学び!とシネマ

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ライアン・ラーキン 路上に咲いたアニメーション(カナダ)
2009.08.31
学び!とシネマ <Vol.41>
ライアン・ラーキン 路上に咲いたアニメーション(カナダ)
たった4本の短編で世界を魅了した 忘れられた天才作家のすべて
二井 康雄(ふたい・やすお)

偶然の出会いと、アカデミー賞受賞作「ライアン」
そして、奇跡の復活へ

ライアン・ラーキン

 一口にアニメーションといっても、さまざまな表現がある。たまには、アート系の、おもしろさがたっぷり、見る側の想像力を刺激するようなアニメーションはいかがだろうか。

 ライアン・ラーキンの手になる「ライアン・ラーキン 路上に咲いたアニメーション」(トランスフォーマー、トルネード・フィルム配給)は、ラーキンの才気あふれる、数少ない短編アニメーション作品(全4作、もう1作は未完で、友人の手で完成)の集大成である。この5作に加えて、ラーキン自身を素材にしたドキュメンタリーふうのアニメーション「ライアン」と「ライアン・ラーキンの世界」が、同時に公開される。すべて短編、上映時間にして合計44分ほど。

 ラーキンは、1943年、カナダのモントリオールの生まれ。1960年代のなかば、勤め先のカナダ国立映画制作庁でその実力が認められ、3分の短編「シランクス」と、1分少しの短編「シティスケープ」を監督する。
 「シティスケープ」は、文字通り、町の風景。わずか1分少しの間に、田舎から都会にやってきた男の混乱や戸惑いが、柔らかなタッチの木炭画で描かれる。
 「シランクス」は、有名なギリシャ神話、ニンフのシランクスと半獣神パンの物語。パンに追い回され、混乱したシランクスは、葦に姿を変える。嘆き悲しんだパンは、その葦から笛を作る、という話である。これまた、木炭で描かれた作品だが、シランクスの変貌する様子が、なめらかに描かれる。音楽は有名なドビュッシーの無伴奏フルートによる「シランクス」。

 1968年、ラーキンは25歳にして、5分の短編「ウォーキング」を撮る。ただ、歩く人の動きを、丹念に描いているかと思いきや、少しずつ人の形が変貌、まるでインクのシミのようになっていく。これが、第42回のアカデミー賞の短編アニメーション賞にノミネートされ、いちやくラーキンは有名になる。

 その後、1972年に9分の短編「ストリート・ミュージック」を作る。これは、さまざまに姿を変えるモンスターたちが、楽しげにダンスを踊る。都会にあふれる人や物たちが、音楽の合わせて、いきいきと踊る。
 やがてライアンは、スランプに陥る。創作意欲が無くなったのか、重度のアルコール中毒になり、コカインにも手を出すようになったという。私生活でも不幸が続き、やがて、アニメーションの世界から去っていく。
 80年代は、ホームレスとなり、路上生活を経験、次第に、ラーキンの名は忘れさられていく。

 ところが、2000年、オタワ国際アニメーション・フェスティバルのディレクターから、ラーキンは審査員を依頼される。これがきっかけで、ふたたび、アニメーションの世界にカムバックしたラーキンは、2008年、監督5作目にあたる「スペア・チェンジ 小銭を」に着手する。
 自身のホームレス体験に基づくアニメーションは、未完のまま、ラーキンは肺がんで亡くなる。

 ラーキンのドキュメント2本、残された5本の作品から、ラーキンの描いた世界は、どのようなものなのか、考えてみた。もちろん、厳しい現実や、創作への夢や憧れは描かれるが、風刺や皮肉というより、ラーキンのアニメーションは、楽しく、美しい。なめらかに変貌する動きや色彩からは、限りない自由を感じる。
 若くして得た名声は、たちまち失うことになったが、アニメーションという表現で、自らを主張したラーキンの遺産は、見るべき価値があると思う。

2009年9月19日(土)、ライズXほか奇跡のロードショー

■「ライアン・ラーキン 路上に咲いたアニメーション」

ライアン』2004年 監督:クリス・ランドレス/第77回アカデミー賞短編アニメーション賞 受賞
ライアン・ラーキンの世界』2004年 監督:ローレンス・グリーン
シランクス』1965年 監督:ライアン・ラーキン
シティスケープ』1966年 監督:ライアン・ラーキン
ウォーキング』1968年 監督:ライアン・ラーキン/第42回アカデミー賞短編アニメーション賞ノミネート
ストリート・ミュージック』1972年 監督:ライアン・ラーキン
スペア・チェンジ 小銭を』2008年 監督:ライアン・ラーキン、ローリー・ゴードン
カナダ/計44分/スタンダード、アメリカン・ビスタ/ステレオ/デジタル上映