいと思うことを伝えるためには、何が大切なのか」を自分とのかかわりで考えることができた。児童は太郎の姿から「勇気」「優しさ」「強さ」の外にも「守るべきものがある」ということも伝えるための支えとなることに気付くことができた。そして、「自分もそうでありたい」というこれからの思いをもつ児童もおり、それぞれの納得解を感じることができた授業だった。
 今後も引き続き児童の思いを大切にしながら、児童が物事を多面的・多角的に考え、道徳的諸価値の理解と自分自身との関わりの中で深めることができるよう授業を工夫していきたい。


◆座席表指導案