学び!とシネマ
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©nonfictionplanet
「草原のなかの潜水艦」とは、不可能、ありえない、という意味のたとえだそうである。映画「ピリペンコさんの手づくり潜水艦」(パンドラ配給)は、たとえではなく、草原に住むピリペンコさんが、本当に潜水艦を作って、黒海で運転しようとするドキュメンタリーである。
ウクライナの草原の村に住むウラジーミル・ピリペンコさんは、コルホーズ(集団農場)で、クレーンの運転手だった。今は定年となり、妻と同じ額の年金暮らし。
ピリペンコさんには夢がある。潜水艦を作って、黒海で潜ること。そして海のなかに入って、魚や海草など、あらゆる生き物と気持ちを通わせ合いたいと思っている。この夢を実現しようと、ここ20年、夜な夜な、イルカ号と名付けた潜水艦を作っている。
いくらメカに強いといっても、クレーンと潜水艦では、まるで違う。ただし、ピリペンコさんは、「水中スポーツマン」という雑誌を30年も読み続け、なんとか、潜水艦らしきものを作ってしまう。ふつうイメージする潜水艦と違って、ピリペンコさんのイルカ号は、ずんぐりしていて、スマートではない。
自宅はひまわり畑にかこまれた草原。子ども二人はもう大きくなって、独立している。今は、夫婦でトマトを栽培したり、牛や羊を飼っている。さりげない日常が、映し出される。
ピリペンコさんは、なんとか夢を叶えようと、一途に潜水艦作りに励む。気のおけない友人セルゲイが何かと手伝ってくれる。いっしょに潜水艦に乗せてあげるつもりである。
少ない年金をやりくり、奥さんに反対されながらも、より強力なバッテリーを買い揃え、準備はゆっくりながら進んでいく。
奥さんや子どもたち、村の連中も引き込みながら、近くの池で試運転となる。みんなが、はらはらして見つめるなか、潜水艦は池に入っていく。なんと、かなりの水が漏れる。
それでも、無事、リハーサルが終了。やっとのことで、イルカ号を牽引するトラックの手配も完了。二人は出発する。
黒海までは、ざっと400キロ。ちょっとしたロード・ムービーの趣きで、これまたほのぼのした旅である。
やっと黒海に着く。さて、どうやって、水際まで、イルカ号を持っていくのか? はたして、イルカ号は、水漏れがなく潜水できるのだろうか?
ほのぼの、笑って見ているうちに、夢や希望を持つことがいかに大切なことか分かってくる。心の豊かさとは、夢を持って、その夢の実現に向けて努力することである。ピリペンコさんの夢につき合ううちに、心がほんわか、豊かになっていくはずである。
11月14日(土)より、シアター・イメージフォーラムほか全国順次ロードショー
■「ピリペンコさんの手づくり潜水艦」公式Webサイト
山形国際ドキュメンタリー映画祭 市民賞受賞
監督:ヤン・ヒンリック・ドレーフス、レネー・ハルダー
2006年/ドイツ/カラー/ロシア語、ウクライナ語/90分
配給:パンドラ
宣伝:エスパース・サロウ